2023.10.16
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意外と知らない"STEAM教育"(第2回) 実践事例紹介~国語や料理でも!

第1回では、STEAM教育の歴史や学校教育における位置づけをご紹介しました。このSTEAM教育をもっと多くの学校で、多くの生徒に体験してもらうにあたって、課題となっていることは一体何なのでしょうか。第2回では、そのキーワードとして、「理科嫌い、理科離れ」の側面から、子どもたちに必要なアプローチを考えていきましょう。

④STEAM教育拡大に向けた課題

第1回で、STEAM教育が日本でも求められるようになった背景の一つに、理科の勉強が楽しいと答えた児童生徒の割合が低いことがあると書きましたが、この傾向はここ最近のものではありません。図1は、理科の勉強が好きだと答えた児童生徒の割合を集計した全国学力・学習状況調査のアンケートの結果経年調査結果です。

こちらを見て、どのような感想をお持ちでしょうか。小学6年生の79.8%、中学3年生の66.4%が、「好き、どちらかといえば好き」と答えているという結果は、筆者が「理科嫌い、理科離れ」というキーワードから想像したよりも肯定的にとらえている児童生徒が多いのだという感想を持ちました。比較として、国語と算数・数学の調査結果もお示しします(図2)。

せっかくなので、3科目の比較をしてみましょう(図3左)。絶対値だけを比較した場合、小学校中学校共に、理科が好きだと答えた児童生徒の割合は他科目と比べて高いため、「理科嫌い」とは呼べないのではないかと思います。一方、小学校と中学校を比較したとき、国語のポイントは上昇しているのに対して、算数/数学と理科はポイントを下げていることが分かります。特に理科では10ポイント以上もスコアを落としています。このことから、「理科嫌い」というよりも、「理科離れ」が現状を表した表現なのではないかと思います。

少し蛇足ですが、国語は令和になってから小学校<中学校が2年連続しています。ぜひこのまま継続してほしいところですね!

この理科嫌いについて、もう少し遡ってみていきます。2003(平成15)年度のデータが図3右になります。今から約20年ほど昔の調査にはなりますが、やはり子どもたちは、初めは理科という科目を楽しみながら学習できていたにもかかわらず、だんだんその興味や関心を失ってしまう傾向にあるようです。

これはもちろん、内容の高度化や覚えることが多いことも一因となっていると思います。小学校高学年になると、ふりこや水溶液など、複雑な計算問題の割合が増えます。集団授業で進めている以上、遅れてしまった生徒に合わせて授業を遅らせるわけにはいきません。だからといって、理解が不十分なまま、点数のために暗記するだけでは、生徒たちは本来の学習の意味を見失ってしまいます。

2002(平成14)年度には、高校3年生を対象としたアンケートも行っています。「その科目の勉強が好き・どちらかといえば好きだ」と回答した割合は、国語45.2%、数学37.3%、物理38.3%、科学29.3%、生物41.0%、地学32.4%、英語40.0%と、中学校3年生よりさらに下がるものの、教科によって大きな差はありません。一方、「その科目の勉強が入学試験や就職試験に関係なくても大切・どちらかといえば大切だ」と回答した割合は、国語や英語が8割近いのに対し、数学は4割、理科は4割程度と低い結果だったようです。

個別最適化された学びの環境整備や、自分たちの学びがどう役立ち、学ぶことのメリットがどこにあるのか意識させられるような学習活動に変えていく必要があると考えられます。また、テストの点数という「結果」にフォーカスした評価法の他に、「過程・プロセス」を評価してあげることも、子どもたちのモチベーション向上につながるのではないでしょうか。

日本政府は2022年5月に「教育未来創造会議」で、理系分野を専攻する大学生の割合を現状の35%(2020年度の推計)から、2032年頃までに、50%程度に増やすという目標を掲げています。これは、イギリス45%、ドイツ42%(2018年度)、韓国42%(2019年度)、アメリカ38%(2017年度)よりも高い目標です。2013年の調査では、高校3年生で理系コースを選択している生徒数は、文系コースを選択している生徒の半数以下、女子では3分の1以下だったそうです。

STEAM教育によって理系分野への興味・関心が持続しても、理数系科目があまり得意ではないという生徒もいるでしょう。そのような生徒が理系学部に進学・卒業し、それを仕事にできる環境も整備しなくてはなりません。「探究型入試」も増えてきましたが、入学後のサポートに不安があると、高校の先生も勧めにくいでしょう。いずれにせよ、STEAM教育で理系人材の卵を獲得した後、専門的な人材に育成する橋渡し的な機能は、整備が急がれます。

