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教育インタビュー

2010.03.16
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パックン 小学校英語を語る 日本人教師はネイティブにはない英語指導力を持っている

パックンことパトリック・ハーランさんはNHK『英語でしゃべらナイト』の司会や、お笑いコンビ「パックンマックン」としておなじみのお笑い芸人。ハーバード大卒業後、努力して日本語を習得し、現在日本で活躍する彼に、平成23年度から必修となる小学校英語と語学教育について伺った。小学生が英語を学ぶ意義は? 日本人の小学校教師に英語を教えられるのか? パックンの語学教育論!

日本語を習得するしかない環境にあえて身を置いた

学びの場.comとても流暢な日本語で知られるパックンさんですが、アメリカの名門ハーバード大学を卒業後、日本にいらしたきっかけは?

パトリック・ハーラン(以下、パックン)外国語(日本語)を勉強したいと思い、友人を頼りに来日しました。福井県で英会話学校の教師をやることになったのですが、そこで働く日本人スタッフたち が、みなさん英語を話せる人ばかりで。僕は日本語を勉強したかったから「もっと日本語を話す環境に飛び込みたいのに!」って少々不満でした。しかも、日本 人のスタッフ同士は日本語で楽しそうに会話しているのに、僕には業務連絡的なことしか話しかけてくれないのです。それなら自力でなんとか日本語を勉強し て、みんなと同じレベルで話せるようにならなきゃと思って。

学びの場.com日本語の勉強はどのようにはじめたのですか?

パックン英会話学校でも日本人スタッフには、なるべく日本語で話しかけるようにしました。仕事がオフのときには、英語がまったく話せない日本人と積極的に付き合う ようにして、「コミュニケーションをとりたいなら、僕ががんばって日本語を習得するしかない」という環境にあえて身を置きました。このときの「たとえみん なを敵に回しても、日本語を覚えてやろう」という意気込みが、いまの日本語力に繋がったと思います。

日常には英語がいっぱい! 日本人は英語を話せる

学びの場.comパックンさんの日本語のように、流暢な英語を話せるようになりたいという日本人は多いのですが、日本人の英語の勉強が空回りしがちなのはなぜでしょう?

パックンひとことで言えば、必要性に欠けているからですよ。これは僕の〈日本人のみんなにわかってほしいTOP 10〉に入ることですが、日本人は自分で思っているより英語が話せます。たとえば「サッカーの試合を観に行きたい」を英語で言ってみてください。

学びの場.comえっ! 大学卒業以来、英語は全然勉強してないのですが。I want to see ……soccer games かな?

パックンほら言えた。じゃ、それをスペイン語では? イタリア語では? ロシア語では? 無理でしょう? でも英語なら言える。もしアメリカの学生がいまくらいの日本語会話ができたら、就活の履歴書に「特技は日本語」と堂々と書きますよ。NHKの『英語でしゃべらナイト』に出演中も思ったのですが、日本人は英語を話せない、話せないっていうけれど、みんなそこそこ話せます。英語ができないって思い込みすぎなんです。

学びの場.com日本人は自信を持っていいと?

パックンもちろん! なのに洋画には必ず字幕がつくし、TVの英語レッスンも易しいし。だから、日本人は甘えてしまっているのでしょう。そもそも日本語って外来語が多いでしょ? カメラ、ネックレス、ボタン、ディクショナリィ、ハローワーク……ハローワークってこれはかなりへんな和製英語だけど! まぁ、一応、英語は英語ですよ。日本人は知らない間に英語をいっぱい身につけているのです。必要性さえあれば、もっと話せるようになります。

ネイティブではない、日本人教師だからこそできる英語授業を

学びの場.com平成23年度から小学校では5~6年生を対象に、英語教育が必修になります。

パックン5~6年生から英語を勉強するのは非常にいいことです。〈言語は思考回路と等しい〉ので、母国語がしっかりしていないと結局、思考力も中途半端になってしまうのです。10歳までにまず日本語力を身につけてから英語を学ぶのは理想的ではないでしょうか。その年齢で学べば、恐怖心や拒絶反応もないし、日本人の“英語に対して自分の可能性を狭めるクセ”もなくなると思います。小学生の英語は“必要性”ではなく、“可能性”のために学ぶものですから。

学びの場.comでは、英語を指導する小学校の教師にアドバイスをいただけますか?

パックン5~6年生対象の英語なら、教師のみなさんが中学・高校時代に学んだ英語に含まれているものです。プロの教育者だったら何も恐れることはありません。  実は僕の母親も小学校教師でした。新しいカリキュラムが導入されると、教師は準備が大変なんですね。母も夏休みなどを利用して、教材を研究したり授業計画を立案したりしていました。でも、それらを使って授業が成功すると、ものすごく嬉しそうに家で話すんですよ。

だから、この機会に教師のみなさんも自分の英語力を少しだけアップさせて、その成果を子どもたちへの授業はもちろん、プライベートの海外旅行にも活用すればいいじゃないですか! それくらい楽しく英語を勉強して、その楽しさを子どもたちへ伝えたらいいのではないかなと、僕は思います。

