2016.02.09
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意外と知らない"学校教材(理科編)"(vol.2)

理科の「学校教材」のオモテ話・ウラ話をご紹介する3回シリーズ。第2回は、「ロングセラー商品」「近年ヒットした商品」、商品開発者目線による「隠れたおすすめ商品」、今だから話せる「失敗商品」をご紹介させて頂きます。

ロングセラー・ヒット商品 ~売れるのには訳がある~

前回、カタログの話の中でご紹介した通り、学校教材というものは、息が長く、また、その種類も多くあります。メーカーにもよりますが、ざっと見積もって約20,000点。その中でも売れる商品、売れない商品はもちろんあります。

長年に渡って愛されてきたロングセラー商品、また、学習内容の変遷等により、近年ヒットした商品の一例をご紹介します。

ロングセラー商品:顕微鏡KLシリーズ

直鏡筒の例

直鏡筒の例

無機質な実験室に少しでも彩りを取り入れたいという想いから、学校用として初めてカラー筐体を採用した顕微鏡が児童用顕微鏡KLシリーズです。また当時は価格の関係から、児童用顕微鏡には製造コストが低いシンプルな直鏡筒が多く採用されていましたが、将来研究者になった時と同じ形のものを使って観察が出来るようにと、傾斜鏡筒を採用しています。また、海外製造品が多くなってきた現在でもKLシリーズは熟練した職人による長野工場での国内生産にこだわり、シンプルながらも長く使い続けられる名器として四半世紀に渡って売れ続けています。

ヒット商品:物の重さ比較セット

2008年の学習指導要領改定で小学校3年には「もののおもさ」単元が加わりました。ここでは木や金属など、物質によって重さが異なることを学びますが、新単元の追加により新しい教材が必要とされたため、この単元の該当教材となる「物の重さ比較セット」は年間1万個以上販売されています。この教材は、6種の素材を全て同形状・同体積としたセットとなっており、素材の違いだけでなく、例えばプラスチックの中にも水に浮くくらい軽いものや、沈むくらい重いものといった違いがあることなどがわかるようになっています。また、サイコロ状ではなく、2×4×5cmの大きめな直方体に加工することで、手のひらやはかりに載せる底面積を変えて体感・計量することができるなど、発展的な学習を行える工夫が凝らされています。この単元には類似の商品も多数ありますが、本単元の先駆け商品であったことと、手のひらに収まった時に重さの違いをしっかりと感じられる大きさ、グラム単位の精密な加工精度などが評価されたようです。

【番外】再ブレーク商品:頑丈手回し発電機(リミッター付き)

2008年の学習指導要領改定で小学校6年には「電気の利用」単元が加わりました。その中ではコンデンサーなどに電気を貯めたり、電球を点灯させたりする際に手回し発電機を用いますが、6年生が手回し発電機を操作すると、ものすごい力やスピードで回した結果、部品の破損や、断線などの発生件数も多くなります。この商品は「頑丈」を売りの一つにしており、人為的な物理的動作を加える実験機の中では故障・修理対応率が極めて低くなっています。さらに電源コードが着脱式なので、コードに無理な負荷がかかった際は断線する前に外れるようになっています。また、多くの手回し発電機は最大12V近くの出力があるので、抵抗などを付けずに直接豆電球を点灯させようとすると直ぐにフィラメントが切れてしまいますが、この発電機のもう一つの売りである「リミッター」機能により、出力を接続機器に合わせて調整することでコンデンサーの蓄電や蛍光灯の点灯から、豆電球の点灯実験まで汎用的に使用できるようになっています。1985年発売のロングセラーモデルですが、「電気の利用」の単元化に伴い、新たに「リミッター」機能搭載モデルを発売するなど、再び人気上昇中です。

商品開発担当者の目から見た、隠れたおすすめ商品

商品開発者目線で見た、隠れたおすすめ商品をご紹介します。

【電球作製実験器】

近年LEDの発展と共に、フィラメント電球は姿を消しつつありますが、エネルギー変換の代表的な例と言えば、電気から光への変換でしょう。この電球作製実験器はフィラメントに身近なシャープペンシルの芯を用いて、電気→光の変換実験が手軽に行えるものです。変換実験だけならば、リード線と電源装置があれば行えますが、比較的高電圧・高電流が流れ、発熱するため、安全面への配慮が重要です。この実験器を使えば容器の中で行えるので安全に実験ができます。また、以下に示すような気体を注入する応用実験も手軽に可能であることから、単純ながらなかなか面白い実験器となっています。

実験の具体例としては、シャープペンシルの芯をフィラメントとして発光させる通常の実験方法の他に、中央の気体注入口から二酸化炭素・窒素などの不燃性ガスを注入し、本物の電球に近い状態を作り出すことで発光時間が大幅に伸びるようになります。電気の変換実験と同時に、気体の性質や、科学の生活での利用にまで幅を広げて授業展開ができます。暗幕で部屋を真っ暗にして実験するととっても感動的ですよ。

【石油・石炭標本】

小資源国日本としては、エネルギー問題に無関心でいるわけにはいきません。とりわけ現在の一次エネルギー構成比の大半を占めるのは石油・石炭(石油 約41%,石炭 約25%/出典:資源エネルギー庁 総合エネルギー統計2014)ですが、本物の石油(原油)に触れたことがある人はなかなかいないと思います。

また、アメリカを中心としたオイルシェール(岩石に含まれる石油)開発についても新聞紙上をはじめ、目や耳にする機会が増えてきていますが、この石油・石炭標本は、まさに石油・石炭といった近代・現代の主要エネルギーへの関心を増すことの出来る絶好のアイテムとなっています。なかでも、先のオイルシェールにあたるものがオイルライムストーンという名の岩石です。これは岩石内の細かな空洞に原油成分が詰まっており、この岩石を砕いた際には内部のオイルが揮発して、プーンと原油の独特の臭いが漂います。視覚だけでなく、岩石を砕くという動作、それと同時に発現する臭いによって嗅覚も刺激し、エネルギー問題をリアルに体感することが出来る教材セットとなっています。尚、オイルライムストーンは単品売りもしていますので、砕いて小さくなりすぎてしまった際に補充することもできます。

大きな声では言えませんが、正直イマイチだった商品ってありますか?

メーカーとしては、一度販売した商品は出来る限り長く供給していきたいと思っていますが、それがかなわなかった商品もあります。大抵は製造コストが高くなりすぎたとか、製造ロット数と販売数の乖離があまりに大きかった等、製造上の関係が多いのですが、中には「時代を先取りしすぎた?!」商品もありました。

今でこそtwitterは多くの人が使う便利なサービスですが、これを気象観測に取り入れた商品が2011年に「ツイート気象ロボ(27万円)」として発売されました。温湿度・風向・風速・雨量等の各種気象データを測定し、定期的にそのデータ値をつぶやくというものです。定点観測を、使い慣れたtwitterの画面上でPCやスマホで誰でもどこでも見られるという点、また、フォローしておくだけで他の任意の地点の状況も同様に見られるという点が優れていたのですが、当時はtwitterの認知度もまだ低く、まったく売れなかったため間もなく販売終了となりました。少々時代が早すぎたのでしょうか……。

次回は、先生方のアイデアを商品化する「発明考案品懸賞募集・アイデア募集」、実験器整備の強い味方「理振(理科教育振興法)」に関するQ&A、商品目線による「理科実験の安全管理」をご紹介します。

≪第3回へ続く≫

内田洋行教育総合研究所 研究員 田中俊成

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