2015.08.11
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意外と知らない"学校での1人1台のタブレット活用"(vol.2)

教育現場で1人1台のタブレット整備が進みつつあります。前回は、教育用コンピュータ整備の歴史について紹介しました。第2回は、学校でのタブレット利用環境に必要な備品・設備とは具体的にどんなものか? また、導入はどの程度進んでいるのか? について説明します。

「教育の情報化ビジョン」が新たな学習環境を示唆

2010年にiPadが発売され、その後、AndroidタブレットやWindowsタブレットなども次々と登場し、持ち運びが簡単で気軽に操作ができる「タブレット端末」という新しい形態のコンピュータが瞬く間に世界中に普及しました。

日本の教育現場でもタブレット端末の登場は注目を集めました。それまで、主にコンピュータ室でしか利用できなかった従来のデスクトップパソコン等と比べて、軽量で、難しい配線が無く、校内どこからでも簡単にインターネットにつながるタブレット端末は、ICTを利用した教育を大きく変える可能性を秘めているからです。

2011年(平成23年)4月に文部科学省は、「教育の情報化ビジョン」を発表しました。これは、社会の情報化が急速に進展していることを踏まえて、21世紀にふさわしい学びの環境とそれに基づく学びの姿を示したものです。この中で、教育の情報化は「情報教育」「教科指導における情報通信技術の活用」「校務の情報化」の3点に整理されています。特に、教科指導における活用では、タブレット端末を児童生徒が利用して、子ども達一人一人の能力や特性に応じた学び(個別学習)や子ども達同士が教え合い学び合う協働的な学び(協働学習)などのICTの特長を生かした学習スタイルの実施が期待されています。

また、2013年に閣議決定された高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)の「世界最先端IT国家創造宣言」では、「学校の高速ブロードバンド接続、1人1台の情報端末配備、電子黒板や無線LAN環境の整備、デジタル教科書・教材の活用等、初等教育段階から教育環境自体のIT化を進め、(中略)2010年代中には、すべての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校で教育環境のIT化を実現する」と具体的な目標が掲げられ、文部科学省でも学校のICT環境を整備するために平成26年~29年の4年間で総額6,712億円の地方財政措置を講じるなど、学校へのタブレット端末の導入が急速に進められるようになりました。

タブレット端末1人1台環境とは?

では、学校における「1人1台のタブレット端末利用環境」とは、実際にどんなものなのでしょうか?

タブレット端末を使った学習環境に関しては、先生がどんな目的を持って、どんな授業を行うかによって、様々なパターンが考えられますが、ここでは1人1台のタブレット端末を、より有効に活用するために必要な教室環境について整理してみます。

図1は、タブレット端末を利用して授業等を行う際の、標準的な教室環境のイメージです(総務省「教育分野におけるICT利活用推進のための情報通信技術面に関するガイドライン」より転載)。それぞれについてもう少し詳しく紹介しましょう。

図1:タブレット端末が導入された環境のイメージ

図1:タブレット端末が導入された環境のイメージ

タブレット端末とは?

タブレット端末とは、タッチパネルやペンで入力ができるコンピュータのことで、タブレットPCとも呼ばれます。これまでのパソコンに比べて、薄くて軽くいため、持ち運びが簡単で気軽に使えることが特徴です。CPUの性能等は一般的なパソコンより若干劣ることが多いのですが、基本的にはノートパソコンなどと同等の機能を持っています。また、無線でインターネットに接続でき、基本的にケーブルに接続することなく、授業を行うことができます。

例えば、児童生徒がタブレットを持ったまま教室の前に立ち、自分で用意した資料画面を提示しながら発表をすることもできますし、手書き入力によってノート代わりにもなります。特別なソフトを使って、教師用タブレットからリモコンのように教室内の様々なICT機器を操作・管理することも可能です。

iPadのような板状のものや、着脱式キーボードを備えノートパソコンのように使えるものなど、様々な形態のものがあり、画面の大きさは、スマートフォンより大きく、パソコンより小さいものが主流です。また、多くの端末ではカメラ機能が内蔵されています。

写真1:タブレットPCの種類例

写真1:タブレットPCの種類例

電子黒板とは?

