教育トレンド

教育インタビュー

2022.12.16
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Nelke Planning 演劇文化から広がる世界、
子供たちが見つける“新しい自分”

<WELCOME KIDS PROJECT>

2022年11月15日、文化庁「文化芸術による子供育成推進事業(子供のための文化芸術鑑賞・体験再興事業)」を利用して、東京都渋谷区立幡代小学校の4~6年生約400人が天王洲 銀河劇場に招かれ、ミュージカル「Shuffle!~まぜこぜ図書館『若草三銃士物語』~」を鑑賞した。

この公演を企画したのは、今話題の2.5次元ミュージカルから小劇場系の作品まで幅広いジャンルの演劇作品を世に送り出し続けている舞台制作会社(株)ネルケプランニング。社名の「ネルケ」という言葉は、ドイツ語で"小さな花が集まって、ひとつになっている花"という意味である。常に観客に楽しさと驚きを届ける中、今年から会社全体で新たに取り組んでいるのが子供と演劇を繋ぐ<WELCOME KIDS PROJECT>だ。演劇文化に親しむこと、多彩なエンターテインメントに触れることで子供たちの中に何が生まれるのか──。プロデューサーを務める下泉さやか氏に、プロジェクトについてお話を伺った。(インタビュアー:横澤由香)

子供の観劇のはじめの一歩に寄り添う

横澤由香(以下、横澤)

「本公演は、〝WELCOME KIDS PROJECT〟として、お子様にもお楽しみいただける公演です。お子様、ご家族、女性、男性、世代問わず、誰もがそれぞれに、何かを心に残していただけるような作品をお届けします。」と説明があります。この試みはどのようにスタートしたのですか。

下泉さやか(以下、下泉)

私も含めて、社内に母親が増えてきて自然と「子どもも楽しめる作品をやれたらいいよね」という話が出るようになっていて、いよいよ今年の7月に「一度きちんとプロジェクトとして打ち出してみようよ」と。

<WELCOME KIDS PROJECT>が親御さんたちにとって、お子様にも安心して観ていただける作品ですよという旗印になったらいいなと思っています。劇場上演だけでなく、学校に上演しに行くなど幅広く可能性を探っています。

横澤

公演タイトルにそのキャッチが付いていることによって、子供の観劇のはじめの一歩に寄り添える。

下泉

子供たちにも静かに鑑賞し、拍手や手拍子は大歓迎!など、最低限の観劇マナーを身につける機会にできたら。大人は大人でじっくり静かに好きな世界に浸りたいのはもちろんですが、共有している空間を楽しむことを受け入れてもらえたらな、と。

横澤

本プロジェクトの公演として11月に東京・天王洲 銀河劇場で上演されたミュージカル「Shuffle!~まぜこぜ図書館『若草三銃士物語』~」(脚本・作詞:浅井さやか/演出:児玉明子)。嵐の夜、風に吹き飛ばされたふたつの名作文学『若草物語』と『三銃士』の紙芝居がごちゃ混ぜになり、入れ替わってしまった登場人物たちがなんとか物語を“新たな”結末まで導こうと奮闘するオリジナルのファンタジーストーリーです。題材はやはり子供を意識されたんですか。

下泉

そこまで意識はしていませんでした。シンプルに、かっこいい女の子とかっこいい男の子が真剣に戦う姿はかっこいい!という発想から、男女とも同じように活躍する物語というアイデアが生まれました。むしろ一番意識した点としては上演時間。上演時間を90分以内に収めるということは決めていました。

横澤

児童たちの集中力への考慮ですね。

下泉

はい。なるべく飽きてしまわないように、とにかく殺陣と踊りと歌をバンバン入れて。脚本の浅井さんには「エンタメ要素のシーンを多めに入れてほしい」とお願いしました。あと、難しい言葉はなるべく避け、言葉でいろいろ説明しすぎないこと。演出面でも演出家の児玉さんは、水から飛び出てくる表現や舞台セットの転換方法など、見た目の面白さみたいなことは意識して作ってくださいました。

児玉さんはセットにしても衣裳にしてもイメージを限定させるんじゃなく、まずは想像させたいということを強く提案されていました。「自由に見ていいよ」と、製作陣みんながそういう思いを抱いて作っていました。

横澤

作為的に子供たちの「面白い!」を引き出すことは難しい、と。

下泉

子供をワクワクさせるって考えれば考えるほどすごく難しくて。結局「子供がワクワクするということは絶対大人もワクワクできるよね」っていうところに行き着いて。私たちがワクワクできる作品を作ればいんだというところに辿り着きました。

