2019.03.29
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サイコロを振る体験を通して、統計的に問題を解決する力を育む授業(後編)

中学校第2学年D領域「資料の活用」(次期学習指導要領より「データの活用」)の単元「確率」で、サイコロを振る活動から不確定な事象を数学的に考察する授業を行った、世田谷区立用賀中学校の石綿健一郎教諭。授業では、サイコロを振る実験に生き生きと取り組む生徒たちの姿が印象的だった。
後編では、石綿教諭の実践事例や授業で用いることのできる教材例を紹介するとともに、2021年度から施行される次期学習指導要領についての考察や統計学のおもしろさ、データを集めることの重要性などについて語っていただいた。

実践者に聞く

統計学は数学を身近に感じさせることのできる分野である

教材に独自のアレンジを加えることでより楽しめる授業に

――「いろいろなサイコロを振って実験する」という授業は、教科書の題材に石綿教諭独自のアイデアを加えたものですよね。

石綿健一郎(敬称略 以下、石綿) 教科書では、立方体のサイコロをたくさん振って、どの目もまんべんなく出るのを確かめようとする題材が多いです。実際にそういった授業も何回かやったことがあります。

ですが、生徒はどの目も同じくらいの確率で出るということを感覚的に知っていて、サイコロを振ることにあまりモチベーションがあがらないようでした。また、サイコロといえば立方体だというのが染み付いていて、変わったかたちや中におもりが入ったサイコロを振ったらどうなるのかということは考えてもみない。

だからこそ、立方体以外のかたちやおもりを入れたサイコロを振ってみることで、実験へのモチベーションをあげることができると考えました。立方体のサイコロを270回振るのは無理でも、いろいろなかたちのものであれば飽きずに振ることができますから。


――このサイコロの授業のように、石綿教諭のアイデアを加えた実践例はほかにありますか?

石綿 以前、同じ「確率」の単元で、題材としてスクラッチくじを取り上げたことがあります。その際に、名刺シートに市販のスクラッチシールを貼りつけた、自作のスクラッチくじを用意しました。くじには6ヵ所中3ヵ所に「当」マークを配置。授業では、6ヵ所の中から3ヵ所選んで削ったとき、3ヵ所すべてが「当」マークになることを特賞としました。生徒たちは1ヵ所削るごとに「当」マークが出たかどうかを話題にするなど、楽しそうに活動していたのが印象的でした。

――サイコロやスクラッチくじのように、教材をアレンジするときのポリシーはありますか?

石綿 生徒が楽しんで学べるような授業にしたいという思いが根底にあります。統計にかぎらず、図形でも計算でも、日常生活の中にある身近なものと数学には関わりがあるのだということを伝えたい。とくに統計は、数学のほかの分野と比べてかなり日常生活に近い分野です。たとえば、前述のスクラッチくじにしても、日常生活の中でくじを削る機会が実際にあるわけです。題材が身近なものだからこそ、生徒も楽しんで取り組んでくれます。

統計学は答えがひとつではないからこそおもしろい

――ここ数回の学習指導要領の改訂で、統計学習の重要性が確実に増してきています。統計学習が「数学的な見方・考え方」の育成につながりやすいと考えられていることが理由のひとつでしょう。石綿教諭から見て、統計学を他の数学の分野と比べたとき、どんなところに違いやおもしろさがあると思いますか?

石綿 数学という教科は得意不得意がはっきりあらわれる部分がありますし、生徒の苦手意識が強く出てくる。その中で、統計の分野は、答えがひとつではないのがおもしろいところです。

たとえば授業で野球を題材にして、試合中にだれを代打に出すか選ぶとしましょう。安定してヒットを打つアベレージヒッターと、ホームランを打つこともあるけれど、三振も多い選手。ふたりのうちのどちらかを選ぶとき、生徒はそれぞれのプレイヤーのデータを基にして、その選手を選んだ理由が述べられればいいわけです。どちらを選んでも正解で、答えがひとつではない。だからこそ、数学に苦手意識をもつ生徒にとっても、いつもとは違うアプローチができる分野だと思います。

次期学習指導要領で求められる意図的な指導力

――中学校数学科にD領域が新設されてから、約10年がたちました。いままで授業を行ってきた率直な感想はいかがでしょうか?

石綿 配当時間数が少ないと感じていました。とくに1学年だと「中央値」や「最頻値」といった新しい用語がたくさん出てきます。用語の指導に時間がかかり、データを読み取って傾向を分析する時間が十分に取れなかったというのが実感です。

――2021年から施行される次期学習指導要領では、これまで中学校第 2 学年で扱っていた統計的確率が第 1 学年に移行され、これまで高等学校数学Ⅰで扱っていた四分位数・箱ひげ図が中学校第 2学年に移行されることになります。指導内容が高学年から低学年に移行することに不安はありますか?

