2019.08.27
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意外と知らない"教員の働き方改革"(第2回) 給特法、「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」

近年の公立学校の教員の長時間労働については、民間企業と比較して待遇面で望ましくないことも問題点の一つだといわれています。第二回は公立学校の教員の長時間労働やそれに対する待遇のどこに課題があるのかを法律の観点から探ります。また、教員の働き方改革が現在どれほど進んでいるのかも併せて見てまいります。

長時間労働が不当といわれる原因<給特法・労基法>

公立学校の教員が翌日の授業準備や部活動指導のために長時間労働をして超勤をした場合、残業代は支払われず、しかもそれは合法的です。なぜなら、「給特法」(正式名称:公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)にそれが定められているからです。
給特法とは、公立学校の教員に適用される法律で、1971年に制定、1972年に施行されました。公立学校の教員には基本的に労働基準法が適用されます。しかし、時間外労働・休日労働については、割増賃金(残業代)の支給義務を定めた第37条の適用外であり、代わりに給特法第3条第2項「教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない」が適用されます(表1)。
この給特法を適用すると、授業準備や部活動指導のためにどれだけ超勤が発生しても、「超勤4項目」と呼ばれる業務に当てはまらない、つまり「自発的勤務」であるという理由で労働時間が労働時間と見なされません。給料月額4%の教職調整額が支給されるだけです。それが公立学校の教員が「定額働かせ放題」といわれる所以なのです。

表1 労働基準法と給特法の比較
労働基準法 公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法
(時間外、休日及び深夜の割増賃金) 第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。(以下、省略) 第三条 教育職員(校長、副校長及び教頭を除く。以下この条において同じ。)には、その者の給料月額の百分の四に相当する額を基準として、条例で定めるところにより、教職調整額を支給しなければならない。
2 教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない。(以下、省略)

では、この「4%」という数字はどこから導き出されたのでしょうか。1966年に実施された「教員勤務状況調査」を見てみますと、1週間における時間外労働の合計が小中学校で平均1時間48分と算定されています。この、50年以上も前の調査で示されたデータを基に、残業代は月給の4%であると読み替えられ、今日まで至っているのです。超勤の実態は、2016年で小学校18時間40分、中学校24時間33分であることを考えると、月給の4%ではあまりに実態とかけ離れています。教職は専門職ですが、休日の大会や練習試合の引率等は、自己裁量の範囲外なのではないでしょうか。
(超勤がこの50年で増えた理由の一つは、学校に求められる業務の幅が広がったためです。詳しくは前回の記事をご覧ください。)

ここで問題となるのが、「定額働かせ放題」であるがために、企業とは異なって公立学校の管理職の先生方は、長時間労働を減らす動機づけを高めづらいということです。また、さらに問題なのが、長時間労働が原因となって何らかの不利益が生じた場合です。出退勤時刻の管理は労務管理の基礎であるにもかかわらず、それを記録する機器(タイムレコーダーやタイムカード)が無いため、長時間労働の証拠が残されていないことになります。

教員の働き方改革の動向

教員の労働環境を是正するために、下記の2つの視点の異なるアプローチがありますが、いずれにしても財源確保という大きなハードルがあります。

  1. 給特法の遵守……(人を増やすなどして、)長時間労働をしない
  2. 給特法の廃止……全面的に労働基準法を適用し、時間外労働であることを認めさせる

教職調整額を実態に合わせると、小学校が30%弱、中学校が約40%となることから、公立校教員が“ただ働き”してきた額は年間約9000億円と試算されています。遵守ならば、約9000億円分の仕事を先生以外の誰かが担う必要があります。廃止ならば、残業代として平日の場合は1.25倍の割増賃金が発生するので、9000億円以上の支払額が必要です。
教員の働き方改革は、教員が長時間労働に関して声を上げ、文部科学省が「学校における働き方改革に関する緊急対策」をとりまとめた2017年以降加速しています。以下では教員の働き方改革の動向を追います。

1.「在校等時間」定義の見直しと上限の設定

まず、2019年1月の文部科学省・中央教育審議会にて策定された「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を紹介します。「超勤4項目」だけでなく「自発的勤務」と整理されてきた、授業準備や部活動などの業務も、「在校等時間」と認められるようになりました(表2)。また、「在校等時間」の目安時間も定められ、①1か月の在校等時間については超過勤務45時間以内、②1年間の在校等時間について、超過勤務360時間以内となりました。これによって、従来以上に、管理職の先生方に長時間労働を減らす動機づけを持っていただくこととが可能となります。
表2 在校等時間と見なされる業務の範囲
業務 「在校等時間」の分類
生徒の実習に関する業務 以前から「在校等時間」と見なされていた「超勤4項目」。
学校行事に関する業務
教職員会議に関する業務
非常災害等のやむを得ない場合の業務
授業準備 2019年から新たに「在校等時間」と見なすことになった業務。
部活動
生徒指導
学校経営・事務的業務
自発的に行う自己研鑽 「在校等時間」とは見なされない。
その他、業務外の時間

