意外と知らない"海外留学"(第1回) さまざまな留学とその準備

皆さんは、海外留学を考えたことはあるでしょうか。検討したことがある人もいれば、興味がない人もいるでしょう。
在留外国人の増加の背景もあり、日常で外国人と触れ合う機会が増加し、外国について学ぶ機会が増えています。そのような社会の中で、留学はキャリアプランの一環として欠かせない要素となっています。広い視野を持ったキャリアプランを考えるためにも、教師や生徒自身が留学に関する知識を持つことが重要です。そこで、今回は留学に関するお話を皆様にお届けできたらと思います。
海外留学に興味がありますか?
突然ですが、留学に興味を持っている生徒はどの程度いるか予測できるでしょうか。教員の方であれば、自分のクラス・学年でどのくらい心当たりがあるか考えてみてください。
文部科学省「トビタテ!留学JAPAN」の「海外留学に関する意識調査2024」によると、海外留学(在籍学校でのプログラムだけでなく、留学業者・NPO・財団等のプログラム、 海外インターンシップ、海外ボランティアなど広く海外での学習活動を含む)に興味がある高校生は約40%、実際に留学を考えている・実現した人は17%という結果でした。2.5人に1人は留学に興味を持ち、5人に1人は実現を視野に入れていることになります。
首都圏の国私立高等学校では、海外大学の現役合格者数/卒業生数が35%以上の学校(2024年度:北豊島、広尾学園、三田国際学園、東京学芸大学附属国際)も出てきており、進学先としても、留学は近年重要度を増しています。
2023年度の医師国家試験合格者9716人のうち、海外医学部の卒業生が全体の1.5%(145人)を占めるなど、日本の私立大学医学部よりも学費が安く、受験科目に数学が無いなど入学しやすい海外の大学で医師を目指す学生も増えています。
留学を必須にしている国内の大学もあります。2004年設立の国際教養大学(秋田県)が全学部で1年間の留学を卒業要件としていることは有名ですが、千葉大学でも2020年度から10日程度~1年間、オンラインも含め様々なプログラムを用意して、「全員留学」を実施しています。早稲田大学国際教養学部(1年間)や、関西学院大学国際学部(1ヶ月~1年)も留学が原則必須となっています。
留学の準備
さて、皆さんは海外旅行に行く際にどのくらい前から準備を始めますか?だいたい3~6か月前くらいから、早い人は1年前くらいから予定を立て始めるのではないでしょうか。
私費での短期留学プログラムは同じくらいの準備期間でも実現可能ですが、奨学金を得たり、長期留学をしようと考えると、2~3年前から準備が必要です。例えば、国内の大学に在籍中に1年間留学するにあたっては以下のような観点が必要となるでしょう。
- どの大学に進学するのか
多くの留学プログラムが用意されているなど、留学支援制度の充実度も大学選びの要素の一つになるでしょう。 - 留学時期のプラン
就職活動との兼ね合いも考えて、何年生のときに留学するかなど、留学前後も見据えたプランを立てる必要があります。留年せずに4年で卒業したいなら、海外で取得した単位の互換制度の有無などカリキュラム上可能な大学か確認する必要があるでしょう。 - 語学力
必要な語学要件を満たさなくてはなりません。英語圏のTOEFL iBTやIELTSは各都市で頻繁に実施されていますが、年数回しか実施されていない試験もあります。受験料もかかるので、期日までに結果を出そうとすると、計画的な勉強が必要となります。 - 金銭
求められる経済的要件(銀行残高など)を満たさなくてはなりません。奨学金をもらう・借りる場合は、その選考の準備もあります。 - 推薦状
何人に書いてもらう必要があるのか、どのような書式で書くのかを確認し、ゼミの教授などに余裕をもって依頼する必要があります。 - ビザ
留学する場合はビザが必要となります。オンラインで申請できる場合もありますが、通常、大使館や領事館まで、海外の大学の入学許可書など申請に必要な書類を集めて持参します。申請から発給まで3か月以上かかる国もあります。
余談ですが、私はビザの発行を甘く見ており、出国の2日前までビザが発行されず、当時はコロナ禍で、簡単に渡航できなかったこともあり、すごくヒヤヒヤしながらなんとか出国した苦い経験があります。(当時コロナ禍であったため、再度出国の準備をするのは相当大変だったのです。)
このように、多様な観点での準備が必要であり、中には準備に長期間を有するものもあります。
彬子女王『赤と青のガウン オックスフォード留学記』の中に、オックスフォード大学との交換留学・単位互換制度があり、留年せずに卒業できることが学習院大学進学の決め手になったというエピソードが紹介されていますが、留学に興味がある高校生にとっては、大学選びの時点から準備は始まっているとも言えます。生徒一人一人が、広い視野で多様な可能性からキャリアプランを模索できるように、教員・生徒双方に知識が求められるのです。
留学の種類と特徴
かなり前置きが長くなりましたが、具体的な留学の種類と特徴について紹介したいと思います。以下のように、留学と一口に言っても、多様な形態が存在します。目的と状況に合わせて最適なものが何か検討する必要があります。
形態 | 内容 | 期間 | 特徴 | ビザの種類 |
