教育トレンド

教育インタビュー

2015.04.14
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堀田龍也 未来を生き抜く子ども達を育む教育環境とは

大学入試改革を初めとして、様々な教育改革が進んでいます。2020年の教育はどうなっているのでしょうか。長年にわたり、教育の情報化に尽力されてきた東北大学大学院 情報科学研究科 人間社会情報科学専攻 教授の堀田龍也氏に伺いました。

全ての改革はつながっている

学びの場.comここ数年、教育改革がこれまでになく加速しているように感じます。今、何が起こっているのでしょうか。

堀田龍也一連の流れを追っていくと、文部科学省から、2010年に『教育の情報化ビジョン』(注)が、2013年には「大学改革策定プラン」が発表されました。2014年には中央教育審議会が下村博文文部科学相の諮問に対し、センター入試の刷新も含めた「大学入試改革」を求める答申をしました。同年11月、下村大臣は「学習指導要領の全面改定」を中央教育審議会に諮問し、これから議論が本格化していくところです。これらの改革は、バラバラに行われているのではなく、すべてがつながっているのです。
(注)『教育の情報化ビジョン』=文部科学省が2010年8月にとりまとめた、2020年度に向けた教育の情報化に関する総合的な推進方策。

知識偏重の教育から思考力、判断力、表現力を育む教育へ

学びの場.com具体的にはどのようなことがこれから起こるのでしょうか。

堀田龍也様々な改革の中で、最も大きなインパクトは大学入試の改革でしょう。共通一次から名称は変わったものの制度はほとんど変わることなく30年以上続いてきたセンター入試が、ついに変わろうとしています。その背景にはICTの急速な進化、グローバル化、価値観の多様化などの背景も手伝って、社会が必要とする能力が変わってきたことが挙げられます。文科省は『教育の情報化ビジョン』の中で「21世紀を生きる子ども達に求められる力」を「幅広い知識と柔軟な思考力に基づく新しい知や価値を創造する能力」と明記しています。当然大学入試も、暗記した知識の量を問うのではなく、思考力、判断力、表現力を問うものに変わっていくでしょう。
大学入試が変われば、大学入試をゴールとする高等学校の教育も変わらざるを得ません。同様に、中学校、小学校の教育も変わるでしょう。これまでも教育改革は行われてきましたが、結局の所、大学入試がボトルネックになっていました。大学入試が変わることでドラスティックな改革がようやく可能になったのです。

情報活用能力を高めるアクティブ・ラーニング

学びの場.comこれらの改革は、教育の情報化にどのようにつながっていきますか。

堀田龍也今はたくさんのことを暗記しなくても、インターネットで調べたり、人とつながることで欲しい情報にたどり着くことができる時代です。これからの子ども達に必要となるのは、知識を必要以上にため込むことではなく「情報活用能力」なのです。「情報活用能力」とは、「必要な情報を主体的に収集・判断・処理・編集・創造・表現し、発信・伝達できる能力」です。このような力は、従来のように教師が教壇に立って一方的に発信する授業では育ちません。教師も児童生徒も自由に教室の中を動き回り、インターネットで情報を集めたり、グループでディスカッションをしたりプレゼンテーションを行ったりといった、アクティブ・ラーニングが主流となっていくでしょう。
そのときの教室環境とはどうあるべきでしょうか。自由に動き回れる可動式の机と椅子、調べたいときにすぐにインターネットが使える通信環境、考えをすぐにまとめて共有するための、タブレット端末や大型の提示装置。それらは遠い未来の教室ではありません。2020年度の実現を目標とする『教育の情報化ビジョン』にも、すべての学校で、生徒1人1台の情報端末による学習が可能な環境を構築する必要があると明記されています。

段階的に教育の情報化を進めていく

学びの場.com現実的には予算の問題もあり、教育の情報化は自治体によってばらつきがあります。

堀田龍也情報端末を1人1台導入しさえすれば教育の情報化が実現するわけではありません。むしろ、これまで電子黒板も十分に使いこなせていない学校が、いきなり1人1台 PCを導入してもうまくいかないでしょう。一気に完璧な環境を整えられなくても、段階的に進めていけばいいのです。
2009年の補正予算で、多くの学校でインターネット環境が整備され、電子黒板や実物投影機が導入されました。このときに現場の先生方が苦心して、既存の授業の中でどのように電子黒板や実物投影機を使えば効果的に児童生徒の興味・関心を高め、理解を深められるかを研究してきました。これが、教育の情報化の基盤作りになりました。
次のステップは、既に教室には電子黒板などの大型提示装置があるわけですから、ここに、グループに1台の情報端末を導入する。グループで情報端末を共有して、情報を集め、議論をし、考えをまとめて大型提示装置を使って発表する。他のグループと考えを比較しながら議論する、といったアクティブ・ラーニングが可能になります。
さらに次のステップでは、児童生徒1人1台の情報端末を使って、あるときはグループワークをし、あるときは個人で考えをまとめたりドリル学習をしたり、柔軟に学習活動をしていく。その学習記録は情報端末に蓄積され、教師は児童生徒一人ひとりに合った指導を行う。
その先は、情報端末を学校から支給するのではなく自分達が家庭で好きなものを買って持ってくる(BYOD:Bring Your Own Device)ようになるかもしれない。その頃には、教室での学びと家庭での学びがシームレスにつながっているかもしれません。

ビジョン、環境、指導力が、教育の情報化の成功の秘訣

学びの場.com教育の情報化がうまくいっている学校には何か共通点があるのでしょうか。

堀田龍也成功のポイントは三つあると思います。
一つ目は「未来を生き抜くために、このような児童生徒を育てたい」というしっかりとしたビジョンがあるかどうかです。多くの学校を視察してきましたが、教育委員会や、学校の管理職が、明確なビジョンを持ち、教師間でも共有できている、そういう学校ではICTの導入にも成功しているし、児童生徒の情報活用能力も高い。
二つ目は環境の整備です。情報化がうまく行っている学校は、ICTを使いたいときにいつでも使える環境が整っていて、既存の授業の中で自然に活用されている。わざわざ教室に電子黒板を持ってきて設置しなければならない、PC教室に移動しなければならない、そのような環境では教師もICTを使う気になれません。
そして、忘れてはならないのが、教師の指導力です。ICTを授業の中でどのように使えば子ども達の思考力、判断力、表現力を育めるか。優れた取り組みをしている学校では、日々、教師達が実践を積みノウハウを蓄積しています。これを学校間で共有し広げていくことで、教育の情報化が加速していくでしょう。
いくら教育環境が変わろうとも、大切なのは教える中身であり、教員の指導力なのです。

堀田 龍也(ほりた たつや)

東北大学大学院 情報科学研究科人間社会情報科学専攻・教授
熊本県生まれ。東京学芸大学教育学部初等教育教員養成課程卒業。電気通信大学大学院電気通信学研究科博士前期課程情報工学専攻修了。東京工業大学大学院社会理工学研究科博士後期課程人間行動システム専攻修了。工学博士。小学校教諭を務めたのち、静岡大学情報学部助教授、東京大学社会情報研究所客員助教授(併任)、文部科学省参与、玉川大学大学院教育学研究科(教職大学院)等を経て現職。

取材・文:石井栄子/写真:熊田雅徳

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