2003.07.01
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子どもが絶対夢中になる!GEMSの体験型学習 ワークショップ体験記

よーいドン!で、ダンゴムシレーススタート! 体験を重視したGEMSの学習プログラムに、大人たちも我を忘れて夢中のようす。去る5月17、18日に御殿場の国立青年の家で、教員や野外学習のリーダーなどを対象として開催された、GEMSのワークショップのようすを取材した。

 


GEMSの教師用指導書

 

ジャパンGEMS代表の古川和さん

 

 

 







  去る5月17、18日に、教員や野外学習のリーダーなどを対象とした、GEMSのワークショップが開催された。会場となった御殿場の国立青年の家には、科学館に勤務する方、エコツアーの企画会社を経営する方など20名あまり、遠くは沖縄からも参加者が集まった。

 GEMSとはGreat Explorations in Math and Scienceの略。カリフォルニア州立大学バークレー校ローレンスホール科学研究所で20年近く研究されている、幼稚園児から高校生までを対象とした科学と数学のカリキュラムの一つ。現在70あまりのプログラムがあり、詳細な教師用の指導書が出版されているが、ジャパンGEMSセンター(東京都世田谷区成城/事務局長 古川和)が、そのうちのいくつかを翻訳し、日本での普及に務めている。
 
 GEMSの基本方針は、「好奇心を喚起する」「質問をする」「答えはひとつではない」「体験する」「グループメンバーで協力する」「ディスカッションする」「現実生活に応用する」など体験学習法の理論に基づいたもの。どのカリキュラムも、ゲームやロールプレイ、野外活動など、子どもたちの好奇心を掻き立てる楽しいアクティビティが含まれているが、ただの遊びに終わるのではなく、仮説立案、観察・調査、結果に対する考察、発表というプロセスを通して、科学的理解、科学的探求能力が高まるように練られている。一度完成したカリキュラムも、学校で実践・評価してもらい、改訂を繰り返している。

 このカリキュラムのもう一つの特徴は、実験などに使う教材がどれも近くのスーパーで買えるような身近で安価なものであること、教える側に、特別な科学や数学の知識を必要としないことである。教師用ガイドには、必要な教材、準備の仕方、時間配分、授業の進め方が詳しく書かれている。教師でなくても、たとえば、博物館や科学館の学芸員が子ども向けのイベントにも活用できるし、ツアーコンダクターが、子ども向けのエコツアーのプログラムの中に組み込んでもいいだろう。もちろん、親が子どもとの家庭学習の中で実践してもいい。

 そもそも、ローレンスホール科学研究所でこのようなプログラムが研究されるようになった背景には、20年前から問題になっていた、アメリカにおける理科離れ、学力低下があった。対策として、全国でカリキュラム開発が盛んに行われたが、GEMSのプログラムは特に効果的なものの一つとして、2001年に全米教育省から表彰されている。

 さて、実際のプログラムの内容はどんなものなのだろうか、今回のワークショップで体験したものの一部を紹介しよう。

■ウーブレック

たとえば、授業はこんな語りから始まる。

「あなたたちは、宇宙研究所で働く科学者たちです。ある日、宇宙から採集した謎の物体の調査の依頼が来ました」

 これは新聞などでも話題になった「ウーブレック」というプログラム。ウーブレックの正体は身近にある、ある材料に食紅で色をつけたものだが、液体なのにつかむと固体になったり、強くたたくと堅い物体になったりする。参加者たちは、科学者になりきって、ウーブレックの性質について調べ、科学者会議を開き、もっとウーブレックを採集するための方法を考える。これらのプロセスで、観察→意思伝達→比較→整理と分類→関連付け→推測→応用という科学的方法を身につけるのである。

これは液体?固体? 握ると固体になるのに手を広げたとたん液体になって流れだす。 ウーブレックを採集するための宇宙船のイメージを絵にして発表!

 

■土と生き物のすみか

「今から外に出て、ミミズ、ダンゴムシ、その他、土の中に住んでいるもの、外に落ちているものを拾ってくること!」

 参加者達は一斉に外に出て、指令どおりのものを集める。部屋に戻り、元気のよさそうなダンゴムシを選抜し、ダンゴムシレースでまずはアイスブレーキング。その後、ミミズをじっくり観察したり、土の性質を調べたり。最終的には集めてきたものでミミズたちの住みか=テラリウムを作ってあげる。気持ち悪いと思っていたミミズが、観察しつづけるうちに、結構カワイイと思えてきたり、土にも色々な色、匂いがあると気づくなど、さまざまな発見があって楽しい。テラリウムは観察しつづけると、中で虫たちが卵を産んだり、枯葉が分解して土になっていったり、とどんどん変化をしていくという。虫たちは土の中をのろのろ動くものばかりだし、中の変化もゆっくりしたものだから、ペットというにはあまりにも地味だが、飼ってみたら面白いかも、という気がしてきた。

ダンゴムシ発見! 元気のいい奴を選抜して、ダンゴムシレーススタート!
土の性質を調べるための実験道具 さあみんなで調べよう! 同じ土でも、色、手触り、匂いなど、違いがある
 
  3種類の土を水に溶かして沈殿させる。土によってそれぞれ違った地層ができる。 外で集めてきた土、枯葉などでテラリウムを作る。ダンゴムシ、ミミズもこの中に…


■犯罪化学調査室


ペーパークロマトグラフィーの実験中!
 次のプログラムはこんな設定で始まる。
「ある日、学校で大事に飼われていたウサギが行方不明になりました。現場には、犯人からと思われる脅迫状が残されています」

 参加者たちは、容疑者や、刑事の役になりきって、証言したり質問をしたりする。
 どうやったら手がかりをつかめるか話し合い、脅迫状に使われたペンをペーパークロマトグラフィの手法を使ってつき止めようということになる。
 黒いインクが、溶剤に漬かると、青や黄色、赤などのグラデーションになり、複数の色の混合物だということがわかる。この色のパターンを、容疑者の使っているペンのそれと比較し、犯人をつき止めるのである。ミステリー仕立ての展開に、子どもならずとも引き込まれてしまう。

「カエルの算数」。じゃんけんで勝った人がカエルを1個か2個GET。最後の1個を取ると負け。何回か繰り返すうちに何か法則があるのでは?と気づく。

■日本での普及

 上記は、理科の実験の例だが、算数のプログラムもある。「カエルの算数」「十中八九」などネーミングも面白い。こんなプログラムなら、子ども達は、「今日は何をやるのかな」とわくわくしながら授業に臨むことだろう。

 アメリカでは、授業の年間カリキュラムの中にGEMSのプログラムを組み込む学校も増えているというが、日本での普及はまだまだこれから。ゆとり教育で授業時数は削減され、理科の授業でも実験の時間がかなり削られている今、GEMSのような体験重視のプログラムはますます価値が高まるだろう。ぜひ多くの人が参加して、そのよさを伝えていって欲しい。

(取材・構成:学びの場.com)



★ジャパンGEMSセンター http://www.jeef.or.jp/GEMS/gems.html

 

 

 



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