2009.12.08
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考える力3 ~実践編~

岡山県教育委員会津山教育事務所教職員課 主任 高岡 昌司

 前回、前々回と「考える力」について、書かせていただきました。宝子山真紀編集長より「(書いているような手立ての)結果、子どもたちへの効果はどうだったのかとても気になります。」という温かくも厳しいコメント、要するに宿題をいただきました。(^^ゞ
 というわけで、今回は、「考える力」の育成をめざして取り組んだ実践について書きます。ああ言えばこうなるというような即効的なハウツーとはいきませんから、ひとつの実践を例に、その中での子どもの発言や感想、姿について検証したいと思います。

 実践は、小学校6年社会科(政治単元)で行った「裁判員制度の必要性」をテーマにした取り組みです。以下に概要を紹介します。

(教材について)
 新学習指導要領小学校社会科編第6学年では国民の司法参加について扱うことが明記されました。まさしく今タイムリーな問題として裁判員制度があります。ご承知の通り、裁判員制度は本年5月から実施された司法制度改革です。法律の専門家ではない一般国民の感覚が裁判の内容に反映され、その結果として国民の司法に対する理解と信頼がより深まることが期待されているところです。裁判員制度は国民主権や民主主義につながる考え方が本質と言われ、三権に対する国民参加の足がかりとしての意味があるとされます。
 
(指導について)
 本学習では,裁判員制度を中心に,個人と社会のかかわりや法、ルールの背景にある考え方や価値にふれ,国民の司法参加についての理解を深めることをねらいました。また、模擬裁判などのロールプレイや討論、町の人へのインタビューなどを取り入れることで、主体的に考える学習になると考えました。様々な情報を収集し,根拠をもとに多面的に話し合い、判断する学習活動はまさしく、今求められる活用型の授業です。
 実際の授業では「考える力」を育てるために、子ども同士や教師との対話が不可欠であると考えました。特に、事象に対する意味や価値について交換したり共有したりする学び合いの場を重視し、学習活動の中に意図的計画的に、話し合いや相談、議論の場を仕組みました。

(実際の授業の様子)
 議論の柱は「裁判員制度は必要か?」というテーマで、論点は子どもの意見の中から、
(1)裁判の短縮で、判決がいい加減にならないか?
(2)裁判員制度は国民主権を無視しているか?
という2点に絞りました。

 考える力を育てる具体的な手立てとしては、
『手立て-1「事実」と「考え」を区別させる。
 手立て-2意見(立場)を比較させる。
 手立て-3「考え」を図式化させ自己モニタリングさせる。』
の以上3つの手立てを学習活動に組み込んで実践しました。いずれも漠然と意見を発表させるのではなく、考えさせるときの視点を教師と子ども自身が意識化するということを主張したものです。
(前回http://www.manabinoba.com/index.cfm/8,11558,21,141,html
前々回http://www.manabinoba.com/index.cfm/8,11554,21,141,html
のつれづれ日誌参照)

 結局、子どもたちの意見は、合意にはいたりませんでした。(もちろん、それが目的ではありません。)議論の落としどころとしては、選挙同様、政治に国民がかかわっていくという社会参画(社会は国民がつくるもの)が重要であるとまとめました。《1~3》の手立てにより、同じ資料(事実)でもその解釈や意味づけは異なるということを学びました。

 議論場面では、より説得力のある主張をする為に、自分の考えを整理した上で、根拠を示した主張となり、論点も絞ることができました。自分なりにまとめたイメージマップ(図式化されたもの=自己モニタリングの道具)を複数回書いてそれらの変化を比べたり、主張の根拠を意識させたりする中で、認識の深まりを子ども自らが分析したり意識したりする姿も見られました。

(まとめ)
 実践を通して、「考える力」を育てるには、まず、教師が子ども達との学び合いの中での意味形成の場を重視し、楽しむ事が大切だと思いました。子どもたちは、近い将来、自分も関係するかもしれないという必然性を感じながら・・・タイムリーな問題を通して・・・社会との結びつきを感じることで知的好奇心が刺激され、大いに盛り上がりました。
 議論後の子どもの感想を紹介します。賛成と反対のそれぞれの立場からその子なりのこだわりや議論で揺れ動いた思いが伝わってきます。結構、大人顔負けの意見も出てきました。

(学習後の感想より)
<裁判員制度に賛成のAくん>
 「安心してくらせる社会には何が必要かみんなが考えるきっかけになる。いろいろな人の様々な経験から判断できる。国民が入るから判決があまくなったりきびしくなったりすることに意味がある。外国では、裁判に国民が参加するのは当たり前らしい。」

<裁判員制度に反対のBさん>
「仕事が忙しいし、人を裁く自信がないと言う人が商店街のインタビューではとても多かった。裁判のことを知らない人が多いからプロに任せればいい。大人と自分たちの意見とそんなに変わらないと思ったので、今のままでは強制的で反対。」

 手探りの中での実践ですが、教師自身が「考える力」とは、本単元で言えばどいうことなのか、具体的に、イメージをもっておくことが重要であると思いました。


(詳しくは・・・)
 具体的な議論場面については、偶然にもタイミングよく、学びの場.com>授業のヒント>指導案&アイデア集http://www.manabinoba.com/s_catalog/guidance/kyoumu_index.cfm?CategoryID=201
の11/17に実践レポート「6年社会科(政治単元)あなたは未来の裁判員!」を掲載していただいておりますのでご覧いただけますと幸いです。
P1010006.jpgP1010018.jpgP1010011.jpg

高岡 昌司(たかおか しょうじ)

岡山県教育委員会津山教育事務所教職員課 主任
教育行政職3年目です。授業談義できる場を求めています。この場を借りて授業実践や学級経営についての意見交換ができたらいいなあと思っています。専門は社会科教育です。

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