石綿 中学校で箱ひげ図を取り扱うのは新しい試みなので、未知数だと思っています。生徒たちにとっても箱ひげ図はいままで習ってきたグラフとは性質が違うものなので、アプローチを変えていく必要があるでしょう。


――次期学習指導要領では、指導内容が高学年から低学年に移行するだけでなく、中学校数学科の全学年を通じて「批判的に考察し判断する」ことが求められます。批判的な考察についてはどのようにお考えですか?

石綿 「批判的」という言葉はなにかを否定するイメージがつよい言葉ですが、批判的思考力とは、ひとつの事象をいろいろな方向から検討することだと考えています。たとえば、今回のサイコロを振る授業にしても、立方体のサイコロを見せられると偏りのない公平なサイコロだと思いがちですが、実際はおもりが入っている場合もある。見た目の印象で判断するのではなく、実際に実験して確かめてみようとすることも、ひとつの批判的な考察ではないでしょうか。

また、その結果についても別の視点はないか、自分の考え方ももう一度振り返ってみることも大事です。自分で振るのは30回でも、クラス全体で合わせると270回分の結果が出ます。クラス全体の結果を合わせるとまた違った傾向がみえてくることもあるでしょう。自分の結果とクラス全体の結果が違うとき、どちらがよりサイコロの性質をあらわしているのかを考えことも、やはり批判的な考察です。

――「批判的に考察し判断する」ために新しい何かを取り入れるというより、すでに行っていることをより意図的に行っていくということですね。同じく次期学習指導要領で求められる「統計的な問題解決」についてはいかがでしょうか?

石綿 統計的な問題解決というと、PPDACサイクルなどがよく知られていますね。問題解決における各段階をProblem(問題)、Plan(調査の計画)、Data(データ)、Analysis(分析)、Conclusion(結論)で分けたものです。サイコロを振る授業に当てはめると、Problem(問題)が「サイコロが正確かどうかを調べたい」、Plan(調査の計画)が「実際にサイコロを振ってみる」、Data(データ)が「振ってみて得られた結果」、Analysis(分析)が「結果から読み取れる傾向の考察」、Conclusion(結論)が「このサイコロは○の目が出やすい」に分けられます。

また、サイクルということは何周か繰り返す必要がありますが、次は別のサイコロで試すとなれば、2周目、3周目は別の視点でやってみようということになる。

――こちらも、既に授業のなかで行われているということですね。

石綿 そうですね。どの授業もある程度PPDACサイクルで進む展開になっています。あとは、教える側がどれだけ意図的に、「自分たちがいまどの段階にいるのか」を知らせながら授業を進められるか問われているのではないしょうか。最終的には、生徒自身が「いまこの段階をやっている」と理解するのが理想的だと考えます。

データを自分たちで集めることが重要

――次期学習指導要領では、小学校算数にも「データの活用」領域が新設されます。小学校の教諭に何かアドバイスはありますか?

石綿 データを自分たちで集めることが重要ではないでしょうか。教科書に載っているデータだけで授業を行うのではなく、自分たちで集めたほうが、データをとる必要性を実感させやすい。たとえば、以前給食のカロリーを調べる授業をやったことがあります。和食と中華ではどちらのカロリーが高いのか、また家で食べるご飯と比べるとどうなのかなど、身近な題材なので生徒も楽しみながらデータを集めていました。その授業では、データを読み取って傾向を分析するところまではいけませんでしたが、まずは興味を持てる分野でデータを集めるところから始めてもいいのではないかと思います。


――いままで実際に、生徒のほうから「このデータを集めたい」といった要望が出たことはありますか?

石綿 給食委員の子が「牛乳の飲み残しを減らしたい」という目的で、さまざまなデータを集めていたことがありました。最初に天気や気温との相関を調べ、結果として寒い日は飲み残しが多いことが判明しました。ほかには、体育の授業がある日はどうなのかといったことなど、別の視点からも考察を加えていました。こういった自主的な取り組みこそ「批判的な考察」で「統計的な問題解決」だと思います。


――最後に、読者の先生方へのメッセージをお願いします。

石綿 いろいろなかたちのサイコロを振ったり、スクラッチくじを用いるといった教科書にはない授業を行うことは、自分自身にも新しい発見がたくさんあり、楽しいです。変わったかたちのサイコロの確率なんて、振ってみなければ私にも分からない。ぜひ、楽しみながらいろいろな授業にチャレンジしてみてください。

石綿 健一郎(いしわた けんいちろう)

世田谷区立用賀中学校の主幹教諭。東京都中学校数学教育研究会では、確率統計委員会の代表を務める。明治図書出版の教育専門雑誌「数学教育」で授業紹介等も行っている。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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