教育トレンド

教育インタビュー

2020.09.07
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若手教員3名 初任校での奮闘と思いを聞く(前編)

新任2~3年目の目標、挑戦

教育の世界に挑む若手教員は何を思い、どう奮闘しているのでしょうか。小学校、中学校、高校からそれぞれ1人ずつ、2~3年目の方に実施したインタビューを、前・後編でお届けします。ご協力いただいたのは、仙台市立錦ケ丘小学校の小野寺慧先生、栃木市立都賀中学校の布施智瑛先生、静岡県立磐田南高等学校の榑松宏征先生の3名。前編では、お話を通じて、各学校や自治体独自の育成体制も含めてご紹介します。

仙台市立錦ケ丘小学校 小野寺 慧 教諭

学びの場.com まずは自己紹介からお願いします。

小野寺 慧(おのでら さとる・以下、小野寺) 仙台市立錦ケ丘小学校で2年生の担任をしています。正規教員になって2年目です。関西の大学を卒業後、地元である仙台に戻って教員になりました。小学校教諭免許のほか、中学校の社会、高校の地歴公民も持っています。

布施 智瑛ふせ ともあき・以下、布施) 栃木市立都賀中学校で、2年生の理科を担当しています。教員になって2年目です。1年目は副担任を務め、今年が初の学級担任です。大学では理学部で地学科に在籍しましたが、大学院修士課程で教育学研究科に進学して教育分野へと転向しました。経験者ではありませんが、部活動では卓球部の顧問を任されています。

榑松 宏征(くれまつ ひろゆき・以下、榑松) 静岡県立磐田南高等学校で地学を担当しています。教員になって3年目になります。1年目は副担任でしたが、2年目で1年生を、現在は2年生の学級担任です。課外活動では地学部の顧問を務めています。大学では理学部の地球科学科に在籍して、地学を専攻していました。

教員になろうと思った理由

栃木市立都賀中学校 布施 智瑛 教諭

学びの場.com 教員を目指した理由を教えてください。

小野寺 小学生のころからアイスホッケーに取り組み、大学もスポーツ枠で入学しました。当時は小学生にアイスホッケーを教えるという夢がありましたが、経済学部だったので中学校と高校の教員免許しか取れませんでした。そこで、小学校の教員になるために、講師から始めて、通信教育で小学校の免許を取得しました。講師を務めたのは、全校児童数49名という小規模校。授業はほぼ個別指導に近かったですね。そこで児童と密に関わり、一人ひとりの「わかった!」という笑顔にやりがいを感じました。その経験から、やはり小学校の教員にという思いが強くなっていきました。両親も教員だったので、教員を目指したことは自然だったように思います。

布施 大学に入学したときは、教員になるつもりはありませんでした。教職課程は取りましたが、教育関係の民間企業への就職を考えていました。ところが、大学3年のときに、教授の紹介で定時制高校のボランティアに参加したことで、人生が変わりました。ボランティアとして教育相談に関わることもあったのですが、そこで生徒に話を聞くと、さまざまな学習歴を持っていて、いろいろな思いを持っている。そういった生徒一人一人を支援することにやりがいを感じました。そして、より多様な生徒に関わってみたいと思い、中学校の教員を志望しました。

榑松 大学進学の際、夢が2つありました。好きだった地学を追究して気象庁などの地学系の仕事を目指すか、私に大きな影響を与えてくれた父と同じく教師になることを目指すか。大学で専門的に学んだことから、地学の魅力にますます引き込まれましたが、こんなにおもしろい学問なのに、受験科目として採用していない大学も多いため、地学の授業が行われていない高校もあるのが実態です。だったら自分がもっと広めたいと思うようになり、教師の道を選びました。また、地震や洪水などの自然災害が頻発している今、危機管理能力を高めるためにも、地学の知識を高校生に伝えるべきだと考えました。

それぞれが目指す教員の姿

静岡県立磐田南高等学校 榑松 宏征 教諭

学びの場.com どんな教員になりたいですか?

