2022.03.09
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思考力を発揮し、学びを深める授業デザイン(後編) 関西大学初等部研究発表会(オンライン開催)

2022年2月5日にオンラインで開催された関西大学初等部の研究発表会。後編では、考える力の養成に特化した関西大学初等部独自の授業「ミューズ学習」の公開授業とワークショップをリポートする。

公開授業② :ミューズ学習

6年「問いを見出し解決しよう」

授業者:松本京子教諭、今田雅彦教諭

グリム童話「ラプンツェル」を題材に、「イメージマップ」等の思考ツールを活用して「問いを作り、解決方法を自分で考える」ことを学んでいく。

冒頭では今日の課題「テキスト文から自分の問いを作り、解決方法を考えよう」を全員で復唱し、全体の流れを共有。

①テキストを読む
②テキストから疑問に思ったことを書き出す(イメージマップ)
③グループで疑問を共有する
④自分が追究したい課題を決めて解決法を考える(フローチャート)
⑤解決方法の手順で実行する
⑥学習全体を振り返る

全体の流れを確認し「論理的に書けているか」「(問い・思考)広げるときは多面的に」といったポイントも再確認し、授業がスタートした。

②と③をテンポよく行っていく児童たち。グループに分かれ、疑問点を共有。

数分刻みで制限時間を設定し、限られた時間の中で議論を深めていく。

「ヨーロッパでは魔女狩りが行われていた時代なのに、なぜ村人は魔女を恐れているんだろう。」
「王子はなぜ塔から落ちても死ななかったのか。」
「物語の舞台が日本ではないから、そもそも日本の法律は適用されないと思う。では、どんな法律に関係するのか。」
以上のような問いを見出す児童たち。

問いが生まれると、その次の問いが新たに生まれてくる。

授業者は、各グループをまわり適宜アドバイスを入れる。「分類すること」「多面的にみること」「つなげる」「構造化する」を繰り返し意識させていた。

続いて、自分が追究したいテーマを発見したら「フローチャート」を使って解決法を探っていく。

フローチャートを書いた後は、実際にこの手順で解決できそうか検証。矛盾点があれば児童間で議論を交わし、他者からのアドバイスを取り入れながら解決法をブラッシュアップしていった。

最後はいくつかの問いと解決法を発表し、全体で共有して授業は終了した。

協議会

「子どもたちは、どうしてもひとつの情報を鵜呑みにしてしまったり、安易に答えを導き出してしまったり、物事を深く追究していくということが苦手です。そこで、今回の単元では、以下の2点を目標とすることにしました。」と松本教諭。

①文章の情報を正確に読み、批判的・論理的に思考することができる
②自らの思考をメタ認知することができる

「ラプンツェル」のほか、「蜘蛛の糸」「ごんぎつね」を題材にして学習を行っているという。

松本教諭「文学的な読みやこれまでの国語教育を無視するのではなく、科学的な視点や芸術的な視点などいろいろな視点から物事を見てみると、今まで当たり前だと思っていたことでも『あれ?これってどういうことなんだろう?』と疑問を持つきっかけが生まれます。その疑問を持ったことを研究していくことに、この学習の価値があるのだ、ということを児童にも理解させた上でテキストを読むことにしました。」

今日のメインの活動は、「フローチャートを使い、課題を追究していく過程を一緒に考える」という学習だ。手応えを感じていると話す。

松本教諭「全員が『自分の問いを作り、追究していく』ということに夢中になって取り組むことができたと思っています。この単元を実施したことで、子どもたちが物事をより深く考えることができるようになっていると感じています。何より、考えることを楽しんでいるのを授業者として感じています。また、フローチャートを使ったので、自分の考え方の足跡がはっきりと示されて、友達からも評価されやすく、自分の思考を振り返ることがしやすかったのではないかと思っています。」と結んだ。

黒上晴夫教授(関西大学)からの講評

黒上教授「これまでは『計画シート』というものを使って、課題に対してどの思考ツールを使ってどのように考えるかを計画し、他の人に、その手順にする理由を説明する取組を行ってきました。今回の研究授業では、それとは違ったことを実施しているわけですが、計画シートと最も違っていたのはどのような点だったのでしょうか。」

