2004.09.28
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トレーディングゲームで「働く」を考える 筑波大学附属坂戸高等学校

埼玉県坂戸市にある筑波大学附属坂戸高等学校にて、起業家マインド育成を目指した職業教育の授業が一日がかりで実施された。夏休みの最終日に学校に呼ばれた生徒たちは、「働くことはまだ先のこと。あまり興味はないかな。」(M.Sさん)「職業教育の授業はあまり好きじゃない。最後に結果を聞くのは面白いけど...」(K.Kさん)など、職業教育の授業については消極的なコメントが多かったのだが、次第にそのゲームの面白さに生徒たちは目を輝かせた。(取材日2004年8月31日)

































 筑波大学附属坂戸高等学校は、経済産業省の平成16年度企業家教育促進事業の一環で、モデル自治体の指定を受けている学校である。他にも、文部科学省の研究開発学校の指定も受けており、職業教育に関する授業への取り組みが盛んである。

 普段から、毎週2コマの職業教育の授業を受けている中学2年生の39名の生徒が公開会場に次々にやってきた。この手の特別授業は彼らにとって特にめずらしいものではなく、「うちの学校はこういうの結構多いよ。」とクールに答える生徒もいた。

 

・ 今日は何をやるのかな

 授業の開始と同時に、まず生徒たちと(株)ウィル・シードのインストラクターの間に、いくつかの約束がされた。「失敗おめでとう!」「答えはひとつじゃない!」「得意を生かそう!」これら3つの約束は、まさにこのあと行われるゲームで活かしてほしい要素が込められている。インストラクターは「誰かが発言したら、拍手をしよう。」という提案をして、生徒たちに積極的な発言を勧めたのだった。

 ゲームを始める前に生徒たちに、職業に関する問いがされ、よく考える時間が与えられた。世の中にはどのような仕事があるのかを各自で考えて10個ノートに書き込み、ひとり1つずつ発表をした。坂戸高校では職業訓練の授業が盛んであるためか、生徒たちは様々な分野から思い思いの職業を発表していった。全体的に男子生徒が記した職業は、警察官、消防士、弁護士、検事など公務員系が多く、女子生徒は、美容師、客室乗務員、アナウンサーなどといった、華やかな職業が多く見受けられた。男女問わずに多かったのが医者、看護士、医療技術者など、医療系であった。10個全てを一気に書き込む生徒や、10個はなかなか書き込めず友達のノートを思わず覗き込む生徒もいた。生徒によって職業に対する関心の深さは様々なようだ。

 

・ いよいよゲームの時間です

 まず始めに、「ゲーム終了の時点で一番お金を持っている国が優勝です。」と最終目標が伝えられた。このトレーディングゲームは、グループに分かれて国を運営し、国を豊かにしていくゲームだ。国によって条件は異なり、設定された資源や情報量など、その国の特徴を生かして商品を生産しながら資金を増やしていく、まさに起業家体験のできるゲームなのだ。
 各国に配られた封筒には、その国の資金・資源・技術にあたるお金、紙、ハサミ、鉛筆、定規類などが入っている。中身を出すやいなや、必要なものを考え他の国との交渉に向かうグループもいれば、どうしようか…と首をかしげているだけのグループもいた。

 


・ ゲームが進むにつれて…

 生徒たちの活動がようやく軌道に乗りだしたころ、「お知らせです!」というインストラクターの発表で、様々なアクシデントが起こり、生徒の思ったようにはなかなか進まない。アクシデントを回避する為には、他国の動向に目を向けたり、情報を集めたりすることが必要となる。情報収集の大切さを理解させることが狙いだ。
 ゲームも終盤になってくると、国によってはグループ内での役割分担がはっきりしてくる。特に話し合いをして決めているわけでもないようだが、交渉役に徹する者、黙々と規格に合わせて製品を作る者、他のグループやインストラクターの動きを察知して新しい手を考える者など、それぞれ自分の得意なことを探して一生懸命になっていた。

 


・ ゲームを振り返って

  ゲーム終了後、ゲームの前には職業教育の授業はあまり好きじゃない、と言っていた生徒にもう一度話を聞いてみた。意外にもゲームの順位は気にならないという。「一生懸命やったし、順位は別にいい。躊躇していないで、もっと行動すればよかった。」(K.Kさん)とても前向きな言葉が返ってきた。他にも、「封筒をあけるときは緊張した。もっと、的を絞って製品を作ればよかった。」(M.Oさん)といったような、ゲーム中を振り返って反省点を明確につかめた生徒が多かった。

 このゲームを活用した授業の狙いは、国の利益を上げるということではない。ゲームを通じて起業家体験をし、その中で生じてくる様々な問題をどう乗り越えていくか、一連の体験の中で学び、自己理解を深めていく。ゲームを通して生徒たちが得た "物事を総体的に考える"という機会は大変貴重なものだったのではないだろうか。

 今回の授業は、国から委託を受けて出張授業を行っている(株)ウィル・シードのスタッフと同校の担当教諭が事前の打ち合わせを重ねた上での実施である。同社のトレーディングゲームによる起業家教育は埼玉県川口市を皮切りに、昨年は、東京都千代田区、神奈川県藤沢市、新潟県長岡市などで実施された。本年度も、全国各地での実施が始まっている。小中高を合わせると、約30の自治体の200校にて実施の予定。実際に実施した学校は、坂戸高校のように、様々な指定を受けている学校だけでなく、一般の学校でも実施している。導入をするには、自治体が経済産業省に要望を上げ、自治体のなかの各学校長が手を上げる、という一連の流れとなる。国・地域・学校が三位一体とならなくては行えない仕組みになっているのだ。地域に還元できる人材育成に向けて、動きだす自治体が今後増えることを期待したい。

 このトレーディングゲームは、250社をこえる一般企業の新入社員や、中には役員に向けても行われるケースもあるそうだ。 

  (取材・編集:須藤 綾子)


 

◆ウィル・シード関連記事もぜひご覧ください
体感型シミュレーションゲームで起業家教育/川口市立芝西小学校

◆筑波大学附属坂戸高等学校のHPはこちら
http://www.sakado-s.tsukuba.ac.jp/

◆ウィル・シードのHPはこちら
http://www.willseed.co.jp

※今回の記事では、これからはじめてゲームに参加する方のために、ゲームの詳細にはあえてふれていません。

※当記事の情報は、公開当時のものです。

 

 

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