2008.03.07
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机の修繕から見えたこと

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭 岩本 昌明

今日は午前中の学年末試験が終了し、生徒が帰った後、日曜大工のようなことをした。英語教師が電動ドライバーを用いて机の天板を取り替えることを行ったのだ。生徒用の机の傷や痛みがひどいからである。机を交換すると費用が高くつくので、天板の交換をすることになった。教育予算の緊縮ぶりが本当に身近になってきた。でも、私個人としては他に何か大切なことを気付くことになった。

比較的バブル時期に限らず、右肩上がりの経済成長を遂げていた時期は、学校の教材教具は、言葉が適切でないかもしれないが、使い捨ての発想が多かったように思う。つまりどんどん与えられた予算を消化するために、新しい物を購入して更新することを中心にしていた。故障があれば修繕することと同時に、新規に購入することを勧める傾向もあった。
英語教師として卑近な例を挙げるならば、ラジカセなどCDデッキ類が浮かぶ。私が赴任してきてから5年間に3台の機器を新規に購入していただけだ。それぞれ当時の授業方法に必要な機能が付いたものである。たとえばMDが使えるもの、ダブル録音が可能なもの等である。生徒らは今その恩恵を充分受けているが、必ずしも新規で揃えてもらう必要性が高かったかと言えば、買わずに我慢できた部分も否定できない。

さて、話が逸(そ)れていきそうであるが、机にしても、数年前の発想であれば、新品の机を購入してくださいと事務方にお願いして実現されたと思う。しかし、経費削減が至上命令になっている緊縮財政の下では、新規でなく、現在ある品物を最大限活用してという視点に変わってきている。つまり、現物を生かす工夫に智慧を絞ることになる。物を大事に使い活用する視点が強くなってきた。実際机の破損にしても、土台部分は問題がないのである。したがって天板だけの取り替えというのは自然な考えとなるのである。また、面白いことに天板だけが購入できるようになっているのである。本校だけでなく、全国的にそれだけ需要があるからかもしれない。

つぎに、なぜ天板の交換を、私のような一教員が行っているのだろうか。業者に頼むより、要するに人件費が浮くからである。なぜ英語科の教師がと疑問に思われたかも知れない。英語科の教師ということは全く関係がなく、教務部に所属しているからである。では、なぜ教務部の教員が天板の交換をしているのだろうか。それは、入試業務を教務部が担当しているからである。では、入試業務と天板の取り替えとの関係はと聞かれるだろう。それは、試験会場の机いすの整備が、入試業務の一つに入っているからである。そう、来る高校入試に使う机いすが、受検生に不都合にならないように校内の机いすの総点検をしたのである。そうすると日頃の生徒らの落書きやら彫り込みのある机が、悲しいかないくつも目につき、それで天板を交換して対応しようということなり、上述の話になるのである。教育予算でなく、入試準備のために行っただけなのである。

しかし、私は、修繕し交換することで、学校の備品や教具を大事に使い続ける気持ちを再確認できて良かったなあと感じている。同時に、生徒らがなんと机いすを大事に使用していないかを思い知る機会になった。一部の生徒らは、悪気無く机を自分の毎日用いる私物と考えている。一時的に借用させてもらっている公的なものという感覚が全く失われていることを思い知らされた。公私の区別が机に限らず、どんどん薄らいできているのだろう。逆に考えるとすると、自分が使用している物に対して、愛着なり愛情をもちすぎ、机にしても自分の所有欲が生じて、そのため天板に落書きなり個人的な書き込みや彫り込みをしても、構わないと感じてしまうのだと考えられる。けじめが大事なのだろう。
 
机いすに限らないが、これからの学校関連備品は、パーツが取り替え可能な品が重宝がられる時代に突入するのではないだろうか。もう既にこの視点は人口に膾炙しているのかもしれない。ただ教員という人的な部分だけは、非常勤講師や外部講師など、パーツ補完型は馴染まないと考えたい。
 
「さあ、明日は、この壁紙の破れたところを張り替えるぞ!みんながんばろう」
「とほほほ!!」今日とは違った別の人海戦術的入試業務が明日も続くのである。英語の教師の仮の姿はどこへ行ったものやら。

岩本 昌明(いわもと まさあき)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。

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