2018.08.15
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意外と知らない"大規模学力テスト"(第3回) CBT(Computer Based Testing)

第1回では日常的な学校でのテストから、大規模学力テストの最近の動向について、第2回では大規模学力テストにおける採点の難しさや、当社の行ってきた工夫、今後の可能性等について紹介しました。最終回となる第3回では、パソコンやインターネットを利用したテスト(CBT)のメリットや課題について紹介します。

CBTとは

CBTとは、コンピュータベースドテスティング(Computer Based Testing)の略称で、頭文字をとってCBTと呼ばれています。パーソナルコンピュータ(パソコン)を利用し、マウスやキーボードを使って解答するテストをこのように呼びます。また、特にインターネットを利用するものをIBT(Internet Based Testing)と呼ぶこともあります。これに対比する意味で、今までの紙と鉛筆(Paper&Pencil)のテストをPBT(Paper based Testing)と呼びます。

CBTは日本ではまだ一般的ではありませんが、受験機会(日程、場所)を増やせる、結果がすぐに分かるなど多くのメリットがあります。現在、民間では、英語の能力を測るTOEFL・TOEIC、情報処理技術能力を測るITパスポート試験や、医学の分野でも共用試験といった形で既にCBTの利用が始まっています。

なおCBTは、大きなくくりではいわゆるeラーニングといわれるものに含まれます。今までもeラーニングのシステムでは、学習後に理解度を確認するためにテストを実施することは行われてきました。これに対し、昨今の学校教育におけるCBTは、もう少し狭い意味で使われており、期末試験や入試のような、受験者にとって今まで学んできたことの成果を測るテストについてCBTと呼んでいます。つまり、“ラーニング”は含まない、学校ですでに学んだ(ラーニング)ことを、パソコンを使って測定するものと認識されていて、デジタルドリルのような教材はCBTとは呼ばれていません。

CBTが浸透してきている背景

では、なぜパソコンを利用してテストを受けるのでしょうか。いままで、長い間紙と鉛筆を利用して行われてきたテストが、今なぜCBTという形に変化してきているのでしょうか。

社会の変化により、以前は紙と鉛筆で行われていた多くの作業が、現在ではパソコンを利用して行われるようになっています。学校での勉強やテストも例外ではありません。情報をやり取りする手段も、インターネットの普及に伴い、郵便や電話から、eメール、LINEやTwitterに代表されるSNSに変化してきています。

世界でも、テクノロジを有効に利用できる能力の必要性が提唱されています。例えば「21世紀型スキル」の「情報通信技術に関するリテラシー(ICTリテラシー)」や、欧州委員会(EC)の生涯学習におけるキーコンピテンスの「デジタルコンピテンス」として定義されています。今後子供たちが社会に出たときに、文房具や電卓のようにパソコンやインターネットを使える必要があると世界的に認知されているからです。

今世の中を見れば、銀行、鉄道、放送などどれもコンピュータを利用した仕組みで成り立っています。これを利用できるのは当然として、仕組みを十分理解し、安全安心に利用できる、さらにはそこから新しいサービスや製品を世界に対して生み出していくための知識・スキルも必要になってきています。

CBTのメリット

下記のように、CBTには紙のテストにはないメリットが多くあります。

CBTPBT
出題・
解答方法
コンピュータを利用してマウスやキーボード、音声で解答する 紙を使って、鉛筆等で解答する
メリット
  • いつでもどこでも受験できる
  • 容易に画面を拡大縮小できる
  • 音声や動画による出題ができる
  • 画面上で操作をさせる問題を出題できる
  • 解答に要した時間を記録できる
  • 選択式問題であれば、試験実施後すぐに、結果がわかる
  • 受験者ごとに別の問題を出題できる
  • オンライン方式の場合、配送などのコストが大幅に削減できる
  • 受験会場は事前準備がほぼ不要である
デメリット
  • 受験用端末を準備する必要がある
  • 日本ではまだ一般的ではないためCBTの受験に慣れが必要である
  • 受験者のパソコン操作スキルにより結果に影響が出る可能性がある
  • (多人数の場合、特に)問題・解答用紙の配送・回収、採点に多大なコストが掛かる
  • 空間的、時間的な制約がある

例えば、採点が自動化されるというメリットがあります。

紙のテストでは、答案を先生が1つ1つ採点をしなければいけませんでした。これに対し、CBTでは、選択式・短答式の問題においてはほぼ自動化されます。自由記述問題の採点では少し手間がかかりますが、手書きの文字に比べ、キーボードから入力されたテキストを読み取るのは非常に容易ですし、キーワードが含まれているかの確認などはある程度自動化できます。また、ある問題に正答できた受験者には難しい問題、正答できなかった受験者には易しい問題を出題していき、同じ時間でより細かく能力を測る機能を持ったシステムもあります。

全国学力・学習状況調査のように、採点、集計された結果がデータとして提供される場合を除けば、正答率や、子どもの理解度などを可視化・分析しようと思った場合、設問ごとの採点結果を1つ1つ入力する必要があります。具体的な解答内容を後で振り返ることも容易ではありません。これに対し、CBTでは解答や採点結果はデータになっているので、スキル別の正答率や、弱点・理解不足のポイント等について、ツールを使った可視化・分析も容易になります。

