2010.02.02
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教師の語り2 ”見えない壁”

岡山県教育委員会津山教育事務所教職員課 主任 高岡 昌司

 私は小学生の時、水泳がとても苦手でした。25Mを泳いだのは小学校6年生の時です。学校の授業で何度泳いでも20Mの手前で立ってしまうことが続きました。息継ぎがきちんとできていないから息が続く限界なのでしょう。何回泳いでも20Mの壁が立ちはだかっていました。「おしい。あと少しなのに・・・」と励まされながらもその壁はなかなかこえられませんでした。

 壁をこえたその日の水泳は、急遽5,6年合同の授業となりました。とてもドキドキしました。実は、5年生の中に好きな子がいたからでした。25Mも泳げないようなみっともない姿はみせられないと思うと体がこわばりました。
 いよいよ自分の番になりました。5年生の好きな子がちょうど20Mあたりのプールサイドに座って見ていました。心臓はバクバクです。用意、ピー。私はがむしゃらに泳ぎました。とにかく、息の続く限りめいっぱい水をかき前へと進みました。ほとんど自分がどの辺りを泳いでいるかわからない状態でした。
 次の瞬間、バシッ、痛!気がつくと25M泳ぎ切り、手がゴールに当たっていました。「やったー。25M泳げた」と心の中で叫びました。嬉しさが体の中から湧き上がってきました。でも、好きな子の目の前です。プールから出る時は平静を装いました。
 その日以来、25M泳ぐことは当たり前になりました。それどころか、50M、100Mと記録はどんどん伸びていきました。子どもの頃の淡い思い出です。

 壁をこえる瞬間は、いつどこでどのような形であらわれるのかわかりません。この場合は、好きな子の前で格好悪い姿を見せられないという、ある意味追い込まれた状態でしたが・・・。
 壁をこえることができたのは、好きな子の存在もありますが、その日まで、何度も悔しい思いをしながらも練習をしてきたことで、この瞬間に息継ぎのタイミングやコツをつかんだのだと思われます。

 何でも頑張ればやっただけの成果や結果が出るとは限りません。ある一定の段階まで来るとこのような見えない壁にぶつかります。しかしながら、そこであきらめずに続けることで体の中にエネルギーがたまっていくのです。それが、ある時、ふっとはじけ、壁をこえる瞬間がきます。(見えないだけに、突然のような気がしますが・・・)

 見える部分での成長が、停滞しているときこそ、教師は見えない部分の過程にどれだけ価値や意識をもたせることができるのか、そこが重要ではないかと思います。担任をしていた時、この水泳の話を笑いをとりながらよくしていました。

 脳科学の進歩で、人間の脳の中でも同じような現象がおこっていることがわかってきました。目に見えない部分での脳の働きは着々と進化しています。決してあきらめず、信じて、努力を「続けること」の大切さを伝えたいものです。見えない壁はやがて越えられるのです

 教師の語りは、成功体験や武勇伝ばかりでなく、失敗談や恥ずかしい体験をしたことなどさまざまなケースがあると思います。同じ一人の人間として心をこめて話をするのです。そこに子どもたちは、教師とのつながりを見い出すのではないでしょうか。


 余談・・・
 わが子は、今、二重跳びの見えない壁にぶつかっています。1回は跳べるのですが、体が沈みこみ、2回目が立ち上がれない状態です。これは誰しも経験があることではないでしょうか。何度も何度も繰り返し、投げ出さずに続けていれば、ある時、ふっと体が沈まずに、2回目を跳べる感覚をつかむ瞬間がきます。これが壁を越えた瞬間です。わが子は、今だ壁にぶつかったままです。

写真上:ミュージカルの一場面
写真中:授業(ロールプレイ)の一場面
写真下:総合学習(フェスティバル)発表の一場面
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高岡 昌司(たかおか しょうじ)

岡山県教育委員会津山教育事務所教職員課 主任
教育行政職3年目です。授業談義できる場を求めています。この場を借りて授業実践や学級経営についての意見交換ができたらいいなあと思っています。専門は社会科教育です。

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