学びの場.com最近の小学生には幼稚園生の頃から個人で英語を習っている子も多く、そういう子の前で授業をすることにプレッシャーを感じる教師もいるかと思うのですが。

パックンまず、“あきらめる”ことだ! つまり「自分は日本人だから、完璧な発音で英語を教えることはできない」と。そして「ただ5~6年生のあなたたちに役に立つ英語を教えることはできる。そのレベルからいきましょう」と、子どもたちにはっきり伝えたらいいんですよ。

学びの場.com宣言してしまうのですか。

パックン僕はね、日本に来て17年目なんです。それでも日本語のイントネーションは完璧ではないし、この先どんなにがんばっても100%正しい日本語を習得はできないでしょう。だけど、いつかアメリカで日本語を教えたいと思います。そのときはアメリカの学生に言いますよ。「僕は日本人の教師じゃない。でも同じ日本語を学ぶアメリカ人として、みんなの気持ち、苦しみ、つまずき、悩み、それは誰よりもわかる。僕も体験しているからね」って。  日本の教師が英語を教えるときも同じです。発音はネイティブにかなわないけど、ネイティブとは違う、日本人だからこそできる教え方があるはず。同胞としての強みを生かせばいいのです。

学びの場.com日本人はついつい完璧を求めすぎるのでしょうか? 特に英語に対して。

パックンそうですね。たとえば「今日はパイを作りましょう」と言って、出来上がったものが街のケーキ店レベルじゃなくても別に平気でしょ?「ちょっと今日はオシャレしよう」と思っても、“押切もえちゃん”にはなれないことは最初からわかっている。テニスだってゴルフだってそう。「いきなりプロ級は無理」って思っているでしょ? だれも完璧主義者じゃない。なのに、どうして英語に対してだけ完璧を求めるの? 今の自分のレベルからがんばって、少しずつ上達していく、そのプロセスを楽しめばいいんです。

外国語を学ぶと、さまざまな思考回路が養われる

学びの場.com今回の小学校の外国語活動には、コミュニケーション能力の育成が目標として掲げられています。

パックン有効だと思いますよ。日本語の場合、先生に対する言葉遣い、親に対する言葉遣い、友達に対する言葉遣い……と、それぞれ違いますが、英語では誰に対しても一緒。つまり、自分の考えや言いたいことをストレートに表現する言語なんです。英語を学ぶことで、そういうコミュニケーション能力を教わることもできますね。相手と対等に付き合いたいときは英語、そうでないときは繊細な日本語という具合に、コミュニケーション手段の一つの選択肢として持っておくと強いですよね。

学びの場.comなるほど。

パックン外国語を学ぶと、言語とともに“概念”が身につくんです。たとえば、僕は日本に来て「出る杭は打たれる」ということわざと、その概念をはじめて知りました。一方、英語には「軋む車輪は油をさされる」ということわざがあります。〈文句を言う人のほうがサービスを受けられる〉という意味です。これって「出る杭~」の概念とまったく逆でしょ。外国語を通してそういう考え方の違いを学ぶことで、さまざまな思考回路が養われますよ。

学びの場.comところで、パックンさんは日本人の奥様との間に、二人のお子さんがいらっしゃいますが、ご家庭内では英語ですか? それとも日本語?

パックン今年3歳になる息子と、1歳になる娘がいるのですが、家では妻は日本語で、僕は英語です。息子の発言の9割5分は日本語ですね。でも僕の英語を理解して、かつ英語で言えることもあります。それに関しては、英語で答えるように促します。たとえば、息子が日本語で「牛乳ください」と言っても僕は動かずに、「Milk please.」と言われて初めて「喜んで!」と冷蔵庫に行くように。

学びの場.comパックンさんのお子さんには、父のアメリカと母の日本という二つの祖国がありますが、将来はどのように考えているのでしょう?

パックン高校までは日本の教育システムがとてもしっかりしているので、日本の学校でも充分だと思っています。ただ、大学はアメリカに行かせたいなと考えています。“つぶしがきくスキルをしっかり身につける”という意味ではやはり優れていると思うので。大学に進む以上は、わが子にはしっかり論文を書ける、きちんと情報をアウトプットできる人間になってもらわなくては。社会に出たらそこが一番大事だと思うんです。

学びの場.comこれからは日本の小学生たちも外国語を学ぶことで、海外の大学に進学したり、海外で就職したりという選択肢が増えますね。

パックンそうです。5~6年生という頭も心も柔らかいうちに、さまざまな選択肢を与えて新しい思考回路を作っておくと、将来は自由自在に飛び回れる。日本のみならず世界でも、いろんな人とコミュニケーションがとれる、順応性の高い人間に育っていくことでしょう。

パトリック・ハーラン

1970年生まれ。アメリカ・コロラド州コロラドスプリングス出身。ハーバード大学比較宗教学部卒業。大学卒業後の93年、当時、日本に留学中だった中学時代の友人に誘われて来日。福井県内の英会話学校で教師をしながら、地元のアマチュア劇団に参加する。その後、役者を目指して上京し、日本人の相方である吉田眞とお笑いコンビ「パックンマックン」を結成。NHK『爆笑オンエアバトル』に出演し話題となる。03年から放送がスタートしたNHKの英語トークバラエティ番組『英語でしゃべらナイト』では、放送終了まで長年レギュラーを務め、全国区の人気者に。08年より相模女子大学の客員教授に就任。

インタビュー・文:寺田薫/写真:言美歩

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