2018.08.22
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学力調査のデータ分析を学力向上につなげよう! ~全国学力・学習状況調査を活用した石川県の研修リポート~

石川県教員総合研修センターが、県内280校全ての⼩学校・中学校の研究主任各1名を対象とする学力向上スキルアップ研修を開催しました。近年、教育現場でのデータ活用が注目されるなか、客観的なデータを使って子どもたちや学校の学力状況を明らかにするスキルの習得を狙ったものです。

その研修プログラムの中から、内田洋行教育総合研究所が担当した学力調査分析ワークショップについてリポートします。

石川県のこれまでの取組

石川県の学力は全国的に上位に位置しており、全国学力・学習状況調査(以下、全国学力調査)では例年高い成績を収めています。2017年度の全国学力調査では、都道府県別の平均正答率が小6・中3とも全教科2位以内に入っています。
表1:全都道府県における石川県の順位と平均正答率(教科別)
教科 小6 中3
国語A 2位(79%) 1位(82%)
国語B 1位(64%) 2位(77%)
算数/数学A 1位(85%) 2位(69%)
算数/数学B 1位(53%) 2位(53%)
(2017年8月27日付の朝日新聞記事をもとに作成)

このように石川県の子どもたちが高い学力を維持しているのは、石川県教育委員会や現場の教員の継続した取組の成果といえるのではないでしょうか。
県教育委員会は金沢大学と連携し、全国学力調査の結果から、県内の子どもたちの現状や課題、各学校の取組と成績の相関関係などを分析することに力を入れています。

図1:学びの12か条+(プラス)

そしてその分析結果は、県の学力向上の中長期的指針にも反映されます。「いしかわ学びの指針12か条」(2011年)と、その改訂版である「学びの12か条+(プラス)」(2017年)は、過去の全国学力調査の分析結果を踏まえて策定されました。

とくに「学びの12か条+」では、「いしかわ学びの指針12か条」以降の各学校での取り組みの成果をうけて子どもたちの課題が深化したことが反映されています。

例えば、改訂前に
4「『書くこと』『読むこと』を通して、考え方を身につけさせる」
となっていた指針は、学校で「書く」活動が定着したことや、教員の「書く」ことに対する指導の手立てが開発・共有されたことを受け、
5「目的や条件に応じて『書く』、必要な情報を『読む』態度・姿勢の醸成」
に変わりました。この指針のもと各学校では、より高いレベルで文章を組み立て記述できるような指導の研究が活発になることが求められていきます。

このように石川県では、県独自で学力調査のデータを分析し目標を立て、それを実践した結果を新たな目標にフィードバックするという、学力データ活用のPDCAサイクルが確立されています。そして次のステップとして、学校単位でそのサイクルを回すことが目指されています。教員自身が学力データを最大限に活用して授業や指導の改善をはかることで、各学校の学力を底上げし、県内の地域間や学校間にある学力差を縮めようとしています。

学力向上スキルアップ研修とは

以上のような背景があり、今年度より「学力向上スキルアップ研修」が行われました。この研修はデータ活用のスキルを習得し、新学習指導要領で目指されている学びを実現するための授業改善の方策を深く理解するために行われました。

県内の地域を3つに分け、それぞれ1日かけて行われた研修では、午前に学力調査分析ワークショップでデータ分析を体験し、午後には金沢大学の加藤隆弘准教授の講義を受け、全国学力調査分析が「いしかわ学びの指針12か条」「学びの12か条+」にどう活かされたか、指針をどのように日々の指導に繋げるかを学んだり、石川県教育委員会から教育施策についての説明を受けて改善の方向性や必然性への理解を深めたりしました。

今回の研修は1回きりで終わるものではなく、今後3年間をかけて学力データを活用する研修が計画されています。その間には各学校においても、学力調査を学力向上に活かすチームづくりを進めることが目指されています。