2.校務の分担

2019年1月に中央教育審議会によって出された「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」では、教員の業務と捉えられてきた下記表3の①~⑭の業務を、それぞれ「基本的には学校以外が担うべき業務」、「学校の業務だが、必ずしも教師が行う必要のない業務」、「教師の業務だが負担軽減が可能な業務」の3種類に分類しています。
全国の学校で共通して行われている業務の多くは下記①~⑭のいずれかにあてはまるとのことなので、読者の先生方も、ぜひ身の回りの業務を上記3種類に当てはめてみてください。

表3 学校及び教員が担う業務の明確化・適正化
業務内容 負担軽減のアイデア
基本的には学校以外が担うべき業務(教員が担わなければならないものではない)
登下校に関する対応 諸外国では、保護者等が担っている例が多い。
国内の地方自治体の中では、スクールガード・リーダーや地域住民による見守り活動等による安全確保の取り組みが行われている例もある。
地方公共団体等が中心となって、学校・関連機関・地域の連携を一層強化する体制を構築する方針がある。
放課後から夜間などにおける見回り、児童生徒が補導されたときの対応 地方公共団体の中では、自治会や警察機関等と生徒指導上の課題について共有したうえで、保護者・PTAと地域住民による夜間パトロール、声掛けを徹底している例もある。
学校徴収金の徴収・管理 未納者への督促等を含め、徴収・管理を地方公共団体の職員の業務とすることで、学校の負担軽減と徴収率向上を実現している例もある。
地域ボランティアとの連絡調整 多様な人材確保のための連絡調整に学校の時間が取られてしまう恐れがあるので、地域学校協働活動推進員等が担うべき。
学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務(校内で行われるものだが、教員免許は必ずしも必要がない)
調査・統計等への回答等 教師の専門性に深く関連する質問項目以外については、事務職員等が中心となって回答する。
児童生徒の休み時間における対応 地域ボランティア等の協力を得つつ、教員が輪番によって対応する。
校内清掃 諸外国では教員が校内清掃の指導を担っている例は少ない。
国内の地方公共団体の中には、地域の高齢者が参加し、児童生徒と交流を図りながら実施している例もある。
地域ボランティア等の参画や民間委託等を検討するなどして、輪番によって負担を軽減する。
部活動 児童生徒がバランスの取れた心身の成長と学校生活を送ることができるようにするためにも、活動時間を抑制する
そのうえで、学校職員として実技指導等を行う部活動指導員外部人材を積極的に参画させる。
生徒や教員数、部活動指導員の参画状況を考慮して、部活動の設置数を適正化する。
複数校による合同部活動や総合型地域スポーツクラブ等の地域のスポーツ・文化団体、社会教育施設等との連携を進める。
勝利至上主義を助長しない
教師の業務だが、負担軽減が可能な業務(教員が担うべき業務)
給食時の対応 食物アレルギーをもつ児童生徒の緊急時対応について、教職員間で具体的・確実な体制を確保しておく。
ランチルームなどで複数学年等が一斉に給食をとる。
学級担任と栄養教諭等との連携等
授業準備 優れた授業の実践事例や授業改善のための個別課題に応じた研修プログラムをオンラインで提供する取り組みを活用する。
教材の印刷や物品の準備のような補助的業務、理科の実験や観察の準備・後片付け等の支援をスクール・サポート・スタッフや理科の観察実験補助員が行う。
学習評価や成績処理 宿題の提出状況の確認、単純な丸付けなどの補助的業務はスクール・サポート・スタッフを参画させる。
学校行事の精選や内容の見直し、準備の簡素化を進めるとともに、地域や学校の実情に応じて地域行事と学校行事の合同開催など、効果的・効率的な実施を検討する。
学校行事の準備・運営 必要な物品の準備、職場体験活動受け入れ企業への日程調整、修学旅行の運営等は事務職員や民間委託等外部人材が担う。
進路指導 事務職員や民間企業経験者、キャリアカウンセラーなどの外部人材等が担当する方が効果的にと考えられたら、そのようにする
支援が必要な児童生徒・家庭への対応 スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、特別支援教育の支援のできる専門的な人材、日本語指導にかかる支援員の方が効果的ならば、教師と連携させる。
いかがでしたか。ご紹介したような国や学校を挙げての取り組みだけでなく、先生がたの多大な業務を軽減するような便利なツールを導入するとか、ICT環境の活用によって先生間で授業資料を共有するなど、身近なところから工夫することで業務の時短につながる可能性もあります。学校の内外から、教員の働き方改革を進めていくことが大切だと思います。

構成・文・イラスト:内田洋行教育総合研究所 研究員 長谷部

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