---|---|---|---|---|
大学(大学院)留学 | 海外の大学で学位を取得する。 | 2~4年 | 入試を受けなくてはならない。両方の大学で学位を取得できるダブルディグリープログラムなどもある。 | 学生ビザ |
交換留学 | 大学間の協定に基づき、一定期間他大学で学ぶ。 | 1学期~1年 | 学内選考がある。派遣先の学校で、単位を取得する。両方の大学で学位を取得できるダブルディグリープログラムなどもある。 | 学生ビザ |
短期留学 | 短期間のプログラムで海外の学校に通う。 | 数週間~数ヶ月 | 短期の滞在で、異文化交流や語学力向上など多様な目的のプログラムがある。 | 学生ビザまたは観光ビザ |
語学留学 | 語学学校で言語を学ぶ。 | 数週間~1年 | 私費留学。語学学校に通いながら語学力向上を目指す。休学の必要あり。 | 学生ビザ |
ワーキングホリデー | 働きながら海外で生活する。 | 最大1年(国による) | 私費。海外で働くことができる。30歳以下など年齢制限あり、期限付き。 | ワーキングホリデービザ |
インターンシップ | 海外の企業で実務経験を積む。 | 数ヶ月~1年 | 海外の企業で実務経験を積み、キャリアアップを図る。 | インターンビザまたは学生ビザ |
奨学金
さて、このように、多様な種類と特徴を持つ留学ですが、実際には多くの人が、その実現には困難を極めます。その理由は、ずばり経済的な障壁です。
円安が続いていることもあり、先に挙げた「海外留学に関する意識調査2024」では、「留学に興味や憧れを持ちながらも実際に留学していない高校生、大学生」のうち、いずれも80%以上が経済的な理由を挙げています。
しかし、返済不要の奨学金を利用できれば、その負担は大きく軽減することができます。
トビタテ!留学JAPAN
「トビタテ!留学JAPAN」とは、グローバル人材育成のために文部科学省が主導する官民協働の留学促進キャンペーンであり、日本の若者が海外での学びや経験を通じて視野を広げることを目的として、幅広い国・地域へ学生を派遣するプログラムです。学業だけでなく、インターンシップやボランティア活動など、幅広い経験を積むことができるプログラムとなっています。
大学のプログラムでの留学と違い、留学先での所属機関に制限がないことが最大の特長としてあげられます。例えば、NGOに所属してボランティアに参加したり、研究機関に所属して研究を行ったりと、自分の興味関心に合わせて留学プランを組むことができます。
もちろん、選考を突破することは容易ではありませんが、合格すると、以下のような返済不要の奨学金をもらえたりと、留学する若者を応援する手厚いサポートを受けることができます。なお、家計基準は「第二種奨学金」の基準となっており、基準外の学生も支援予定人数全体の1割程度を上限に採用するとされています。
大学の世界展開力強化事業
「大学の世界展開力強化事業」は、日本の大学が国際的な競争力を高めるために、海外の大学との連携を強化し、学生の国際交流を促進することを目的としている文部科学省の事業です。2021(令和3)年度から始まり、2025(令和7)年度からはインドなどグローバルサウスとの連携を強化する方針となっています。
実は、私もこの事業の1プログラムである、キャンパス・アジア・プログラムの制度を使って交換留学し、月8万円(※2022年当時、地域によって金額は異なる)の給付型奨学金をもらい、授業での単位取得を目指しながら研究生活をしていました。現地でアルバイトも行っていたため、実質的にかかった持ち出し費用は1年間で30万円弱でした。
もちろん、要件や選考等はありますが、こうしたプログラムを利用することで経済的な障壁を大きく下げることができます。
現地でのアルバイトなど
このほかにも、国や民間企業が行っている給付型の奨学金制度、あるいは大学によっては留学準備金や滞在費の一部を支給している大学もあります。経済的な障壁を下げるという点では、留学先でのアルバイトも一つの選択肢に入ってくるかと思います。
ただし、海外でアルバイトをする際は要注意です。それぞれの国によって、要件が決められており、その要件を満たす範囲で行わなくてはなりません。下表は2025年1月現在の例です。
国 | ビザ | 要件 |
---|---|---|
アメリカ | F-1ビザ、 M-1ビザ、J-1ビザ | 就労不可(学内アルバイトのみ週20時間以内で可) 特定の条件を満たして承認を受ければ可 |
オーストラリア | Student Visa | 2週間で48時間以内で可能 |
韓国 | D-2ビザ、D-4ビザ | 特定の条件をみたして認可をうけた上で、 平日20時間以内、休日は無制限で可 |
少し観点を変えてみることで、実現しやすくなるので、こうした知識を持っていると、留学へのハードルを下げることができるかもしれません。
第2回では、学校教員の留学や海外研修、海外派遣などについて紹介します。
参考資料
構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 鈴木 順登
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