学力調査分析ワークショップレポート

ここからは、内田洋行教育総合研究所が担当した学力調査分析ワークショップについてレポートします。

主なプログラム

  • 9:40~10:10  話題提供
  • 10:10~10:55  グループワーク①
  • 10:55~11:40  グループワーク②
  • 11:40~12:00  全体共有
  • 12:00~12:15  ふりかえり

話題提供

教育総合研究所の平野智紀主任研究員から、全国学力・学習状況調査の概要が説明されました。調査目的の1つが「学校における児童生徒への教育指導の充実や学習状況の改善などに役立てる」ことだと、参加者に改めて意識させた上で、具体的な帳票の見方や分析のポイントが実例を交えながら解説されました。重要なのは、教科の平均正答率だけを見るのではなく、複数の帳票の数値を吟味し、解釈することだということが強調されました。

グループワーク①

教員を国語の分析グループ、算数の分析グループ、質問紙の分析グループに分け、各グループで帳票を読み取り、どんな解釈ができるのか考えました。使われたのは、2017年度全国学力調査の、石川県の小学校全体の結果帳票(国語・算数・児童質問紙)です。ここでの目標は、各教員が担当帳票の結果をよく理解し、他教員と共有できるようになることでした。

<参加者の声>
「設問ごとに解答類型を組み合わせた学力分析の仕方を体験したことで、課題をより明確にする方法を学ぶことができた」

グループワーク②

ここでは国語・算数・質問紙の各結果を分析した教員が1つのグループ(計3~4名)になるよう、グループが組み替えられました。まず各自の分析結果を共有し、石川県の児童の現在の姿について、根拠となるデータをもとに話し合います。教科と質問紙のデータを組み合わせた視点から児童の学習状況と授業改善の手立てに言及するなど、次第に議論を深め、最終的には「石川県の児童が伸ばすべき資質・能力とは、どのようなものか」をグループごとで模造紙にまとめました。

<参加者の声>
「それぞれの情報を持ち寄ると『やはりそうか』ということから『えっ?意外』と思うことまであり、今後の方向性を見つけるのに有効だと思った」

全体共有

最後は、会場内を移動して他グループがまとめた模造紙を教員が見て回る時間です。グループのうち1人がテーブルに残り、まとめた意見を他グループの教員に説明しました。説明係でないメンバーは違うグループの説明を聞きに行き、あとからグループ内で見てきた内容を共有しました。

<参加者の声>
「同じ課題でも、捉え方・まとめ方に違いがあり、勉強になった」
「自校でもやってみたいです」

学力調査の帳票は、子どもたちの学力だけではなく、学習状況や学校の取組の成果と課題など、様々なことを読み取ることができる情報の宝庫だといえます。研修に参加した教員たちは、複数のデータと、日頃学校で感じていることを重ね合わせて改善の手立てを探ることに手ごたえを感じ、学校で実践するイメージを掴んだようでした。

最後に、模造紙の中で「石川県の児童が伸ばすべき資質・能力」として挙げられたものをいくつか紹介します。

  • 学習したことを実生活に活用する力
  • 自分で課題を見つけ自分で解決する力
  • 多様なものの見方・考え方ができるようになるために、人とのつながり、体験から学ぶ力
  • 根拠をもって自分の考えを「持つ」、「選ぶ」、「表す」力
  • 要点・ポイントを意識して、読んだり書いたりする資質・能力
これらは、「学びの12か条+」の「2 自ら課題を発見し、主体的・協働的に課題を解決する力の育成」「3 根拠や道筋を明確に表現する力の育成」といった指針と重なっています。教員自身が調査結果を根拠として、県全体の指針とつながるような「伸ばすべき資質・能力」を導き出すことができたのです。
関連情報

【学力データ活用に関するお問い合わせ先】
株式会社内田洋行 教育総合研究所
教育データ活用推進担当:TEL 03-3555-4796

構成・文・写真:内田洋行教育総合研究所 研究員 加藤紗夕理、伊藤志帆

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

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