2019.08.26
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意外と知らない"教員の働き方改革"(第1回) 長時間労働の原因

通学経験があれば誰もがお世話になったことのある、「学校の先生」。その学校の先生の長時間労働が今、課題となっています。過労死と認定された公立学校の教職員数は2016年までの10年間で63人にも上ります。過労死にまで追い込まれる先生をこれ以上出さないように、働き方改革を推進することは国内において非常に大切な課題です。
また、労働時間が長いだけでなく、残業代の支払いにも現実との不整合が生じているのではないかといわれています。
そこで、今回は2回にわたり「教員の働き方改革」をテーマに取り上げます。第1回は教員の長時間労働時間の原因を探ります。

どれくらい“長時間”なのか

図1 各国の中学校教員の1週間当たりの労働時間の合計

(TALIS2018調査参加国からG20を抜粋)

皆さんは、国際的に見ても日本の教員の労働時間が長いことをご存知でしょうか。
経済協力開発機構(OECD)では、各国の学校が抱えている多様な課題を明らかにすることを目的として、各国の教員や校長に対して自校の職場環境や学習環境についてのアンケート調査を実施しています。国際教員指導環境調査(TALIS、読みは“タリス”)とよばれる調査です。
図1をご覧ください。2019年6月に発表されたTALIS 2018の調査結果によると、小中学校ともに、日本の教員の1週間当たりの仕事時間の合計は、調査参加国48か国の中で最長でした。調査参加国平均(中学校)が38.3時間であるのに対して、日本の中学校は56.0時間、小学校は54.4時間であることが示されました。平均が50時間を超えた国は日本だけです。

図2をご覧ください。TALIS2018によれば、日本の中学校教員は諸外国と比較して「課外活動の指導(例:放課後のスポーツ活動や文化活動)」の時間が特に長いことがわかります。そのほか、小中学校共に「一般的な事務業務(教員として行う連絡事務、書類作成その他の事務業務を含む)」が長い傾向にあるほか、「学校内外で個人で行う授業の計画や準備」、「学校内での同僚との共同作業や話し合い」、「学校運営業務への参画」に従事した時間も長くなっています。
日本をはじめとする一部の国では、中学校の先生は小学校の先生よりも、授業準備に時間を費やすことができていません。中学校の先生は小学校の先生よりも、課外活動や生徒指導、生徒が提出した課題の採点や添削に時間がかかっています。日本はその傾向が特に著しく、中学校の先生の方が一週間当たり約7時間多く課外活動に時間を費やしているという調査結果が出ています。先生ご自身、授業づくりに熱を込めていらっしゃることを考えると、その授業準備のための時間を十分に確保できておらず、もどかしい思いをされているだろうと残念でなりません。

教員の労働時間は、昔からこれほど長かったのでしょうか。1966年の「教員勤務状況調査」では、1週間における時間外労働の合計は小中学校で平均1時間48分だったのに対し、2016年の調査では小学校18時間40分、中学校24時間33分であることが示されており、大幅に増えていることがわかります。2006年の教員勤務実態調査結果と比較しても、増加傾向にあります。

表1 教員の1週間当たりの時間外労働時間(1966年と2016年の比較)
1966年 2016年
小学校 1時間48分 18時間40分
中学校 24時間33分

長時間労働の原因

では、なぜ近年の日本の教員はこれほど長時間労働なのでしょうか。
まず、国際的に見てどうなのでしょうか。図3をご覧ください。「初等中等教育分野におけるKPI及び工程表について」(2015年度)によると、日本の「学校」と諸外国の「スクール」の在り方は大きく異なるとあります。諸外国の教員の業務は主に授業に特化している一方で、ご存知の通り、日本の教員は教科指導(知)だけでなく、生徒指導(徳)、部活動指導(体)なども併せて一体的に行っています。

中学校の「課外活動の指導(例:放課後のスポーツ活動や文化活動)」に該当する部活動指導は、長時間労働の主要因となっているだけでなく、下記の点でも課題を残しています。

部活動指導の課題
  • 未経験のスポーツ活動・文化活動での顧問担当となると、自助努力が強いられる
  • 土日の出勤に対する手当はごくわずかである
  • 事故が起きた場合の責任が問われる
  • 教員のボランティア精神に依存して運用されている

次に過去と比べて、今日の長時間労働の原因を見ていきます。図4をご覧ください。従来の学校の役割は、授業・生徒指導・部活動・学校行事の4つであったのに対し、現在の学校の役割は拡大しています。
第一に、学習指導要領の改訂に基づき、授業内容が濃密になりました。遡ると、インターネットが普及したら情報教育が取り入れられ、国際化によって小学校でも英語を教えるようになりました。新学習指導要領を見ると、小学校では2020年度からプログラミング教育が必修化されようとしています。「対話的な学び」を実現するための学級内の良好な人間関係づくりも必須になってきます。
第二に、授業以外の側面で学校へのニーズが高まりました。学校内のいじめ問題への対応など、心理・福祉面の支援が求められています。それだけでなく、悪天候や不審者などによる危険が及ばないよう、通学路の安全確保も必要とされています。これらは近年急に出てきたというよりも、従来から存在していたものの見過ごされてきた問題が、重大な事件をきっかけにマスコミが過熱し、見直されてきた結果と言えます。
その他、学校は、子供の貧困の深刻化、障害のある児童生徒や日本語指導が必要な外国人児童生徒の増加などへの対応も学校の役割拡大の背景として挙げられます。

勤務時間の内訳を見ます。図5をご覧ください。学校1校(教員数20名の中学校)あたりの1週間の総勤務時間は1,021時間36分から120時間増加し、1,144時間36分と試算されます。年間に読み替えると、5,760時間の増加です。業務別に見ると、授業の時間は変わりませんが、生徒指導の時間は5.4倍、部活動は2.8倍、学校経営・事務的業務は1.4倍に膨れ上がっています。逆に、授業準備時間は0.7倍、研修は0.3倍、休憩は0.3倍であり、時間が縮小されています。そして、残業時間の増加は最も大きく、6.4倍です。

以上、国際比較や過去との比較で見ると、今日の日本の先生が長時間労働となっていることは明らかです。日本の教員は教科指導(知)だけでなく、生徒指導(徳)、部活動指導(体)なども併せて一体的に行っているため、海外から高く評価されています。しかし、そのような評価を受けるほどの高度な教育が先生たちの犠牲のもとで成り立っているのであれば、決して手放しで喜ぶことはできません。学校業務のスリム化を図るため、対策を打つ必要があるといえます。
次回は、教員の残業問題の根底にある法的な課題や、今後の働き方改善へ取り組みに迫ります。

構成・文・イラスト:内田洋行教育総合研究所 研究員 長谷部

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