教育トレンド

教育インタビュー

2020.09.07
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若手教員3名 初任校での奮闘と思いを聞く(後編)

ICTを駆使し、コロナ禍もしなやかに、次の時代へ

2~3年目の若手教員の奮闘を、小学校、中学校、高校の各教員にインタビューする後編。今回は、新任教員らしいフレッシュな驚きやリアルな声、ICT活用やコロナ禍など今の時代に直面する課題をどう乗り越えたのかを伺いました。ご登場いただくのは、前編から引き続き、仙台市立錦ケ丘小学校の小野寺慧先生、栃木市立都賀中学校の布施智瑛先生、静岡県立磐田南高等学校の榑松宏征先生の3名です。

初赴任先でのとまどい

仙台市立錦ケ丘小学校 小野寺 慧 教諭

学びの場.com 初めての赴任先でもっとも驚いたことは?

小野寺 学校がとてつもなく大きいことです。A棟からD棟まで、どこがつながっているかなどを正確に把握するのに半年近くかかりました。地域の指定避難所としても設計されていて、まるで要塞のように感じる造りになっています。1年生だと、教室から体育館に移動するまで10分以上かかります。あと、プールが屋上にあり、そこから見える山並みがびっくりするほど素晴らしいんです。設計した方の強いこだわりを感じます。

布施 改めて、教師って一日中休みがないんだな、と思いました。朝7時過ぎには生徒が登校してきて、授業以外の時間は生徒の日記をチェック。放課後は6時半まで部活、翌日の授業の準備、気づくと夜という感じですね。こんなに忙しいんだと、軽くカルチャーショックを受けました。もちろん、新任時代は授業のストックがないため、そのぶん準備に時間がかかっている部分もあります。

榑松 驚いたのは、部活動のレベルの高さです。顧問を務める地学部では、私が大学で学んだスプライトという高高度発光現象(雷)をずっと追い続けています。このほかにもさまざまな研究実績があり、前顧問の先生からは「文化系の甲子園、全国高等学校総合文化祭の常連校だよ」とのこと。地球惑星科学連合(JPGU)の高校生セッションでも受賞しています。自分が顧問を引き受けて大丈夫かと最初は怖かったですが、今は慣れてきて楽しく取り組んでいます。

生徒の成長を実感

栃木市立都賀中学校 布施 智瑛 教諭

学びの場.com 教員になって、一番うれしかったことは?

小野寺 やはり、子どもたちの成長を実感できることです。私は持ち上がりで2年生のクラス担任になりました。だから、去年できなかったことができるようになる姿を見る場面が多いんです。また、1年生で担任していて2年生で別のクラスになった子が、わざわざ自分の教室まで「こんにちは」「さようなら」と挨拶に来てくれるんですよ。そういう日々をうれしく思います。

布施 私も日々、生徒が変わっていくのがうれしいです。中学生、特に男子生徒は、子どもから大人へと大きく成長する時期。教師とべったりだった距離感も、反抗期を経て、自立心が芽生え、徐々に変わっていきます。3年生ぐらいになると、大人としての会話も成立するようにもなります。少しずつ成長している姿が喜びです。

榑松 個人的にうれしかったのは、冬のスキー合宿です。ちょうど自分の誕生日と重なっていて、クラスの生徒が祝ってくれました。それが他のクラスにも伝わって、最終的にはスキー合宿の参加者から会うたびに「おめでとう」と言ってもらえました。最後は雪の中に投げられるという、高校生らしい祝福の洗礼も受けました。この出来事はずっと忘れないと思います。

経験の少なさを試行錯誤でカバー

静岡県立磐田南高等学校 榑松 宏征 教諭

学びの場.com 今、困っていることはありますか?

