2008.04.18
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特別支援教育から見えてきたこと(1)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭 岩本 昌明

「作業学習」「生活単元」「自立活動」

この3語は、現在の特別支援学校で知った言葉である。正式には上の呼称ではないのかもしれない。
本欄の執筆者の一人である川上先生にとっては格別目新しい用語ではないのであろう。

私にとっては、その3語の区別やこの教科(?)分野・領域(?)とは何を意味することなのかさえ、ピンときていなかった。今も曖昧模糊としている状況は変わらない。その分野に精通されている方からすると、青二才がなんとピントのずれた話を書いているものだということになるかもしれませんが、誤り等には、どうかご寛容のほどをお願いいたします。

訳もわからずに光陰矢のごとしのように過ぎた2週間であった。

特別支援学校では、障害の程度が一人ひとりの児童・生徒で本当に異なる(まあ、全日制であっても、生徒の学力が、一人ひとり大きく異なるのである)。当然生活体験の違いも出てくる。ある児童・生徒ができる日常生活の項目が、別の児童・生徒ができるとは言えないのがごく自然である。教科指導以前で大きな開きが個別に生じている。

私は、特別支援学校でなくても、教科指導以前の事が欠けてきている児童・生徒が本当は増えてきているのではないかと、なんとなく感じていた。

私たちであれば無意識のうちに、体得している生活体験や生活上のルールや常識などがある。しかし、高校生段階になっても、習慣化されておらず、積み残しの状態が増えてきているような気がする。それらを一つひとつ噛み砕いて、一人ひとりの生徒に練習させ、体得させる必要があるのではないかと、ここ数年考えていた。小学校や中学校や家庭で、それぞれの発達段階や学習環境の中で、習得されることが、歯抜け状態のまま学年が進行してきている生徒が増えてきているようである。

具体的に挙げると、ある進学校で、炊飯実習を行った。なんとお米を洗剤と一緒に洗った女子生徒がいたそうである。この生徒は微分積分の問題は解くことができたが、ご飯を炊くことが出来なかった。お皿を洗うのと同じ感覚か知識であったのだろうか。洗濯物も、色落ちする衣類と白い衣類と一緒に洗濯機に入れてしまうこともある。乾燥機に入れないほうが良い衣類の区別ができずに、駄目にしてしまうこともある。

あるテレビ番組で、100gで130円の牛肉を600g買う計算を、某女子大生にしていた。その女子大生は、「グラム数と値段を考えて購入したことは無い」と、正答出来なかった言い訳を堂々としていた。ある高校でもバーゲンで3割引と30%オフが、同じだと知らない生徒がいると話題になった。さらに、いくら得であるのかすら分かっていないことも判明した。お金に関する概念がきちんと形成されていないことは心配である。高齢者医療保険制度などの仕組みも理解不能に繋がってしまう恐れすらある。ましてや道路特定財源の話などもついていけなくなるかもしれない。

教科の理解知識と生活に関する能力とがかけ離れている極端な例を挙げたが、大なり小なり乖離してきていることに、危機感がある。これまででなくても、なにか抽象的だが、生活能力が心配な子供が増えているのではないだろうか。特別支援学校で積年のノウハウは、この分野に生かせるものがあるのではないかと考えている。

英語教科担当としては、アルファベットが分かる。英単語が発音できる。英文の意味が分かる。日本文を英語に直せる。英語で自分の言いたいことが伝えられる。などに目を奪われて、これを如何に効果的に指導すること、そして楽しく〈やる気〉を持った授業はどうあるべきかに心血を注いできた傾向があった。仮定法や関係代名詞など文法事項を、どのように工夫して理解してもらえ、これらを習得させられるかに悩んできたこともあった。

でも、例えば、ノートをきちんと取ること。辞書を使えるようにすること。授業が始まったら席に着くこと。授業が始まったら教材を準備すること。予習・復習の習慣をつけること。人の話を聞くこと。質問などをするときの先生へ言葉遣いなどを、しっかりと指導してきたであろうか。一応この部分もおざなりにしないように心がけてはきたつもりである。でも、その拠り所をこの特別支援学校では、はっきりさせられるのではないかと私は考えている。最終的には、自分で学習できる生徒を育ててきたであろうか。自立した学習者を目指してきたであろうか。

レッスンを先に進むことで、進度に心を奪われて何か本当は大事なことを、置き去りにしてきたのではないだろうかと振り返っている。今、私は自分の英語教師としての20年間のあり方を、転換する視点を与えていただいているような気がする。

九九ができること。

四則計算ができること。

様々な学習内容が、この特別支援学校では、「自立のため」に生活と本当に身近に関連されるものが指導されている。入試や受験に英語が必要な生徒もいるが、ある意味教育の原点に立ち返る機会が与えられて幸せであると考えている。視覚障害があることは、児童生徒が自立していくために、いろいろと言葉で言い尽くせないほどの困難なことがある。それらを支援するために、不安を少しでも取り除くように、何ができるかも問われている。一筋縄ではいかないところに、私は〈やる気〉をそそられている。

次回からは、特別支援学校から見える英語指導や児童・生徒への取り組みと〈やる気〉などを考えてみたい。また特別支援教育が、他の校種に生かせる部分についても考えてみたい。おっと、ちょっと欲張りすぎかも知れませんね。

岩本 昌明(いわもと まさあき)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。

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