小野寺 子どもたちに、できる喜びを味わわせたい。そして、これからの学びにつながっていくように、先を見越した新しい教育を取り入れ続けたいと思っています。例えば今、授業ではタブレット端末を積極的に活用しています。ICTは未来を切り拓く力。その下地を小学校で育み、できる喜びを意欲に変え、中学、高校へとつなげたいと思っています。

布施 私が目指しているのは、生徒の可能性を最大化することです。そのために安心できる場を提供し、目指す将来に向かって後押しできる教員になりたいと思っています。

榑松 私も、生徒が自分たちの力をフルに発揮できるよう、あくまでも裏方のスタンスでいたいですね。生徒が進学するまではサポートしますが、主体性を大事にしたいと考えています。生徒が社会人になって、高校時代を振り返ったときに、良い意味で思い出してもらえる教員になりたい。自分が卒業生の思い出の中にいれば、うれしいです。

教育実習での経験

学びの場.com 教育実習で印象に残っていることは?

小野寺 小学校は朝からずっと授業があり、特に理科の実験は、早めの準備が必要ですが、それが間に合わず、散々な内容となったことがあります。先を見通す大切さを痛感しました。また、3年生を受け持ったのですが、大人の言葉では通じないんですよ。例えば、子どもたちが話している略語を使ったり、人気の漫画『鬼滅の刃』に例えて伝えたりなど、チャンネルを合わせないといけません。感情も大袈裟に表現しないと伝わらないことを知りました。

布施 私も実習で、チャンネルを合わせることが大事だと実感しました。五月雨登校の生徒がいたので、少しでも仲良くなろうとして、その子が好きなアニメを週末に見て共通の話題をつくり、思いも共有できるように努めたんです。すると、実習の最終日にクラスからとは別に、その子から色紙をもらいました。そのときから、子どもの「好き」や「ものさし」に合わせようと、普段から意識しています。あと、自分が中学生だったころより、良くも悪くも、生徒がおとなしかった。世代の違いを実感しました。

榑松 私は、大学のカリキュラムなどの都合で、高校ではなく中学校で2週間実習しました。理科の担当でしたが、専門の地学ではなく、物理だったので、一から勉強し直す必要があり、指導案づくりが大変だったことを覚えています。指導教員の方が夜8時になってもずっと完成を待ってくださって、私のやってみたいことや考えを尊重してくれました。きっと生徒に対しても、口出しせず待つという同じ接し方なのだろうと、感銘を受けましたね。それが自分の目指したい教員の姿につながっています。

初任校はこんなところ

学びの場.com 初任校について教えてください。

小野寺 錦ケ丘小学校は、仙台市でも指折りのマンモス校で、全校児童数が1,000名を超えています。教員も70名という大所帯で、職員会議で端の方の先生の声がよく聞こえないほどです。正規教員になる前に講師として勤務していた際は、同じ仙台市内ですが全校児童数が49名しかいなかったので、錦ケ丘小学校に来て、人の多さに初めて人酔いしました。今は、新型コロナウイルス感染症の対策として校庭の利用を分散していますが、以前は休み時間になるとたくさんの子どもたちが一斉に校庭に出てきて、元気に遊ぶ姿が見られ、その様子は圧巻でした。学習面では、自分の考えをしっかり持ち、友だちと積極的に意見交換する子どもが多いと感じます。

布施 私が勤務している都賀中学校は、栃木市と合併する前は、都賀町唯一の中学校でした。学区内には田園風景が広がる、比較的のどかな地域だと思います。普通教室のある校舎は、10年ほど前に建て替えられたものなので、設備は最新式。蓄熱暖房を取り入れているので、冬の日中は暖房いらずです。各学年は3~4クラスで、全校生徒はおよそ330人。教職員の数も多すぎず少なすぎず。複数の学年の授業を同時に受け持つことは今のところなく、初任校としてはちょうどいい規模だと、他の先生によく言われます。生徒の特徴は、自分たちで約束事を決め、自主的に動くという伝統を受け継いでいることだと思います。素直な生徒が多く、生徒会活動も盛んに行われています。