小野寺 教科指導が悩みどころです。まだイメージどおりの授業ができず、子どもたちが乗ってこなくて落ち込むこともあります。小学校は、同じ授業を他のクラスで修正できないため、1コマずつが勝負。気持ちを切り替えて、次の時間に臨んでいます。生徒指導に関しては、まだ2年生なので叱りすぎるとやる気をなくし、自由にしすぎると規律が守れません。いかに学ぶ集団へと育てていくか、先輩の先生方からアドバイスをいただきながら試行錯誤しています。

布施 指導に対する技量不足は私も痛感していますが、自ら課題を設けて進んでいくしかないのかなと思います。助けになるのは、やはり周りの先生方のアドバイスです。指導の場面一つとっても、どこでどのように、どんな話をするか迷うときがあります。そういった日々の具体的な事例に対して、「その指導をしたときの周りの生徒はどう思うかな?」などの問い直しやフィードバックをいただくことで、自分自身の新たな気づきにつながっています。

榑松 困っているのは、夏場の地学室が暑すぎることです。4階で日光が入るので、熱がこもるんです。普通教室にはエアコンがあるのですが、特別教室にはないため、先日、扇風機を7台置いて、窓全開で授業しましたが、気温は32℃のままで、実験に集中できませんでした。もちろん、設備不足については、創意工夫で乗り切っている部分もあります。例えば、普通教室には短焦点プロジェクターが設置されているのですが、スクリーンがないので、用務員さんお手製の白いプラスチックパネルを黒板に貼って代用しています。裏にマグネットがついているので、付け外しも簡単。映像も見やすくて重宝しています。

小中高それぞれのコロナ禍

錦ケ丘小学校のYouTubeチャンネル「Nちゃんねる」

学びの場.com 新型コロナの影響による、休校や再開対応についてもお聞かせください。

小野寺 休校中、仕事などで自宅に保護者がいない1~4年生を預かっていました。この子どもたちには、タブレット端末を1人に1台与え、自主的に学べる体制をとりました。使用したのは、算数ドリル「Qubena(キュビナ)」や、プログラミング学習用ソフト「Scratch(スクラッチ)」、教育コンテンツ配信サイト「NHK for School」です。自宅にいる子どもたちには、課題をポスティングや分散登校時に配布しました。さらに、意欲やモチベーションを上げるため、学校独自のYouTubeチャンネル「Nちゃんねる」を開設。学習動画のほか、子どもたちの元気がなくなってきていると感じていたので、レクリエーション的な動画も用意しました。私は、学年の先生方がそれぞれの好きな食べ物を当てる早押しクイズ番組のような動画を企画しました。子どもたちやそのご家族に好評だったようでした。

布施 休校時の対応については、登校日に宿題を手渡し、さらには各家庭に電話などで連絡を入れるというフォロー体制を採っていました。再開後は、生徒同士の机を付けてのグループワークも禁止になり、アクティブな活動と感染対策というダブルスタンダードをどう構築していくべきか、模索しています。情報担当として私が提案したのは、全校生徒が集まる密状態を避けるため、始業式などの集会をオンラインにすること。各教室のテレビに放送するシステムがなかったので、Web会議システムのZoomを利用しています。

榑松 休校期間は、授業支援クラウド「ロイロノート・スクール」を活用しました。使い方は先生によってそれぞれ異なり、なかには10~15分の授業動画を撮影し、端末に送る方もいましたね。分散登校時は、先生によってはZoomで朝のクラスミーティングを行い、健康観察・体温確認をしていました。学校再開間近になって学習プラットフォームの「Google Classroom」も利用するようになりました。これによって、再開後もアンケート調査の実施や、模試結果の情報収集、得点率の集計など、面談や紙ベースで行っていたことが、オンラインに切り替わりました。

日々に欠かせない必須アイテムとは

  • 「ブラサトル」

  • 日付入りの確認スタンプ

  • 「君の名は。」スタンプ

  • アプリ「GoodNotes」

学びの場.com 先生方の必須アイテムをご紹介いただけますか?

