教育トレンド

教育インタビュー

2015.05.19
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福田孝義 佐賀県が 1 人 1 台のタブレットPC を始めた理由。 「時代を生き抜く力」を育みたい。

1人 1台のタブレットPCに早くから力を入れ、全国から注目を集めている佐賀県。平成 26年度には、先行導入の県立中学校(4校)と特別支援学校(8校)に加え、県立高校(36校)でも全校で、タブレットPCの導入を開始。高校生に関しては5万円で購入し、私有の学習ツールとして使うことも話題となりました。なぜ佐賀県は、タブレットPCを導入したのでしょうか。そのスタートから現在地に至るまでの道程を、佐賀県教育委員会 副教育長の福田孝義氏にお聞きしました。

タブレットPCを導入した背景とは?

学びの場.comタブレットPCを導 入しようとしたきっかけは何だったのですか?

福田孝義教育の情報化を推進することによって、「今日的教育課題」を解決できるのではないかと考え、県として検討を始めたのが端緒です。

学びの場.com教育課題というのは、学力向上ですか?

福田孝義いえいえ、学力向上だけが主目的なら、タブレットPC 以外に他にも選択肢はいろいろあったでしょうが、佐賀県が目指したのは「時代を生き抜く力」の育成でした。情報活用能力、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力といった、社会で生きるために必要な力を高める手段として、ICTが有効ではないかと考えたのです。

学びの場.comそこからどのようなプロセスを経て、今回のタブレットPC導入に至ったのですか?

福田孝義まずは、平成 20年度から、韓国やシンガポール、フィンランドなど、海外を含め先行事例を調査。平成 21年度の「スクール・ニューディール」を利用して、小・中学校のモデル校に電子黒板を導入し、その効果も検証しました。
電子黒板の効果は、すぐに実感しました。特に、教師の指導力向上に効果があるとわかったのです。一方で、電子黒板の課題も見えてきました。電子黒板は一斉授業用のツールであり、教師の授業力を高めるには効果的ですが、個に応じた指導や個別学習となると、物足りない。やはりタブレットPCが必要ではないかと考えたわけです。

機器選定の条件は?

学びの場.com佐賀県は富士通製のWindows8搭載タブレットPCを選ばれましたが、その決め手は?

福田孝義まずは一部の中学校や高校にWindows7マシンやiPadを導入し検証を開始したのですが、いくつか課題が明らかになりました。
まずWindows7マシンは、反応が遅かった。デジタル教科書をめくる速度が、紙の教科書に比べて、かなり遅かったのです。一方iPadは、「ビューワーとしては素晴らしい」と評価されたものの、教師や生徒が独自の教材や作品を書いたり、作ったりといったクリエイティブな作業をするには物足りないと感じました。その後、Windows8がリリースされたのでこれも中学校で実証実験を行い、最終的には教委や実証校の校長、大学教授、業界関係者や保護者の意見等も聞いて、どの機種が相応しいかを検討しました。
決め手となったのは、対象が高校生ですので、3年後のこと。「大学や企業でも使えるか」という点です。
自己負担で購入し私有するBYOD(Bring Your Own Device)方式を採用しましたので、生徒達は高校卒業後もタブレットPCを使います。大学や会社でも使うことを考えると、やはりOf?ceは必須ですし、Windowsが有利。そこで、Windows8を搭載し、キーボードも付属している富士通製タブレットPCを選んだわけです。

学びの場.comBYOD方式を採用されたことも、大きな反響を呼びましたね。

福田孝義例えば教科書も、高校では有償ですよね。タブレットPCは、教科書や文房具等と同様に、全員に必要な教具・教材と、我々は考えています。である以上、高校生に関しては個人で買っていただく形がよいと、考えました。
学校の備品として生徒に貸与するという形では、自由に家に持ち帰ったり自分のデータを保存したりすることができないなどの制約もあります。また、卒業時に返却しなければなりません。家庭でもタブレットPCを個別学習のツールとして使い、卒業後も社会を生き抜くツールとして使うには、個人の所有物という形にするのが望ましいのです。

タブレットPCの活用状況は?

学びの場.comタブレットPCは、どんな教科で活用されていますか?

福田孝義あらゆる教科で、様々な活用が行われています。例えば数学では、かなりの学校で「GRAPES」というグラフ作成用のフリーソフトを使っています。関数を入れると、そのグラフが立体的に表示されるソフトで、今までは平面でしか見られなかったグラフを立体的に見られますし、関数を変えるとグラフも変わる様子を観察できます。
英語では、リスニングでクリップ教材がよく使われていますし、理科系科目では、実験動画を観察。家庭科技術科では、作業のお手本を動画で示すことで、よりわかりやすくなりました。
どの活用も、教師が自分なりに工夫し、今までの授業の中にタブレットPCを上手に取り込んでくれています。

学びの場.com先生方への研修も、かなり力を入れたのでしょうね。

福田孝義教職員研修は三段階で実施しています。まず、一期研修では、初心者の教師にICTに慣れ親しんでもらうことに重点を起きました。集合研修で各校の推進リーダーのスキルアップを行い、このリーダーがマスターした知識や技能を各学校に持ち帰り、校内研修で全職員に還元するという形ですが、推進リーダーの人選に当たっては、ICTが得意ということよりも、授業力・指導力が高い教師を選びました。
今後行う三期研修では、学校種や教科特性に応じて、教師の個性に合わせた活用を促す研修を計画しています。
ちなみに、文部科学省が実施した教員のICT 活用指導力調査で、佐賀県は全国最高を記録。実に95%の教員が、「授業中にICTを活用して指導できる」と答えています。一つの指標ではありますが、全国平均を大きく上回る結果で、頼もしく感じています。

学びの場.comタブレットPCを導入した効果は、もう出ていますか?

福田孝義よく聞かれる質問です(笑)。「成果」についてはまだ時間がかかりますが、「効果」はもう出ています。教師の指導力が向上し、「授業がわかりやすくなった」と生徒達からも好評です。また、生徒の興味関心も伸び、積極性がアップしました。「成果」を論じるには、もっとデータと分析が必要ですので、もうしばらく時間をください。

学びの場.com1人 1台のタブレットPCを整備する自治体は、今後ますます増えていくと思われます。そんな方々に、アドバイスやメッセージをお願いします。

福田孝義これまでの教育を、「子ども目線」=「未来志向」で見つめ直すと、タブレットPCは、情報活用能力やプレゼンテーション能力などの「社会を生き抜く力」を育むために必要です。生徒達が大人になって社会に出たときのために、情報活用能力やプレゼン能力などの力をつけてあげるのが、我々の使命でしょう。

福田 孝義(ふくだ たかよし)

佐賀県教育委員会 副教育長
高校教諭を長年務めた後、佐賀県教育庁企画経営 G 副課長、教育政策課参事、教育企画監などを歴任。平成 23年度、教育の情報化を掲げる佐賀県が教育情報化推進室を設置したのにともない、同室長に就任し、タブレットPCの導入などを推し進めてきた。

取材・文:長井 寛/写真:熊田雅徳

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