2016.12.07
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意外と知らない"教育と予算"(vol.1)

平成28年度における国の一般会計予算は総額で約96.7兆円となっており、そのうち教育を所管する省庁である文部科学省は約5.3兆円の予算となっています(全体の約5.5%)。金額があまりに大きすぎて実感が湧かない数字だと思いますが、これらのお金は実際に教育分野にどのように使われているのでしょうか。そこで、今回から2回にわたり、「教育と予算」について紹介したいと思います。

予算は誰が決めるの?

まず前提として、日本の予算制度について簡単に説明します。日本では憲法第83条に、「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、これを行使しなければならない。」と定められており、国の財政処理を国民の代表機関である国会の統制下に置くという、財政立憲主義が取られています。

また、これを踏まえ、第86条で「内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。」と定められています。

つまり、内閣は予算案を作成し、国会に提出、国会はその審議を経て当該案を承認するという法律の制定に準じたプロセスで予算が確定されることとされています。

この「内閣は予算案を作成」の部分で、実質的にはそれぞれの分野の専門家である各省庁が、次年度以降の必要性等に応じ予算案を財務省と折衝することとなります。

国の一般会計予算
国の一般会計予算

出典:国税庁HP「歳出~文教及び科学振興費~」

教育にはどれくらいの予算が?

では、教育分野の予算を見てみましょう。

前述の文部科学省予算の約5.3兆円のうち、文教関係予算は約4.1兆円となっており、その差分は科学技術振興費や文化庁、エネルギー関係の予算となっています。

この4.1兆円については、国全体の予算からすると約4.2%にすぎませんが、具体的にこれらの文教関連予算は何に活用されているのでしょうか。

文教関連予算
文教関連予算

出典:財務省HP「平成28年度文教・科学技術予算のポイント」

義務教育費国庫負担制度

最も大きいのが義務教育費国庫負担金で、約1.5兆円が計上されています。憲法第26条では義務教育の無償化が規定されていますが、無償というだけではなく、その質を担保することも必要となります。教員の給与は、優れた人材を確保し、義務教育水準の維持向上を図る目的から、一般の公務員より優遇することが人材確保法で定められていますが、この給与について、国が一部を保障することが義務教育費国庫負担制度です。

従来は2分の1を国と自治体で負担することとされていましたが、旧小泉政権下のいわゆる「三位一体の改革」で、国の補助率が3分の1に引き下げられました。それでも、義務教育の質を担保する観点から教員の給与は極めて重要な位置づけとされており、文教予算の中で最も大きな予算となっています。

因みに、市区町村立学校の教員給与は、本来であれば該当市区町村が拠出すべきところ、優秀な教職員の安定的な確保と、広域人事による適正な教職員配置のため、都道府県が全額負担することとされています(市町村立学校職員給与負担法)。そのため、義務教育費国庫負担は、原則都道府県に対して行われています(義務教育費国庫負担法)。

なお、政令指定都市では教職員の人事権が委任されていましたが、給与負担の決定権は都道府県にあるという「ねじれ」が存在していました。そのため、第4次一括法(地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律)において、給与権限も政令指定都市に移譲され、義務教育費国庫負担も政令指定都市に対し行われることとなりました。

教育振興助成費

次いで、国立大学法人運営費交付金等として1.1兆円が、私学助成関係予算や高校生等への就学支援として0.4兆円がそれぞれ計上されています。

国立大学法人運営費交付金は、2004年の国立大学法人化に伴い、各国立大学法人の収入不足を補填するための補助金で、「国立大学が高い質を確保しながら自律的、持続的な経営を続けていくため、今よりも運営費交付金に頼らず、自らの収益によって経営力を強化していくことが必要」(財政制度等審議会)等の指摘を踏まえ、近年各大学の取り組みを文部科学省が評価し、一部再分配を行う等の工夫が講じられています。

私学助成「私立大学等経常費補助金」は、私立大学の教育環境の向上や学生の負担軽減などを目的に一定額を補助するものです。なお日本の大学・短期大学の8割を私立が占めています。

高校生等への就学支援「高等学校等就学支援金制度」は、高等学校等に通う一定の収入額未満の世帯の生徒に対して、授業料に充てるため学校設置区分や年収に応じて一定額が支給されるものです。多くは高校に直接国から支援金が支給され、支援金を差し引いた授業料を生徒側が納付します。

なお、これらの国公立大学法人や私立学校の援助、教科書無償給与等、私達が学習できる環境を整備するための費用は総称して「教育振興助成費」と呼ばれており、約2.3兆円が計上されています。文部科学省の各種調査研究費用やスポーツ振興費用等もこの「教育振興助成費」に含まれてきます。

これら以外にも校舎の新増築等を含む文教施設費等が予算に計上されています。

文教関連費内訳
文教関連費内訳

出典:国税庁HP「歳出~文教及び科学振興費~」

では、私達が学校で活用する教材教具や、ICT機器はこの「教育振興助成費」に含まれているのでしょうか。また、前述した教員給与の残りの3分の2はどのように補填されているのでしょうか。

これらは、「地方交付税」に含まれています。次回はこの地方交付税について説明したいと思います。

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 志儀孝典

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