2018.02.21
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小規模校のための遠隔教育(vol.2)

前回、小規模校や少人数学級が抱える課題と、その解決策の一つとしてのテレビ会議システムを使った合同授業の取組を紹介しました。今回は、実際に遠隔合同授業を行うために必要なICT環境や、授業の代表的な流れ・ポイント等について紹介します。(右の画像は、文部科学省「遠隔学習導入ガイドブック 第二版」P.33より転載しています。)

遠隔合同授業を行うためのICTについて

遠隔合同授業を行うためには、遠隔会議システム、大型ディスプレイ、カメラ、マイク、スピーカー、児童生徒用タブレットPC等が必要です。

出典:遠隔学習導入ガイドブック第二版(P.4~5)より

出典:遠隔学習導入ガイドブック第二版(P.4~5)より

遠隔会議システム

離れた場所同士で映像や音声のやり取りを行うためのシステムで、ビデオ会議システムとWeb会議システムの2種類に分類されます。

ビデオ会議システムは、専用の機器を大型ディスプレイにつないで利用するもので、操作が簡単で、比較的安定して高品質な通話ができるという特徴があります。製品によっては、PCの画面や実物投影機の映像を共有できるものや、リモコンで相手校のカメラを遠隔操作できるものもあります。

Web会議システムは、PCに専用のソフトウェアをインストールして、市販のカメラやマイクをつないで利用するものです。すでに学校にあるPCやビデオカメラ等を使うことも可能で、ビデオ会議システムに比べて比較的低コストで導入できますが、一方で、PCやマイク、スピーカー、カメラ等の性能によって通話品質が不安定になることもあります。

マイク・スピーカー、カメラ

ビデオ会議システムを使う場合、マイクやスピーカー、カメラはシステムに付属している専用のものを使うことが多いですが、Web会議システムを使う場合、市販の製品の中から遠隔合同授業に適した機器を選ぶ必要があります。

教室という比較的大きな空間の中で、教員や個々の児童生徒の声を共有するためには、できるだけ高性能なマイクとスピーカーが必要です。授業に参加している教員や児童生徒が授業に集中するためには、普段の授業と同じ声量で話した言葉をちゃんと相手校まで届けることが重要です。

また、自校で発した声が相手校を経由して自校のスピーカーから戻ってきてしまうと、エコーやハウリングが発生して、会話を継続することが非常に困難となります。マイクとスピーカーの位置をできるだけ離すといった配置の工夫に加えて、エコーキャンセラー機能が搭載されたマイク・スピーカーを選ぶ必要があります。

カメラについても、教員の姿、板書、児童生徒の姿等、授業の中では様々なものを相手校と共有する可能性があり、アングルを自由に操作できるカメラがおすすめです。例えば、一般的な固定式のWebカメラではなく、ビデオカメラを三脚に据えて利用することで、教員自らが自由にアングル調整やズームを行うことができます。

大型ディスプレイ

左のディスプレイには相手校の生徒たちの様子、右のディスプレイには先生と黒板が映されている

出典:遠隔学習導入ガイドブック第二版(P.105)より

遠隔会議システムと接続して、相手校や教員の様子、板書やデジタル教材等を相手校と共有するために利用されます。授業の中では、同時に多様な情報を提示する場合が多く、スムーズに授業を進めるためには、最低2台の大型ディスプレイを利用することが望まれます。例えば、写真の授業では、左のディスプレイには相手校の生徒たちの様子、右のディスプレイには先生と黒板が映されています。

ネットワーク

通話品質はネットワーク帯域によっても大きく影響されます。十分な通話品質を維持するためには、一組の遠隔会議システムあたり1~2Mbps程度の帯域が必要です。後述のようにタブレットPCのWeb会議システム等を併用する場合、システムの数だけ帯域の確保が必要となります。導入する前に十分な事前検証を行うことが不可欠です。

遠隔合同授業の代表的な流れ

電子黒板に表示された自分のノートに書き込みながら、自分の考えを全体に発表する

出典:遠隔学習導入ガイドブック第二版(P.33)より

第1回でも述べたように、遠隔合同授業は近隣の学校同士をつなぐことで多人数での授業を実現し、児童生徒同士のコミュニケーションを通じて多様な考えに触れたり社会性を養ったりすることを目的としています。

従って、遠隔合同授業の中で行われる学習活動自体は普段の授業とそれほど異なるものではありません。ただ、児童生徒が大勢の前で発表したり、ほかの児童生徒と話し合ったりするような活動等、小規模校だけでは実施しにくい学習活動が多く実施されます。

児童生徒が発表や話し合いを行う場合は、その様子をカメラでとらえて相手校にも伝え、大型ディスプレイ越しにコミュニケーションを行います。授業中に資料を提示する際は、資料自体をカメラで撮影したり、デジタルデータを事前に転送しておくなどの手段で相手校とも共有します。例えば、写真の授業では、児童は電子黒板に表示された自分のノートに書き込みながら、自分の考えを全体に発表しています。

