2003.02.04
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インタビューデータベースで「心を学ぶ」 墨田区中学校教育研究会視聴覚部会

コンピュータを利用して「心を学ぶ」ことが可能なのか?

 

 
 


墨田中学校の三橋秋彦先生 




 


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どんな作品ができたかな?

 
 
 
 
 
 
 


 

 
 
 


 
 
 
 




 

 
 
 
 
 
 
 


 

 

■インタビューデータベースって何だろう?

 インタビューデータベースとは、様々な人たちへインタビューを行い、その内容を収録、データベース化していつでも、誰でもインタビューを聞くことができるものである。インタビュー対象や質問事項はあらかじめ登録されたものに限られてしまうが、時間や場所を気にせず、遠方の人や既に亡くなってしまった人たちへのバーチャルインタビュー体験が可能な点が便利である。今回、授業に使用したソフトは、さらにプレゼンテーション機能を持ったデータベースソフトであるため、収録されたインタビューを使った発表もできるようになっている。

 今回は、「文化遺産を守る」というインタビューデータベースソフトを使用して、「心の教育」に一歩踏み込んだ社会科と道徳の狭間の研究授業を行った。授業者は、墨田区中学校教育研究会視聴覚部会副部長で墨田区立墨田中学校の三橋秋彦社会科教諭。授業を受けたのは同校3年A組の生徒たちだ。


■「この人いいな」と思ったら、みんなに伝えよう

「今日はいつもの政治や経済ではなく、『法隆寺』を支える人々について勉強します」と三橋先生。

 法隆寺は1300年の年月が流れても残されている文化財であり、墨田中の生徒たちは修学旅行で実際に法隆寺を見学した。また、国語の教科書にも登場したことを振り返り、生徒たちにとって法隆寺がなじみ深いテーマであることを認識させる。次に三橋先生がデータベースソフトの操作方法を説明し、インタビューを聞いてみる。

「この中で『この人いいな』と思える人を探してみよう」
 ソフトの中には、法隆寺を守り続けた宮大工西岡常一さんをはじめ、仏像の修復をする職人や、ボランティアガイド、門前のみやげ物屋など法隆寺を取り巻くさまざまな人たちのインタビューが収録されている。それぞれにプロフィールと7つほどの質問事項があり、それらにひとつずつ耳を傾ける生徒たち。

「この人、偉そう」
「この山本さんがいいかな?」
「こいつがいいや!」

 ひとりひとり聞きながら、周りの友だちと感想を言い合っている。今回はイヤホンやスピーカーを利用しなかった分、聞き取りにくさはあったが、却って周りの友だちとの交流が広がった。

「『この人いいな』って人が見つかったら、せっかくだからみんなに発表しましょう」
 そう言って三橋先生は、このソフトについているプレゼンテーション機能の説明に入る。自分の気に入った場面を静止画や動画、テキストと組み合わせてスライドショーを作ることができるのである。

「インタビューの前後にコメントを入れることがポイントです。いくつかのインタビューをつなげてみてもおもしろいね」
 こう三橋先生がアドバイスし、少し試して見せると生徒たちはすぐに作成に入る。もう一度、インタビューを聞きなおしながら、コメントを考える。

「できた!最高!」
と女の子が声をあげる。たった一言で傑作ができたと喜ぶ。周りの生徒たちはまだまだ作成中だ。

「では、できた人の作品を見てみましょう」

 時間の都合で発表はふたりだけになってしまったが、短時間で多くのインタビューからこれだと思うものを選び、コメントを考えるなど、テンポよくプレゼンテーションを作り、友だちの発表をうなずきながら鑑賞していた。最後に、発表した作品の感想や、今回の授業の感想などのレポートを書いて授業が終了した。

 


■コンピュータ利用で「個」を活かす

 授業終了後の研究協議で三橋先生は、今回の授業を行った経緯や授業の内容について話した。

 社会心理学を専攻していたという三橋先生は、「中学校の社会科において倫理を扱わないことに疑問をもっています。倫理は、主体性を確立させるために必要で、中学でもできる領域だと思っています」

 また、三橋先生は近年、道徳という領域に対し、「閉塞感を感じていた」という。「小中学校に道徳が新設されると、社会科の時間では道徳の時間に扱われるような内容は意識的に避けるようになってしまいました。また、道徳的判断力が要求されるような場面を想定した指導でも、生徒全員で考え、教師の意図した方向へ結論付けるような流れで進められていたのです」と話す。

 そんな中、三橋先生は4年前にこのソフトの開発に携わることとなる。さまざまな職種によって関わり方が違っても、同じ思いを持って文化財法隆寺を支えている人々に着目し、たくさんの人の中から、自分が共感できる人を見つけ、どんな点に共感できたか表現できる、そんな多様性を持った教材が実現した。これによって、教科書やプリント教材を利用した一斉授業ではない、コンピュータの特性である「個」を活かした授業づくりが可能だ。もちろん、コンピュータを使った授業を行うには準備にも苦労する。しかし、その効果は大きいと三橋先生は話した。

 このような授業のコツについては、「まずは、生徒のコンピュータリテラシーを信じて、ソフトの扱い方などは簡単に済ませることです。また、“法隆寺を支える人々”というように、テーマは拡散させず、ひとつに絞ることです。いくらコンピュータを使った授業が『個』の授業だとしても、テーマを自由に設定させてしまうと、『どうでもいい』授業になってしまいます。そして、バズセッションが自然に発生するような仕掛けを作ってあげることです」

 コンピュータを利用し、道徳に一歩踏み込んだこの授業は、これからの社会科のひとつの方向性を示したと言えるだろう。 



日本文教出版ホームページ http://www.nichibun-g.co.jp
 

 

 

(取材・構成:学びの場.com)

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