⑤先生に求められること

続いては教える側、つまりは先生の目線からSTEAM教育についてみていきましょう。北澤・赤堀(2020)によると、日本型STEAM教育に向けた教師に求められる能力として、次の4つがあります。

  1. ICT活用指導力
    これに関しては言うまでもないでしょう。GIGAスクール構想によって1人1台端末が整備され、ICT機器を使った学習は飛躍的に拡大しました。そうしたICT機器を用いて問題発見・解決的な学習活動を行うためには、先生側もICT活用の技術的な側面について理解することが必要です。この流れを受けて、2019年度から始まった新しい教職課程では、ICTを用いた指導法や、アクティブラーニングの視点に立った授業改善に関する内容等が新たに加えられました。
  2. 教科内容に関する理解
    現在の教職課程では、専攻する教科の内容・教育法についての講義が中心で、教科間の関係性について理解させる機会は少ないようです。教科横断的なSTEAM教育の考え方を先生に身に付けてもらうには、自身の専門科目と異なる、複数の教科と比較する体験が必要であるとしています。
  3. 技術とかかわる教育的内容知識
    技術とかかわる教育的内容知識とは、①教育(子ども理解、教育方法、評価等)、②教科内容、③技術 に関する3つの知識を基本とし、これらが統合された知識形態のことを指します。教科内容や技術に関しては既にご説明しました。加えて、子ども理解、教育方法、評価などを含むSTEAM教育に関する知識もまた求められるとしています。
  4. 社会的構成主義に対する理解
    社会的構成主義とは、知識が協働的に構成されるとする考え方です。この考え方に基づき、子どもたちの深い学びを支援するためには、協働的な学びが有効であると先生自らが理解し、体験する必要があるとしています。関連して、何度も振り返りから再挑戦させることが子どもたちの主体性を高め、深い学びを促すことを理解、体験することも大切だとしています。

この論文は、教員養成段階に焦点を当てて書かれていますが、現職の先生たちにも同様の能力や理解が求められています。中学校、高等学校では他教科の先生と連携する必要があるので、意図的に学校全体で取り組む必要があるでしょう。

信州大学は今年度からSTEAM教育認定プログラムを開設しました。1年生で概論として、STEAM教育と各教科や関連教科との関係や実践事例を学び、4年生で実際にSTEAM教育の授業づくりをするカリキュラムになっているそうです。

⑥実践事例

今までSTEAM教育について見てきましたが、国の方針や国際比較など、少し規模の大きい話に受け取られた方もいらっしゃると思います。ここからは実際の教室でSTEAM教育がどのように行われているか、事例を見ていきましょう。

●バリアフリーをテーマにプログラミング的思考力を育成

埼玉県上尾市立鴨川小学校が、令和2年度 国立教育政策研究所教育課程研究指定校事業で実施した実践を紹介します。「総合的な学習の時間を主体とし、すべての教育活動を通して、必要な情報を取り出し、試行錯誤しながら継続的に改善し、最適解を見つける力」の育成に取り組んだ結果、児童の技能が向上し、目的や場面に応じてプログラミング教材を選択することもできるようになったそうです。例えば、4年生の「心の目~私たちが作る未来~」という46時間の単元の流れは次の通りです。障がいのある方の視点に立ったものづくり活動を通して、人に対する思いやりをもち、行動に表わそうとする態度を養います。

〈授業の進め方〉

  1. 障がいのある方がどのような問題で困っているか考え、それを解決するためのバリアフリーについて調べ学習を行う。
  2. 車いすでの歩行やアイマスク体験等の福祉体験を通して、障がいのある方の生活に多くの困難があることを理解させる。同時に、情報機器やロボットを活用する良さに気づかせ、プログラミングを実際に利用した支援等について調査させる。
  3. 自分たちも、プログラミング等により障害のある方の生活を支援できることに気づかせ、実際にプログラミングや情報機器等を利用した支援に取り組ませる。
  4. 実際のものづくりでは、実現させたい動きを明確にした上で、実機をプログラミングしながら表現させる。
  5. 中間発表では、ゲストティーチャーを招き助言や改善案を出してもらう。それを経て、自分の理想とする動きに近づけさせる。
  6. 創作物の動きを見せながら、自分の考えを発表してもらう。

