2008.02.07
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「授業中にカタカタと机や椅子を鳴らす子」から読み取れるつまずきのサインと、個別の指導計画

東京都立港特別支援学校 教諭 川上 康則

第23回目の記事です。今回は、授業中に落ち着きなく、椅子や机をカタカタと鳴らしてしまう子のつまずきを取り上げます。

第6回目の記事(「“授業中の手遊び・足遊びが多い子”から読みとれるサイン」、2007年6月14日掲載)でも取り上げたのですが、こうした身体の一部や物をつかったあそびは、感覚への何らかの刺激を作りだす「自己刺激的な行動」であって、多くの場合無意識的に行われます。「感覚って、どんな感覚?」と思われる方も多いと思います。一般にはあまり知られていませんが、「固有受容感覚(または固有感覚)」という感覚です。いわゆる五感には含まれていないのでイメージしにくいと思いますが、ごくごく簡単に整理すると、関節の角度を調整したり、筋肉の張り具合を調整したり、骨に伝わる振動を感じたりする感覚のことを言います。五感の根っこにある感覚と言い換えてもよいと思います。

今、この記事を読んでいらっしゃる方の多くは椅子に腰かけた状態でディスプレイに向かっていらっしゃると思います。びんぼうゆすりのように、小刻みに足を揺らしてみてください。床を踏む小さな振動が、ふくらはぎや太ももの筋肉に伝わりますね。その振動は、脚の骨にも腰回りの骨にも伝わります。脳でもその振動が「感覚に伝わっていること」を感じ取ります。足を置く位置は変えていないと思うので、床や椅子に触れている感覚(触覚)の変化はありません。視覚、聴覚、味覚、嗅覚のいずれも感知していません。このときに使われているのが「固有受容感覚」です。

こうした感覚が無意識的に働くからこそ、人は、必要なときに必要な動作を自然にとることができます(たとえば、食事場面で、箸はこうやって持って、食べ物をこうやってつまんで、口に運ぶ時には肘をこの角度にして・・・、なんて考えながら食事することはあまりないはずです)。しかし、無意識的に働いてしまうことが逆に自己刺激的な行動を誘発しやすくなります。雨上がりの午後、傘を手にした小学生が学校のまわりに張り巡らされた柵に傘を当て、「カタカタカタカタ」と音をさせながら帰宅する姿を想像してみてください。あの行動がまさに固有受容感覚を使った自己刺激行動です。

こうした行動が授業中に出やすいということは、少なくとも、(1)自分に向ける「注意」の機能(セルフ・モニタリング)が働いていない、(2)授業内容や課題に対し「注意」を向けきれていない、など注意の機能のつまずきを示していると思います。退屈やぼんやりしているときに出やすいのです。この行動が出ないうちに話を切り上げたり、本人に気づかせてあげたりするような工夫が必要だと思います。

ところで、「カタカタ」と音をさせることが多い場合、授業の進行の妨げになることから「問題行動」と受け取られることが多いようです。個別の指導計画をみると、目標の欄に「○○をやめさせる」と書かれているものが多いのを感じます。しかし、「やめさせる」と表記した場合、その主語となる人物は「教師や大人」になるはずです。本人の目標にはなりえません。本人が自ら「この行動をとめたい」という意志に基づいて行動しなければ、なかなかやまないのだろうと思います。

個別の指導計画を作成するさいには、ぜひ、本人の意志を大切にしてあげてください。大人が禁煙や禁酒を決意するときに、周りから言われるよりも自分の意志で始めたほうが効果が大きいのと同じで、「この行動をやめたい」と自ら感じ、「やめる」ことを自己目標にできるように仕向けてあげてください。押しつけの目標よりも、きっとうまくいくと思います。

川上 康則(かわかみ やすのり)

東京都立港特別支援学校 教諭
障害のある子どもたちの指導に携わる一方、特別支援教育コーディネーターとして小中学校を支援してきました。教育技術の一つとしての「特別支援教育」を考えていきます。

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