横澤

役者の皆さんは、稽古中や本番での気の持ちようなど<WELCOME KIDS PROJECT>だからの違いなどはあったのでしょうか。

下泉

ダルタニアン役の小宮璃央くん(「魔進戦隊キラメイジャー」などに出演)は小学校の時に学校で演劇を観に行った経験があり、それを今度は自分が提供する側になるということに対して「すごく楽しみだし感慨深い」と、モチベーションを高くしていました。ただ稽古が走り出してからは現場で「子供はどう観るだろう」という話はほとんど出なかっですね。本当に普通の作品作りとなにも変わらない意識で取り組んでいました。

社会科見学のような要素も

横澤

いつもと変わらず良い演劇を作る。その中でも子供たちに「これは伝えていきたい」という送り手側のテーマがあるとすると…

下泉

例えば生の舞台に触れてそこで見た綺麗な照明に興味を持つ子がいてもいいし、「いらっしゃいませ」って劇場で迎えてくれる人をかっこいいなと思う子がいてもいい。自分もお話を書いてみたいと思うのも素敵だし、図工が得意ならあの小道具はどうやって作るんだろうと思うかもしれないし…舞台は俳優だけじゃなく多くのスタッフさんがいて色々な要素があって成立する、だからその人、そのポジションでいろんな表現の仕方があるということが伝わったらいいなって。

横澤

社会科見学のような要素もありますね。

下泉

そうなんです。演劇を使った表現やコミュニケーションのワークショップももちろんですし、スタッフワークのワークショップもやってみたいですね。衣裳さん、メイクさん…他にも色々と。ちなみに私の息子は小道具を作る「特殊造形のスタッフさん」が憧れの存在なんです。「あの剣もあの武器も作ってるの? 神じゃん!」って(笑)。そういうことで自分自身の興味が広がっても面白いよなぁと思っています。

横澤

本公演では幡代小学校さんの貸切公演を実施されました。その経緯は。

下泉

こちらからいくつかの小学校へお誘いをさせていただき、幡代小学校さんがぜひやりたいと言ってくださいました。実施については文化庁の「文化芸術による子供育成推進事業」へ幡代小学校さんから申請していただき、採択していただき実施につながりました。

横澤

みんな素晴らしい集中力で舞台に引き込まれていました。

下泉

子供たちって素直だから、最初に前説で「曲が決まって、ポーズが決まったら拍手してね」ってお話ししたら…

横澤

実際、すごい拍手でしたよね。

下泉

そうなんです! ブロードウェイ並みの拍手の量だったから、すごかったですね。全部に丁寧に反応してくれて。役者さんもノリノリでした。4~6年生って、こんなにしっかり観られるんだなと思いました。

横澤

今回は劇場での公演でしたが、いずれは学校へ出向くことも視野に入れて。

下泉

現在進行形で世の中で盛り上がっている児童文学や漫画やアニメ、私たちが得意としている2.5次元ミュージカル作品もぜひ学校で上演させてもらえたらと。子供たちが楽しめるエンタメの新しい扉をぜひ開いていきたいです!

心を豊かにするきっかけとして

横澤

観劇で本物のエンターテインメントに触れ、終演後、興奮気味におしゃべりしながら帰路に着く子供たちの姿は喜びに溢れていました。こういう体験こそ、何物にも勝る情操教育なのではないでしょうか。

下泉

演劇って直接的にも間接的にも学べる要素がいっぱいあって、演劇自体、演じる人たちや作る人たち、題材自体、何に興味を持ってもらってもいい。いろんなきっかけがいっぱい転がっていて、それが誰かにとっては夢中になれるものの発見にも繋がる可能性もある。子供の時代に演劇に触れておくことはきっと心を豊かにしてくれると思います。単純に「楽しかった」と思うことは体にも心にもいいので、体験として絶対に無駄にはならないと思います。少しでも演劇に興味を持っていただけたら、ぜひ一度劇場へ足を運んでいただきたいです。

問合せ先

WELCOME KIDS PROJECTに関するお問い合わせはこちら

下泉さやか(しもいずみ さやか)

ネルケプランニング取締役、事業本部 副本部長、第2制作部・第3制作部 部長。これまでに、少女☆歌劇 レヴュースタァライト-The LIVE-、『Oh My Diner』、「ちびまる子ちゃん」 原作35周年記念公演 ちびまる子ちゃん THE STAGE 『はいすくーるでいず』といった作品でプロデューサーを務めている。

取材・文/横澤由香 写真/©︎ネルケプランニング/S-SIZE

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