2008.04.17
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コーディネーター同士が繋がることの意味

東京都立港特別支援学校 教諭 川上 康則

4月1日より、本校も遅ればせながら「養護学校」から「特別支援学校」へと名称が変更されました。年度初めのまさにその日、今年度の巡回相談や研修講師の依頼の電話が数本ありました。取り立てて珍しいことではないとは思いますが、新年度のスタートを待っていたかのようにご連絡をいただけたことに、「特別支援教育」に対する期待と意欲を感じると同時に、今の子どもたち全般の発達や成長を支える領域としての責任を感じざるをえません。

さらに驚かされたことがもう一つ。電話をくださった方がすべて、その学校の「特別支援教育コーディネーター」であったことです。昨年度までもコーディネーターに指名された先生方から直接ご連絡をいただいた回数は決して少なくありませんでしたが、校長先生や副校長(教頭)先生からのご連絡のほうが若干多かったように記憶しています。今回ご連絡をくださったコーディネーターの先生方は、おそらく学校長からの信頼を得ているだけでなく、校内での「仕掛け人」としてのイメージをお持ちなのだろうと思います。

特別支援教育は、これまでの障害児教育の領野が培ってきた「個を見る」というミクロな視点に加えて、校内全体の理解・協力体制を整えるというマクロな視点が重要になります。川崎市の特別支援教育の先駆的な立場で、現在も小学校の教頭としてご活躍されていらっしゃる髙橋あつ子先生は、ご著書『一から始める特別支援教育「校内研修」ハンドブック』(明治図書)の中で、特別支援教育コーディネーターが、学校の中の「灯台守」の役割を果たさなければならないと言及しています。

灯台守は、自身の守備範囲と周辺地理の特性を踏まえて活動します。それに置き換えれば、特別支援教育コーディネーターも、自身の仕事の領域と学校の組織風土(雰囲気)をつかんでいる必要があるということだろうと思います。髙橋先生によれば、そうした洞察なしに「個々の子どもの理解を」、「個別の支援を」と訴えても、独り相撲になりかねないと言います。限られた時間の中で最短距離での海図を引く立場、立ち寄る価値のある港を見極める立場が特別支援教育コーディネーターの役割であるという主張には、大変説得力があります。

新年度の異動にともない、もしかしたら異動した先の学校でいきなり1年目からコーディネーターに指名されたという先生もいらっしゃるかもしれません。学校の雰囲気をつかむのに時間はかかるかもしれませんが、きっと学校の灯台守としての期待が込められているのだと思います。

保護者の皆さんにはあまり知らされていないかもしれませんが、すでに、全国の公立小・中学校ではその学校の「特別支援教育コーディネーター」と呼ばれる先生が指名されていますし(ほぼ100%)、公立高校、公立の幼稚園でもその機運が高まってきています。学校によっては、コーディネーターの果たすミクロ・マクロの視点をそれほど考慮にいれず、いまだ「なんとなく・・・」的な指名もあるかもしれませんが、そうした背景も踏まえて、今後はコーディネーターの仕事の具体的な中身が問われてきます。

前出の髙橋先生は、同書(p.3)において、こんなことをおっしゃっています。「特別支援教育に対する消極的な声は、年々小さくなっています。それは支援された子どもの笑顔が増えるからです。そして、教師が力をつけていくからです。」 特別支援教育への取り組みが、必然的に「授業改善」、「子どもたちの学力向上」、「不登校の減少」そして「教師の指導力向上」といった教育課題の直接的な解決につながることの証左です。

話は最初に戻りますが、各学校の「仕掛け人」としてのコーディネーターと、私のような特別支援学校のエリア・コーディネーターが連絡を取り合うさいの主体となるシステムは、おそらく当初の「特別支援教育」構想のモデルに近い形であったのではないかと思います。これまでのような学校種の壁を超え、各学校の創意的な挑戦を互いに支えあう関係を、現場レベルのつながりが築いていく・・・、これからも、灯台守であるコーディネーターの先生方から「立ち寄る価値のある港」として認めてもらえる「港特別支援学校」でありたいと思います。

川上 康則(かわかみ やすのり)

東京都立港特別支援学校 教諭
障害のある子どもたちの指導に携わる一方、特別支援教育コーディネーターとして小中学校を支援してきました。教育技術の一つとしての「特別支援教育」を考えていきます。

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