遠隔合同授業では相手校の様子を直接見ることができないため、児童生徒の考えを共有するために、児童生徒用タブレットPCを利用することが効果的です。授業支援システム等を使い、児童生徒用タブレットPCに書き込んだ内容を両校の大型ディスプレイに表示することで、両校の児童生徒の考えを把握したり、比較検討したりすることができます。

左:両校児童の画面を大型ディスプレイに表示して、ほかの児童の考えを確認する 右:自分の情報端末の画面を大型ディスプレイに提示しながら、考えを発表する

出典:遠隔学習導入ガイドブック第二版(P.36)より

また、両校をつないだグループ学習でもタブレットPCがよく使われます。グループごとにタブレットPCを準備し、タブレットPC上のWeb会議システムを使うことで、グループごとに話し合い活動等を行うことができます。

左:相手校の生徒に対して自分の考えを発表 右:相手校の児童とグループ活動をする

出典:遠隔学習導入ガイドブック第二版(P.7、107)より

なお、遠隔学習導入ガイドブック第二版では、遠隔合同授業の効果を期待しやすい学習場面として、(1)発表や他者への説明、(2)議論や話し合い、(3)考えや意見の出し合い、(4)協働制作、(5)情報の集約、(6)互いの特徴や相違点の伝え合い、(7)遠隔にある教育資源の活用の7項目が挙げられています。

出典:遠隔学習導入ガイドブック第二版(P.38~39)より

出典:遠隔学習導入ガイドブック第二版(P.38~39)より

遠隔合同授業を行う際のポイント

ここで遠隔合同授業を効果的に行うためのポイントを3つ紹介します。

1.ICT機器の配置について

出典:遠隔学習導入ガイドブック第二版(P.100)より

出典:遠隔学習導入ガイドブック第二版(P.100)より

効果的な遠隔合同授業を実施するためには、両校の児童生徒が同じ空間で授業を受けているような一体感を作り出すことが重要です。そのためには、教員と児童生徒、両校の児童生徒同士の視点を一致させることがポイントです。

通常、教員は教室前方から児童生徒の方を向いて授業を行います。遠隔合同授業の相手校の児童生徒が教員と正対するためには、相手校の児童生徒を映す大型ディスプレイを教室後方に配置して、教員を写すカメラを大型ディスプレイと同じ場所に設置する必要があります。一方、相手校では、教員が映っている大型ディスプレイを教室前方に配置します。

また、資料を大型ディスプレイに提示する場合、教員と資料の位置が離れていると、資料を提示するたびに児童生徒の視線が大きく移動してしまうため、教員や黒板の近くで資料が提示することが望ましいと考えられます。したがって、教材提示用の大型ディスプレイは両校とも教室前方に配置することが求められます。

従って、授業進行を担当する教員がいる教室では前後に1台ずつ、相手側の教室では教室前方に2台の大型ディスプレイを配置することで、より一体感のある遠隔合同授業を行うことができます。

2.学校時程の調整

遠隔合同授業を行う学校同士で学校時程がずれている場合、その調整に非常に時間がかかります。したがって、継続的に遠隔合同授業を行おうとする場合は、年度開始当初より、学校間で時程を統一しておく必要があります。すべての時程を統一することが難しい場合、例えば午後の授業時間のみ統一するなどの工夫が必要です。

遠隔学習導入ガイドブック第二版(P.51)より

遠隔学習導入ガイドブック第二版(P.51)より

3.両校が打ち解けあうための工夫

出典:遠隔学習導入ガイドブック第一版(P.32)より

出典:遠隔学習導入ガイドブック第一版(P.32)より

遠隔合同授業は、児童生徒の立場からすると、普段接することのない他校の教員から直接指導を受ける機会となり、ただでさえ他人と触れ合う機会の少ない児童生徒が緊張してコミュニケーションをとれないことになりかねません。

従って、児童生徒が普段と同じようなパフォーマンスを出せるよう、事前にお互いに慣れ親しむ時間を確保しておくことが重要です。例えば朝の会や昼休みの時間を利用して、両校が交流する場を作ったり、年に数回程度、直接会って交流しあう機会を作ることも有効です。

また、両校で一体感を持った授業を行う上で、教員は相手校の児童生徒を指名する際、ちゃんと名前で指名してあげることが欠かせません。例えば、事前に相手校の児童生徒の顔や座席表を共有しておいたり、机の上にネームプレートを置くことも効果があります。

このように、文部科学省「人口減少社会におけるICTの活用による教育の質の維持向上に係る実証事業」での事例を基に、遠隔合同授業について簡単に紹介しました。今後多くの地域でさらに少子化、過疎化が進むと予想されています。ICTを適切に活用することで、小規模校の課題をできるだけ低減し、教育の質を維持向上することが期待されています。

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 井上信介

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