●小学4年国語『ごんぎつね』をSTEAM化

経済産業省の2021年度「未来の教室」実証事業(テーマC:STEAMライブラリー構築に資するテーマ)に採択された関西大学初等部は、ごんぎつねを理科や社会科の観点などさまざまな角度から批判的に読んで問いを見つけようというSTEAM教育の実践を紹介しています。キツネの生態や、火縄銃のしくみ、うなぎの栄養素、物語の舞台として当てはまる城や山が実在するか、作者の新美南吉についてなど「調べていく内にどんどん疑問が出てきて、ワクワクした」という声が多く聞かれたそうです。

〈授業の進め方〉

  1. 6年生が4年生の時に読んだごんぎつねを読み直し、気づいたことをイメージマップにまとめ広げる。
  2. 自分が一番気になる疑問を選び、何を調べていくかフローチャートで示す。
  3. 自分の力で情報収集するほか、専門家にオンライン取材する。
  4. 自分が立てた問いに対してどのように調べ学習をし、まとめることができたかまで含めて発表。
  5. 生徒たち自身が作った評価基準をもとに、生徒たちが発表を評価する。

●美術を中心としたSTEAM教育

熊本県立宇土中学・宇土高校は、「美術やデザインが社会や産業といかに密接にかかわっているかを伝えたい」と、美術科の教諭が2016年度からSTEAM教育に取り組んでいるそうです。

例えば「橋づくり」のテーマでは、てこの原理や数学の展開図の知識、環境に調和するデザイン力など、様々な教科と関係します。中学3年生の生徒たちが10人1組で、大学の先生や土木の専門家にもヒントをもらいながら、全長50センチ、幅9センチ、耐荷力約2キロという条件で、紙の橋の模型を作り、耐荷力、重量(軽いほど高評価)、デザインという三つの観点で、出来栄えを競ったそうです。

●「情報プログラミング」を発展させて

聖学院中学校では学校独自科目「情報プログラミング」で学んだ多様な表現方法を他教科でも実践し、下記のように総合的なSTEAM教育を展開しているそうです。

  • 情報と理科
    石の生まれ変わり、火山活動によってどんな風に物質が循環し、どのように気候を調整しているのかを動画にまとめる。
  • 情報と数学
    空間図形の単元で、幾何の授業で学んだ正多面体の性質や幾何学模様の知識も活かしながら、オリジナルのインテリアグッズや文房具をデザインし、3Dプリンターで作品を制作する。
  • 情報と聖書
    自分たちで設計したクリスマスオーナメントを3Dプリンターで制作し、併設校や幼稚園のクリスマスツリーに飾る。

⑦家で手軽にSTEAM教育を実践するには

STEAM教育は家庭でも行うことができます。新刊紹介ページでもその一部を掲載していますが、STEAM教育をテーマにした実験や工作を家庭向けに紹介した書籍、パソコンを使わずに紙だけでプログラミング的思考を学べるドリルなどもたくさん出ています。

子どもたちが楽しみつつ学べるよう工夫された素晴らしいコンテンツが多くありますが、そういった特別なものがなくてもSTEAM教育は行えます。筆者がおすすめするのは料理です。料理のどこにSTEAM要素が??とお思いの方、少し考えてみてください。料理はまさに実験です。

調味料や調理方法は科学、うまくいかなかった時に修正したり、効率化したりする能力は技術(プログラミング的思考)、ものづくりと捉えると工学、盛り付けや彩りは芸術、調理時間や具材の割合は数学と、STEAMを網羅しているのです!お気に入りのメニューがどうやって作られていて、そこにどのような工夫が施されているのかは大人だろうと子供だろうと関係なく興味がわきますよね。成長期の中高生には、発育のために必要な栄養素や、それを効率的に摂取するための調理方法を調べてもらい、実際に料理を作ってもらうことも効果的だと考えられます。

その他にもSTEAM教育に役立つコンテンツはたくさんあります。経済産業省未来の教室HPのSTEAMライブラリーやEdTechライブラリーなどをぜひご覧になってください。

⑧終わりに

いかがだったでしょうか。STEAM教育の概要説明に始まり、どうして日本で取り入れられたのかという背景と、そこから理数教育に関する日本の課題について考察をしてきました。実際に教育現場でSTEAM教育がどのように組み込まれているか具体例を踏まえて見てきましたので、イメージもしやすくなったのではないでしょうか。STEAM教育の概念そのものは新しいですが、教材は私たちの身の回りにたくさんあります。子どもたちはもちろん、私たち大人も変化に取り残されないよう、教科横断的な学習をしていきましょう!

参考資料

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 西本 周平

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