榑松 磐田南高校は、1学年8クラス、全校生徒は1,000名ぐらいです。全日制と夜間定時制があり、全日制は2022年に創立100周年を迎えます。静岡県内でも有数の進学校で、ほとんどの生徒が東大をはじめ難関国公立大学を目指して勉強しています。生徒が主体的に動いて、体育大会や文化祭の企画・運営を行っています。オン・オフの切り替えがしっかりしていて、勉強には集中し、学校行事にも力を入れている。自分の高校時代とは比べ物にならず、圧倒されました。

小中高の教員それぞれの研修・OJT

学びの場.com 初任時の研修や、OJT体制についてお聞かせください。

小野寺 仙台市にはフレッシュ研修というプログラムがあり、1週間に2コマの授業を拠点校指導員に見ていただき、指導を受けています。校外でも月1回の集合研修が初任から5年目まで実施されますが、現在は新型コロナウイルス感染症の影響でレポート形式に代替されています。今はいじめ対応に関する課題が出されています。校内では、生徒指導などの校務分掌について教務主任の先生に講義していただき、学年主任の先生に毎週週案をチェックしていただくという流れで進んでいます。先生方は疑問を1つ投げかけると10教えてくれる方ばかりです。日々の学びが現在の学級経営にもつながっています。また、全教員を対象にした校内研修も多くあり、30分前からコーヒーとお菓子を用意してカフェ形式で行われます。当校はICTを活用した教育の推進校なので、外部講師を招いたICTの新しいツールやその活用方法についての校内研修もあります。6年生のドローンを使った授業のための研修で、体育館で実際にドローンを飛ばしてみたこともあります。とても貴重な経験を積ませていただいています。

布施 校内では、初任者指導の先生との授業研修に加えて、人権教育や情報教育などについて、その分野の校務分掌の先生が分担して指導してくださいました。週に2回程度、1年間で60コマ程度が計画されています。その他に、県や市の研修が月に1回程度あり、そこでは初任者同士が集まり、指導教員を交えて授業の動画をもとに検討したり、教員としての心構えについての講話をいただいたりしていました。また、仲の良い初任の同期とは、臨時休校中にZoomで自主的な勉強会を行ったりもしていました。学校内での日々の困りごとや失敗に関しては、教科に関係なくどの先生にも相談できるのがありがたいです。

榑松 赴任当初、忙しそうな先生方を前に質問をすることをためらっていると、年代の近いひとりの先生が気にかけてくれました。一緒に校内を巡回し、機器の説明なども含め、半日も時間を割いてくれたんです。ほかの先生方も、相談をすると嫌な顔ひとつせず教えてくださいます。初めての学校がここでよかったと実感しています。研修も多く用意されており、特に、理科に関わる校外の研修の情報は、県から提供される情報のほか、地震学会や火山学会に入っている非常勤の地学の先生からもいただいています。夏休みには、県内の相良油田や伊豆ジオパークなどに足を伸ばしてフィールドワークにも参加しています。

記者の目

教員を目指す理由はさまざまだ。三者三様の話を聞き、改めて教員という仕事の可能性と魅力に気づかされる。また、自己研さんを基軸としながらも、学校や自治体独自の手厚い研修が実施されていることも伺えた。もちろん、地域差、リソースの差はある。しかし、教員へのOJTや日々のサポートにあたっている教員のまなざしは、どこも変わらず温かかった。人が成長する場とは、かくあるものと信じたい。後編では、新任教員らしいフレッシュな驚きやリアルな声、ICT活用やコロナ禍など今の時代ならではの奮闘をお伝えする。

取材・構成・文:学びの場.com編集部

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