2020.08.24
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通級で使える小ネタ<2>「っ」や「-」を抜かしてしまう児童への指導

「きっぷ」を「きぷ」と書いたり、「プール」を「プル」と書いたり......。「っ」や「-」を抜かして書いてしまう児童は少なくありませんよね。そういった児童に対する通級での指導法をお伝えします。

福生市立福生第七小学校 ことばの教室 主任教諭 博士(教育学)公認心理師 臨床発達心理士 髙橋 三郎

「っ」や「ー」のつく言葉を書くことは難しい。

通常の学級だと「っ」や「-」のつく言葉の書きについては、2単位時間ぐらいでさらーっと流すことが多いようですが、読み書きが苦手な子供にとって、これらの言葉を正しく書けるようになることはかなり大変です。私は通級で、この点についてはかなり念入りに指導をしています。

音韻分解を正しくできることが大切。

「っ」や「-」のつく言葉を正しく書けるようにはどのように指導すれば良いのでしょうか?

一番最初に思いつきそうなのは「何度も繰り返し書かせて覚えさせる」というものです。しかし、そういった指導は児童の負担が大きいだけで、あまり成果が上がらないことが多いです。全く意味がない…とまでは言えませんが、コスパの良くない指導法であることは確かです。

「っ」や「-」のつく言葉を正しく書けない時、まず疑うべきは、その児童が正しく音韻分解できるかという点です。音韻分解とは、それぞれの音の粒に気付き、言葉を音の粒に分解することです。

「スコップ」といった言葉はいくつの音からなっているでしょうか?大人であれば、「スコップ」は「ス」「コ」「ッ」「プ」の4つの音で構成されているのは明らかな事です。しかし、子供にとってそれは自明な事ではありません。通常の発達を遂げている子供であっても5歳ぐらいにならないと、「スコップ」を「ス」「コ」「ッ」「プ」の4つの音から成ることは理解できません。先行研究のデータだと5歳で7割、6歳で8割の正答率というものがあります。6歳の子であっても、約2割の子は正しく音韻分解できません。

読み書きが苦手なお子さんだと、その発達はさらに遅れます。「スコップ」を「ス」「コッ」「プ」のように3つの音と認識していると、「スコプ」と誤って書いてしまいます。ですので、音韻分解を正しくできるのかを把握し、できていない場合は、正しく分解できるように指導することが大切です。

音韻分解の具体的な指導方法

①手をたたく。

最も一般的な方法です。指導者が「っ」や「-」の付く言葉を言い、一文字ずつ手をたたきます。正しい音の数(文字数)で手を叩ければ当たりです。クラスでの一斉指導の際に使えます。なお、その際、拗音は小さい「ゃゅょ」まで含めて一文字とカウントしてください(チョコレートは「チョ」「コ」「レ」「-」「ト」とカウント)。

②トランプを使う。

個別指導の時はトランプを使うと良いでしょう。「文字の数だけ、トランプを置いてね」と声掛けをして、文字数の分置けたらOKです。できたら、促音はトランプを裏返し、長音はトランプを横向きにさせます。また、トランプを指さして、「これ何の音」ときくことも効果的です(これは音韻抽出という作業になります)。さらに、それができたら、そのトランプを見て、「-」や「っ」の位置に気を付けながらノートに言葉を書きます。なお、この際も拗音は「ゃゅょ」まで含めて一文字と数えます。

③市販のプリント教材を使う。

プリント教材もありますので、こういったものを使うのも良いです。特に通常の学級での一斉指導の際に効果的です。

音節単位の分解からモーラ単位の分解へ

ここで、専門的な話をします。以下は学級担任の先生はスルーして良いですが、通級の教員、特にことばの教室の教員はしっかりと覚えておく必要のある内容です。

今回の音韻分解の話は、実は音節とモーラ(拍とも言います)という日本語の音韻単位が密接に関わっています。音韻論(言語学の一分野)について大学で少しでも学んだ方ならすぐに、分かることなのですが、「スコップ」を「ス」「コッ」「プ」と分解するのは音節単位の分解であり、「ス」「コ」「ッ」「プ」と4つに正しく分解できるのはモーラ単位の分解となります。音節とは母音を中心としたまとまりであるのに対し、モーラとは音の時間的長さに基づくまとまりです。子供は音節を単位とした分解する(すなわち、母音を中心としたまとまりを一つの単位として分解する)段階からモーラを単位として分解する(すなわち、音の長さを単位として分解する)段階へと発達していき、その中で「っ」や「-」を脱落させずに書けるようになります。もし、この話がすぐにピンとくる人であれば、音節とモーラが一致しない特殊拍「ん」や二重母音の後続要素(たとえば、おとさん等)も脱落しやすいのでは…とすぐに気づくことと思います。「っ」や「-」のつく言葉を正しく書けない子供を見つけた時には「ん」や二重母音の後続要素についても正しく書けるかを確認しましょう。

なお、音節やモーラについて詳しくないが、それらについて詳しく知りたいという方については、窪園(1998)などをお勧めします。

終わりに

いかがだったでしょうか。一見簡単なような「っ」や「-」の指導ですが、実は非常に奥深いもので、通級の教員は専門的な知識に裏付けされた指導を行う必要があります。とりあえず、音を正しいまとまりで(正確にはモーラ単位で)分解できることが大切で、その上で「っ」や「-」のつく言葉を正しく書けるように指導していきましょう。

髙橋 三郎(たかはし さぶろう)

福生市立福生第七小学校 ことばの教室 主任教諭 博士(教育学)公認心理師 臨床発達心理士
大学院で博士号を取得し、現在はことばの教室で子供達と向き合う日々を過ごしています。言語障害や発達障害に関する知見や指導方法を様々な先生方と共有できたらと思います。

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