2016.11.04
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育児休業明けの教員のスムーズな復帰を促すためにできること

帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師 鈴木 邦明

この所、「育児休業明けの職員の働き方」について気になっています。

私(45歳)より下の世代の教員が、出産、育児の休みを明けて、学校に戻るというケースが増えてきています。

先日、内閣府が発表した「男女共同参画社会に関する世論調査」においても、女性の就業について「子どもができても続ける方がよい」と考える人が50%を超えました。

1992年の設問開始以来初めて半数を超えました。

出産、そして、育児の後にそのまま働きたいという考えが主流になってきていることを示しています。

その中でも教員は、女性が性差を感じることなく働きやすい職種の一つです。

私の世代は、採用された教員の数が少なく、学校における多数派ではありません。

私の世代も育休明けで学校に戻るということはありましたが、ケースが多くなかったのであまり大きな問題にはなりませんでした。

しかし、この数年、多く採用された世代がそういったことに差し掛かり、育休明けで学校に戻るというケースが増えています。

残念ながら、様々な形でのトラブルが起こってしまっています。

本来は、育休明けの職員は、貴重な戦力であるはずです。

なぜなら、基本的な教師としての技術はマスターしていることがほとんどで、その上、自分自身が子どもを育てたという経験もしています。

自分の子どもがいなかった時よりも、クラスの子どもの親の気持ちに寄り添うこともしやすくなります。

駄々をこねる子どもの扱いも慣れています。

「鬼に金棒」とまでは言いませんが、強力な武器をいくつも持っている状態なはずです。

ただし、非常に大きな問題なのが「働き方」です。

子どもが生まれるまでは、自分のペースで仕事することができていました。

遅くまで残ることや休日に出勤することもできます。

しかし、育休明けは、状況が一変します。

そういった中でトラブルが発生してしまうケースがあります。

精神的に参ってしまう人、肉体的に参ってしまう人。

休職、そして、最終的に退職というケースも見たことがあります。

本当にもったいないと思います。

上手に配慮さえすれば、もっと力が発揮できるのにと思います。

公立小学校の教員の年齢構成

公立小学校の教員の年齢構成の特徴は次のようになります。

・団塊の世代の少し下にあたる50歳代後半から50歳位まで非常に多い

・45歳から40歳位までが最も少ない

・30歳台前半から20歳台と徐々に増える

私が採用された時はちょうど最も少ない世代に当たります。

大学を出て、新規採用された時、その小学校(大規模校)で6年ぶりの新任でした。

その後、4年間、新たな新任は来ませんでした。

ずっと下っ端として、雑用なようなことをたくさんしました。

若者として、色々なことにチャレンジできましたし、色々と指導してもらうこともできました。

本当に良い時代に採用されたと思っています。

それと比べ、今は多くの若者が採用されています。

私の今の学校(大規模校)では、毎年、2人ずつの新規採用教員が入ってきています。

1校目(埼玉県のルールでは5年目まで)の教員が10人いることになります。

若者が非常に多く、活気はあります。

逆の面での危うさもあります。

きめ細やかな指導などが十分にできないことなどです。

教員の育休の現状

話を育休明けに戻します。

私の世代(45歳前後)は、先にも書いた通り、人数が少なく、ケースも少ないので、何とか対応ができていました。

しかし、この数年は、難しいケースが増えています。

一つの学校に育休中の職員が複数いるようなケースもあります。

今の学校は、先ほど、年齢構成についてでも書いたように育児を終えた50歳台と結婚前または結婚していても子どもがいない20歳台、30歳台が大きな割合を占めています。

どちらも無理の利く世代です。

夜遅くまで仕事はできますし、休日にも学校に行くことができます。

それと比べ、「子育て世代」は、様々な形で無理が利きません。

保育園などへの迎えがあるので、退勤時間が決められてしまいます。

子どもが急に調子が悪くなり、休まなければならなくなることもあります。

私も娘を3年間迎えに行っていました。

その園は、6時までに迎えに行かねばならなかったので、学校は5時30分には出なければなりませんでした。

また、年度末の忙しい時に娘がインフルエンザになってしまったこともあります。

こういった「子育て世代」が増えてくると、これまでの学校のやり方ではうまくいかなくなります。

長い時間学校にいることによって成り立つような仕事の取り組み方では無理が生じます。

また、早く帰ったり、急に休んだりする教員を少し「困った」ような感じに扱うようでは、本当に今後の学校が心配になります。

育休明けの教員が抱える難しさ

育休明けの教員は、色々な面で難しさを抱えています。

一つ目は、「数年ぶりに仕事に復帰する」ということです。

生活のリズムを慣らすことも大変ですし、システムの変更などへの対応も大変です。

ICTの進歩などで、数年間で根本的にやり方が変わってしまうものもあります。

情報機器が苦手でない人にとっても大変なことだと思います。

二つ目は、「子どもが保育園などに行く」ということです。

初めて子どもが保育園などに行く際、子どもにもよりますが、慣れるのにとても時間が掛かります。

毎朝、泣いてぐずる子どもの対応をしなければなりません。

また、新しい環境では、子どもは病気に罹りやすくなります。

それまで、基本的に家にいて子どもが保育園などに通い出すと、様々な流行り病に罹ります。

おたふく、水疱瘡、インフルエンザ、手足口病・・・。

育休明けの教員の働き方

そういったことを前提とした上での働き方を考える必要があります。

学級担任は、休みを取ることが難しい場合があります。

自分のクラスの授業参観を休む訳にはいきません。

そうであれば、育休明けの人にはクラスを持たせないというやり方があります。

時短勤務にするという方法もあります。

スムーズに復帰ができるよう最大限配慮することが大事でしょう。

特に復帰後の最初の一年をうまく乗り切れれば、その後は大きく崩れる可能性は減ります。

管理職を含め、周りの人はそういったことを意識し、関わることが大事になります。

最後に

現在、学校現場では、ベテランの技術を如何に若い世代に伝えていくのかということが課題となっています。

育休明けの教員は、そのつなぎ役になる世代です。

現在増えており、今後、増えることが予想される育休明けの教員をしっかりと現場に復帰させていくということは教育界における非常に重要なテーマです。

これは一学校の取り組みでできる部分とそうでない部分があります。

一学校で対応できない部分は、教育委員会、文科省などの「行政」、市議会、県議会、国会などの「政治」、大学、企業の研究所などの「研究機関」が連携しながら、より良い形を作り上げていく必要があります。

「育休明けの教員」を如何に学校現場に復帰させていくのかということが、今後の学校、そして日本のあり方を決めてしまうかもしれません。

スムーズに復帰できるケースが多くなることを願います。

鈴木 邦明(すずき くにあき)

帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。

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