松本教諭「計画シートの場合は、縦方向もしくは一方向にしか進められず、回数を重ねると、自分の中でパターンができてしまい、それ以上の考えが浮かばないんですよね。例えば今回、フローチャートを利用した授業を3回実施しましたが、毎回違う仮説を立てた子が多くいましたし、矢印の方向も毎回違いました。」

黒上教授「イメージマップでは、どんどん広げて、どうやってその問いを解決するかという解決策を絞り込んでいくのではなく、また広げていくことに繋がります。文章化するにあたっては、一定の流れを作らないといけないと思います。そこはどのようにやっているのですか。」

松本教諭「自分がフローチャートの中で見つけた課題に対してインターネット、本、友達と情報共有するなどして調べて、調べたことを常にメモしながら記録に残していました。自分の中で立てた問いですから、自分の中である程度ゴールが見えているのか、どの子もメモをもとにきちんと組み立てて行っていた印象でした。」

黒上教授「フローチャートのような形だと、そのままやっていると、拡散しすぎてしまって、情報がバラバラになってしまいがちです。最終的に文章化していくフェーズでとても苦労すると思う。文章を書くときは、書きたいことをまず出す。その次にやることは捨てる作業です。それをしないとできないと思うのですが、いかがでしょうか。」

松本教諭「計画シートの場合は、調べて出てきた情報を鵜呑みにしてしまうだけだったかもしれません。フローチャートですと、仮説を立てていきますから、自分の考えていることとピタッと合うと情報をゲットできた!となるのかもしれません。」

黒上教授「仮説を立てるというプロセスを経ることで、そこが問いになるわけね。面白いですね。そもそも今回の試みは『プログラミング的思考』から始まった試みだと思うのですが、その辺の意図というのはありますか。」

堀 力斗教諭(1年のミューズ学習の公開授業を行った授業者)「情報を取得しようという場合、例えば、検索して調べるとなると検索窓にワードを打ち込んで終わりになりがちです。フローチャートでは情報が精査されていき、正誤がわかります。そうした部分はプログラミングと繋がっている部分かと思いました。」

黒上教授「プログラミングというのは『解決したい問題を設定して、それを細分化し、記号の組み合わせで解決する』というふうに定義されています。それに対して今日の授業は、問題解決をする前に、問題をまず拡散的に広げてみる。細分化された問題をチェックしていき、情報を取得してそれをもう一度、順序に沿って並べて文章にしていくという作業をしている。その最後に順序を考えて並べ直すというところと、プログラミングのリニア(直線的)な流れというのをうまく繋ぐことによって、こういう活動が複雑なプログラムを考えていくことの素地になっていくのではないかと思いました。今回の授業は、ちょうどその中間にあたる、ちょうど良い位置関係にあるのかなと思いましたね。今後も皆さんと一緒に、子どもたちと一緒に取り組んで考えていきたいと思います。」と結んだ。

ワークショップ

ワークショップでは、協議会の登壇者4名(松本教諭、今田教諭、堀教諭、司会の山本 文子教諭)で、児童と同じく実際にツールを使ってみる試みが展開された。草野心平の詩「道」を題材に、イメージマップを用いて思考を深めていた。

「多面的に見ることで、より深く物事を追究できるのではないかとあらためて感じました。」
「問いをどう受け取るかで視点の広がり方がまったく異なってくる。」
「最初の問いにちゃんと戻っているか意識づけさせることも大切。」
「やりすぎたら終わらなくなる感もある。自分でどう納得できるか?ということも意識してやってみることが重要。」
と意見が交わされていた。

記者の目

毎年2月第1週に開催されている関西大学初等部教育研究発表会。同校の受験を検討している保護者も参加する。今年もさまざまなテーマの発表がなされたが、その中から今回は「ICTを活用した英語授業」と「ミューズ学習」について紹介した。まさしく同校が掲げる教育目標に則った学習であり、両授業とも、児童の「考える力」を最大限引き出す内容であると感じた。また、授業者が指示を出すと、主体的に議論を開始するなど、議論の土壌が深く根付いている点も非常に印象的だった。どちらの授業も今後の初等教育の発展に寄与するはずだ。

参考資料

取材・文:学びの場.com編集部 写真提供:関西大学初等部

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