2020.02.10
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世代を超えて大学と地域が結びつく ~学生が地域や仲間と関わるほどよい「距離感」から学ぶこと~(2)

先月下旬に訪れた北九州の取り組みに関する感想の一部と、我が街札幌での実践への応用可能性を考えた。大学が地域を繋ぐというヴィジョンをもっと明確に打ち出し広げていきたいと思えた。

札幌大学地域共創学群日本語・日本文化専攻 教授 荒木 奈美

1月下旬、大学では年度終わりの慌ただしい時期に、先述した北九州市の実践的な取り組みを見せていただいた。
学生さんたちが主体的に地域の大人たちと関わり、さまざまな取り組みの中、自分たちで課題を発見し、それに応え、地域を元気にしている姿を目の当たりにし、すっかり心を奪われた。
 
印象的だったのは、学生と関わる地域おこしの担い手たち、あるいは先生方の、「距離」の「ほどよい近さ」であった。
物理的な距離の話である。距離にしたらどのくらいだろうか。遠すぎず、近すぎず。うまく言えないが、遠慮しすぎず依存しすぎない、その心の距離が形に現れているような、絶妙な距離感だった。

以前から学生たちが語る言葉によく出てくる「距離感」というものが気になっていた。
「私が目指すのは、生徒との程よい距離感を保って接することのできる教師です」
「ゼミの中で、それほど親しくない友達との距離感を埋めるのが、なんと言っても難しいんです」

自分を中心に、他人に近づかれた時に不快を感じる距離のことを「パーソナルスペース」というらしい。
以前私のゼミの学生が、卒業論文でこのパーソナルスペースに関する調査研究をしたことがあるのだが、このパーソナルスペースは、学生たちが使う「距離感」と不可分のようである。この時の結果で面白かったのは、まず留学生(その時は中国の留学生が数名いた)と日本人学生の平均距離が明らかに違っていたこと(留学生は総じて近かった。中には30センチという学生もいた)と、対人関係において苦手意識のある学生が、かなり露骨にその距離を延ばしていたことだった。

もちろん個人差はあるだろう。留学生は初対面でもかなり顔を近づけて会話をすることの自然な学生が少なくない。誰に対しても変わらず距離を置いて話す学生もいる。それは一人ひとりの育ってきた環境に多分に左右されるものである。しかしながら経験的には、その距離感が、その人の心理状態を反映しているという見方もできてしまう。

つまり、学生たちが意識的にせよ無意識的にせよ、対人関係において隔てる空間には、彼らがその相手にどのくらいの信頼を置いているか、その意識が如実に現れているのではないか。

かなり前置きが長くなってしまったが、その「距離感」で言えば、学生たちと地域の大人たちがつかず離れず、良い距離を保ちながら活動に専心している姿を見て、私はこの距離感は、ある意味学生たちの地域と向き合う信頼感の現れなのではないかと考えた。
そして学生同士がテーブルを囲み、顔を付き合わせて熱心に話し込んでいる姿を見て、これもまた、一緒に活動する仲間同士が、お互いに心を許し合って活動できている紛れもない指標となっているという感想を持った。

翻って、私が今取り組んでいる地域活動や大学内での課題解決型の学びでの学生たちはどうだろうか……。
この「距離」という観点から振り返ってみると、教師との距離も含めて大人たちと彼らの隔たりは大きい。カメラを巻き戻してみると、学生たちも地域の方々も、常に一歩身を引いて関わり、遠慮しあい、牽制しあっている姿が目の当たりになる。
活動する学生たちの様子を見ても同様である。ただこれに関しては、個人やグループによるばらつきが大きい。上手く行われている活動班とそうでない活動班の差は、この距離にはっきりと現れているようである。

この距離感、意外と侮れない。まずはこの「距離」を一つの指標として、学生たちの地域活動のあり方を見直してみようと思う。

荒木 奈美(あらき なみ)

札幌大学地域共創学群日本語・日本文化専攻 教授
高校で12年間、大学で8年半、たくさんの高校生や大学生と主に文学作品を通じて関わってきました。自分の好きな漫画やアニメやゲーム、アーティストについて語るとき、彼らは本当に顔を輝かせて熱心に語ってくれます。自分の「好き」を極めたいと思うことは学びの原点。高校生や大学生の「学ぶ意欲」を引き出すために私たち教師ができることは何だろう。「主体的に学ぶ」学習者を育てるための教育のあり方について、今日も実践を通じて、探究を続けています。

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