2008.04.04
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耳をダンボにして

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭 岩本 昌明

私は、8年お世話になった学校を離れて、4月1日より盲学校へ異動しました。
教員生活20数年にして初めての特別支援学校です。
異動したばかりで、まだまだ右も左も分からず、何もかも新鮮で戸惑っているのが正直なところです。
何気ないことかもしれませんが、まず人の名前すら上手に聞き取れないことに驚きを感じました。

職場の先生方の持つ声の質が、前任校の先生方と異なるのです。同じ日本語であるはずなのに、いや富山弁なのに上手に聞き取れないのです。濁音なのか清音なのかの簡単な区別すら難しく感じています。例えば、/kuro/なのか/guro/であるのかさえ、聞き逃してしまうのです。特に音声学面では、3音節の人名の真ん中の音が聞き難い傾向がありました。4文字の名前の方は、最初の2文字分が聞き取れず、後ろの2文字から名字を推測したりしていました。

人の名前ですから非常に気を遣います。でも初めのうちは、間違っても許していただけるようなので、単刀直入に「先生は、□○○さんですか。□△○さんですか」と、確認しています。尋ねられた方は、何をこの人は聞き返すのだろうと思っていることでしょう。お許し下さい。

私にとっては深刻な問題なのです。人と名前が一致しない状態の職員室で過ごす居心地の悪さは想像できますか。名前の分からない方に声をかけたり、物を尋ねたりすることに非常にエネルギーを費やします。本当に難しいのです。所在なさそうにして職員室内を肩身の狭い思いをして「ぼーっと」立っているオジンを想像してみてください。これを読んでおられる方、4月に入り、始めての職場や部署に配置された方は、なんとなく私の置かれている状況を理解していただけるものと思います。新入生の教室に知り合いが誰もいない気持ちが理解できました。

今、私は職場の先生方の発音に慣れるのに、耳をダンボにそばだてて過ごしています。教職員の方々の持つ口調の癖に慣れることが、まず大事ではないかと考えています。同時にその声の主は、誰だろうと考えています。

次に、学校内特有の業界用語というのがあります。
前の学校では、狂牛病ではありませんがBSEクラスMクラスという呼び方をして、クラスを呼んでいました。赴任された方は、私たちがBやSやEという英語名で会話していることに目を丸くしておられました。

今回は私の番です。「学部」「墨字(すみじ)」という用語が何度も飛び交っています。
「学部」というのは、小学部・中学部・高等部など分かれており、その組織をまとめた呼称です。私は、大学の何の学部の話かと思っていました。
「墨字(すみじ)」というのは、普通の印刷物全般の呼称です。「点字」に対する言い方です。書道の授業でもこの学校は特色があるのかと勘違いしておりました。

一日の中で、何度も時間をおいて耳に聞こえてきます。会議の中でも自然に使われています。このような学校の業界用語にも、慌てず慣れることが求められています。そして、どんな場面や状況で、先生方がそれらの業界用語を用いているのか、私は、アンテナを張り巡らしています。分からない時は、隣や前の座席の先生に聞くことが一番です。「聞くは一時の恥、聞かないで我慢しているのは一生の恥」ですね。

認めたくないのですが、歳を重ねてくると、悲しいかな順応性がはっきり落ちていると実感しております。でも、なんとか自分の心に「やる気」の種を蒔いて、道は必ず拓けると希望に胸を膨らませている昨今です。周りの方が見るに見かねて助け船を出してくれているうちに仕事を早く覚えたいものです。

岩本 昌明(いわもと まさあき)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。

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