PISA2015年予備調査問題

PISA2015年予備調査問題

また、テストの仕組みによっては、紙のテストでは実施しにくいような試行錯誤が必要な問題の出題が可能になるというメリットがあります。
OECD PISA調査で行われるような、与えられた状況をもとにシミュレーションを実行して結果を導く、つまり知識を測る(知っているかを確認する)だけでなく、初めて向き合う状況に対して知っている知識や与えられたツールを活用し解答を導き出すような能力の測定を目的としたテストを作成するのにもCBTは有効です。

受験者にとっては、受験機会(日程、場所)が多くなるというのが大きなメリットです。テストの日に体調を崩してしまって実力を出せなかったということが回避できます。例えば、アメリカの大学受験のためのテストであるACT(American College Testing Program)は、1年に7回実施されます。日本でも受験できます。いつどこで何回受けてもよく、このテストの結果を志望大学に提出します。大規模なテストであっても、項目反応理論(IRT)を利用した科学的に同一の(期待正答率の和が等しくなるように問題を組み合わせて作成される)テストをいつでも受験可能とする方式が世界的に主流になってきています。

他にも、受験者の操作履歴から、それぞれの問題にすぐ解答できたのか、悩んで解答したのか、かかった時間から分析して、その受験者にとってこの問題が易しいのか、難しいのかを明確にできるなどのメリットがあります。

海外におけるCBTを用いた大規模学力テストの事例

世界的に大規模なCBTで広く利用されているテストシステムTAO(タオ)を用いたCBTの事例として、OECD PISA調査とフランスの全国学力調査を紹介します。

<事例1>OECD PISA調査

TAOを問題のプール(ITEM BANK)として利用し、英語の問題を各国で翻訳して実施しています。各国のICT普及の実態や受験環境に合わせて、オンライン方式や、ローカルPC(オフライン)方式、PBT方式から選択し、どの国でもほぼ同一の問題を受験可能としていましたが、2015年からは原則的にCBT方式へと移行しました。問題には難易度やその問題で測りたい能力が定義されていて、テスト実施後に速やかにそれぞれの能力を分析することが可能になっています。

<事例2>フランスの全国学力調査

フランスでの学力調査は、紙で実施されてきましたが、TAOを利用したCBT方式に変更し、2017年には6年生83万人が3週間をかけて受検しました。(フランスでは小学校5年間・中学校4年間なので、中学校1年生。)問題・解答用紙等の配送コストの低減と、採点の効率化ができただけでなく、いわゆる情報活用能力の測定もできたそうです。
さらに、フランスでは、近隣の国々と手を組んで問題プールの共通化を図り、作問やシステム開発コストの低減を目指しています。

TAOは、ルクセンブルクのOAT(Open Assessment Technologies)社が開発している製品です。オープンソース(プログラムの無償公開)なので誰でも利用可能であり、オープンテクノロジ(国際標準規格準拠※)なので同じ規格に準拠している別のシステムと問題を共有したり、解答を相互利用したりできるという特徴があります。多くの教員が作成した問題を同じ規格で登録・共有できるようになれば、測るべき分野スキルに合わせて最適な問題をピックアップすることでテストの作成時間も短縮できると期待されています。
※IMS Global Learning Consortium策定の、テスト・ドリルの国際的標準規格QTI(Question and Test Interoperability)及び、学習支援ツールの相互利用を保証する国際的な標準規格LTI(Learning Tools Interoperability)に対応しています。

日本におけるCBTに関する検証の動向

英語予備調査の問題

英語予備調査の問題

日本でもCBTを利用して学力調査等を実施する試みが始まっています。

2013年には、小学校5年生と中学校2年生合わせて約7千人を対象に、CBTを利用した情報活用能力調査が実施されました。また、2016年には高校生のための学びの基礎診断の試行調査で、約5千人がCBT方式でテストを受けました。2018年5月には、全国学力・学習状況調査の英語予備調査のスピーキング能力を図る問題に、中学3年生約2万人がCBTで解答しました。

大学入試への導入と課題

「大学入学共通テスト」へのCBT方式導入の調査・検証も行われていますが、当然課題もあります。

まず、パソコンで受験するので、受験会場(主に高校が想定されています)は一定の期間に全ての希望者が受験できる台数のパソコンを用意する必要があります。紙のテストでは、空き教室を利用すれば済むのに対し、正常に動作するパソコンを設置し、電源を確保し、一斉にテストできるネットワークを整備する必要があります。パソコンが古くて動かなかったり、テスト中にブレーカーが落ちてしまったり、ネットワーク回線がパンクしてしまったりするとテストが受けられません。

また、学校で十分な指導がされていないために、パソコンの操作スキルや、記述式解答のためのタイピング能力が不十分な受験生も少なくありません。例えるならば、箸をほとんど使ったことのない人に、いきなり箸で蕎麦を食べるように求めているようなことになってしまい、この部分を早急に学校としては対応する必要があります。2015年のPISA調査で日本の読解力が低下した一因として、CBTに対する戸惑いがあったとも言われています。

多くの学校には、すでにコンピュータ教室が整備されています。しかし、パソコンを紙と鉛筆を使うように利用させるといった指導ができる教員はまだ限られており、授業中のコンピュータ利用率も地域差が大きいのが現状です。

今後、子供たちがグローバルに活躍していくためにも、CBTを利用できるレベルのICT環境と指導体制を早急に整えていくことが重要だと感じています。

構成・文:株式会社インフォザイン 教育環境デザイングループ ディレクター 永井正一

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