小野寺 「ブラサトル」という、眼鏡とホクロで私に似せたオリジナルキャラクターです。NHKの「ブラタモリ」をイメージしてサングラスにしています。休校中、子どもたちとのコミュニケーションを深めるため、クラウド上で閲覧できる学級通信を作成しました。そのコンテンツとして、私が毎日歩いた歩数(1日に1万歩強。在宅勤務の日も夜マラソンしていました。)と連動して、ブラサトルが県内を旅して名物などを紹介する、というものでした。子どもたちには好評だったようで、再開後の授業でもモチベーションが落ちてきたときに、「頑張ったらブラサトルの猿バージョンの花丸をあげるよ!」と言ったりして、集中力や意欲を引き出しています。

布施 日付入りの確認スタンプです。確認スタンプはたくさんの種類がありますが、意外と日付入りは少ないため、重宝しています。絵柄は、誰ともかぶらないだろうとカモノハシを選びました。でも、生徒はこのスタンプが珍しいことをわかっていません。このほか、提出物に名前を書かない生徒が多かったので、人気アニメのタイトルから拝借した「君の名は。」というスタンプも購入しました。こちらは業務用のゴム印メーカーに作ってもらった特注品です。

榑松 私にとって欠かせないのは、ノートアプリ「GoodNotes」です。これは、PDFファイルにタッチペンで書き込めるアプリです。授業は、生徒に配布したプリントをプロジェクターで映して進めるのですが、このアプリを使うことで書き込みながら説明でき、とても便利です。プリントには関連するNHK for SchoolやYouTube動画にアクセスできるQRコードを載せて、復習に役立てられるようにしています。

今後の目標について

モーニングルーレットと、帰りの会で引くおみくじ

学びの場.com 最後になりますが、2学期以降に頑張りたいことを教えてください。

小野寺 2学期の目標は、やはり授業の質を上げることです。私は、11日間の夏休み中に事例研究の文献や、教育書などを読み、「わかる授業」の実践に向けてのヒント・方法などを蓄えるよう努めました。また、子どもたちには、今年は新型コロナウイルス感染症で登校できなかったぶん、学校に来られた日は、「楽しかった!」と思ってほしい。そこで、2年生は朝の会でルーレットを回して今日のめあてを決め、達成できたら、帰りの会の際にくじ引きをして、その結果に応じてみんなでダンスする、先生が恥ずかしかった話をするなど、イベント的な要素を取り入れています。これは継続して行っていきたいですね。

布施 目標としては3つあります。まずは、健やかに2学期を乗り切ること。例年とは違い、4カ月半という長期間。夏休みは16日間だけで、暑い時期にも授業を行い、息抜きになるような行事もできません。生徒の変化に敏感に、しっかりと対応していきたいです。2つ目は、生徒の可能性を引き出すために何ができるか、より深く考えること。授業でも行事でも、今はいろいろと制約があると、教員が子どもたちを引っ張ってしまいがちです。コロナ禍という枠のなかで、子ども主体となるように指導や支援を模索しています。3つ目は、校内の情報担当なので、ICTの活用を広めることです。まだ苦手意識のある先生が多いのですが、今回、Zoomを導入するにあたり、勉強会などを通じて、便利さに気づいていただけた方も多くいらっしゃいました。いかに、役立つ情報を伝えられるかが大切だと実感しましたね。来年からGIGAスクール構想への対応も始まります。自分もICTの知識をより蓄え、きちんとした情報を提供し、浸透に努めます。

榑松 高校の場合、生徒が教師のことを知るのは、授業の場が多いと思います。授業がおもしろくないと、生徒は振り向いてくれません。そのため、地学の専門家として、より知見を深めていきたいと考えています。専門的なコミュニティーに積極的に参加し、常に最新情報が入ってくる体制にしたいです。最近、地震学会に入会しました。教員セミナーもあり、授業に役立つ教材や情報も得られます。こういった機会を逃さず、多くのことを吸収して授業に取り入れ、生徒に「地学はすごい!」と驚いてほしいと思っています。

記者の目

教員の喜びは、子どもたちの成長や、心の交流にある。これは、いつの時代も変わらないのだろう。しかし、学校を取り巻く環境や状況は大きく変化している。特に、今年はコロナ禍の影響で、それぞれの学校が独自のやり方でベストを目指さなくてはならなかった。だが、それがかえって、現場のしなやかさをあぶりだしたようにも思う。また、新任教員が現場のツールとしてICTを使いこなし、さらには浸透に一役買っていることもわかった。何があったとしても、教育は新しい未来を目指している。次の時代の教育を担っていく新任教員の活躍に、思いをはせるばかりだ。

取材・構成・文:学びの場.com編集部

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