画面上でペンや指の動きを感知できるセンサーを備えている大型テレビやプロジェクタを総称して電子黒板といいます。教室の黒板のように提示したい資料やデジタル教材等を大きく投影し、その上から手書きで文字を書き込んだり、マーキングして強調することができます。また、書き込んだ画面を保存する機能を持っているため、授業中に画面を記録し、別の授業で再利用することも可能です。

電子黒板は、タブレット端末とセットで活用されることも多く、児童生徒のタブレット端末の画面を電子黒板に投影して、発表を行う際にもよく利用されます。

電子「黒板」という名前から、チョークを使う従来の黒板を廃止して、電子黒板に置き換えるものと誤解されることがありますが、それぞれに適した利用場面がありますので、あくまで従来の黒板と電子黒板は目的に応じて使い分けるものと考えた方がよいでしょう。

無線LANアクセスポイントとは?

タブレット端末等をネットワークに接続するための機器です。タブレット端末は無線LANを経由して、校内サーバーやインターネットに接続します。かつての校内LANといえば、ケーブルを学校中に這わせた有線LANが主流でしたが、無線LANの普及により、学校内どこからでもインターネットに接続できる環境が、比較的簡単に実現できるようになりました。このように便利な無線LANですが、外部からの侵入による不正アクセス等が無いよう、日頃からセキュリティ対策には十分な配慮が必要です。

タブレット用充電保管庫

タブレット端末を安全に収納、管理し、いつでも使えるよう充電しておくために、充電機能付きの保管庫は必需品でしょう。充電保管庫では、タブレットが収納されている間に充電することができますが、庫内に格納された全てのタブレット端末を同時に充電すると、ブレーカーが上がってしまう可能性があるので、タイミングをずらして充電できるようタイマーが内蔵できるものもあります。

また、キャスター付きのものは、多くの台数を移動する際にも大変便利です。

その他

タブレット端末等で使用する教材コンテンツやソフトウェアによっては、別途サーバーが必要となる場合があります。

各地で動き出した“1人1台タブレット”整備

教育現場でのタブレット端末導入は、どこまで進んでいるのでしょう?

文部科学省の調査では、2014年度までに学校ICT整備計画を策定ないし策定予定の自治体は、563(31.1%)に上り、また2014年度に導入されたタブレット端末の台数は前年度比でほぼ倍増となるなど、近年、全国の自治体でタブレット端末を整備する動きが活発化しています。

図2は、児童生徒用タブレット端末の1人1台(1クラスの人数以上の台数)整備もしくはそれに準ずる大規模な整備を行った自治体を地図上にプロットしたものです(総務省「教育分野における先進的なICT利活用方策に関する調査研究」報告書をもとに作成)。

2014年現在、149自治体で1人1台タブレット端末導入の取り組みが行われ、そのうち62自治体では既に全校で導入されています。

なお、この調査でいう“1人1台タブレット“とは、タブレットを使う授業等を行う際に、クラス全員の児童生徒にタブレット端末がいきわたる状況を指しており、必ずしも在校児童生徒人数分のタブレット端末を整備しているという意味ではありません。

図2:1人1台タブレット端末を整備した自治体

図2:1人1台タブレット端末を整備した自治体

また、教育機関側の端末導入費用の軽減や、家庭でもタブレットを使った学習などを行いたい場合などに有効な導入方法として、児童生徒が家庭負担で自分用のタブレット端末を保有(私費購入)する、いわゆるBYOD(Bring Your Own Device・学校への私物デバイスの持ち込み)という方法があります。

海外では、2013年度に、アメリカの学区の56%がBYODプログラムを実施し、カナダ・オンタリオ州でも2013年度に58%の小学校でBYODを実施したという調査結果があります。

また、デンマークでも2013年から児童生徒の端末は原則としてBYODで1人1台用意されるなど、先進各国でBYODの取り組みが広がっています。

日本でも、佐賀県の全ての県立高等学校や、各地の公立高校(千葉県立袖ヶ浦高等学校、京都府立京都すばる高等学校など)、私立学校でBYODが実施されており、一部の小学校でもBYODの実証研究が始まっています。

内閣府の「平成26年度青少年のインターネット利用環境実態調査(PDFファイル)」によれば、高校生の9割近くがスマートフォンを使ってインターネットを利用しています。授業中にゲームをするなどの学習規律上の問題、端末管理や情報セキュリティ対策等、検討課題もありますが、日本でもBYODが普及すれば、近い将来、定規やコンパスなどと同じように、自分のスマートフォンやタブレット端末を学校に持ち込んで利用するという光景が日常的に見られるようになるのかもしれません。

次回は、学校での様々な学習形態の中で、ICTがどのように活用されているのか、また、その中でタブレット端末の有用性はどこにあるのか、などについて実際に行われた授業等をモデルに紹介します。 

参考資料

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 井上信介

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