2008.01.25
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クイズ番組から考えたこと

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭 岩本 昌明

最近「おばか」を扱ったクイズ番組を見た。
「えっ!?」「本当に!?」
と驚きながら、司会者の軽妙なトークについ引き込まれて、笑いに陥った。
と同時に、この番組に出演している特定の芸能人らだけの実態と済ませて良いのだろうか。もしかすると、氷山の一角で、ある程度の割合の日本人の実態を反映しているのではないのかと心配した。やらせとまでいかないだろうが、笑いを取るために、ワザと出来ないふりをしているのではないかと思う場面もある。
悲しいことに、おおむね彼ら彼女らの実情をさらけ出しているようだ。

時間を扱った小学校高学年程度の算数の問題、漢字混じりの文章を読んで、味方のチームに答えさせるコーナー、言葉や物の名前をどのくらい分かっているか、体を用いて表現するコーナー、早押しで質問に答えるものなどあった。

私は、
「この芸能人はこんなことを知らずに、分からずに大人にどうしてなることが出来たのか」
と、正直悲しくなって見ていることが多い。
「彼ら彼女らにとって義務教育期間または高等学校や大学時代は、何だったのだろうか」
と考えさせられている。
学校教育が何でも責任を負う必要はないのだろう。
では、この芸能人たちにとって、家庭での教育らしきことは、どうであったのだろうか。親や兄弟と触れ合う中で、無意識のうちに蓄積されたものはなかったのだろうか、友人とのふれあいの中で培ったものはないのだろうか、……等。

私が特に気になったコーナーは、ある事柄を、体で表現したり、セットしてあるブースの品物を用いて表したりするもの。たとえば
「つちふまずはどこか、指さしてみなさい」
という出題があった。
スポーツ経験のある芸能人はさすがに分かっていた。今まで他の問題は驚くほど知らなかったり、分からなかったのにもかかわらず。
お笑い芸人は「つちふまず」が分からなかった。彼が今まで生きてきて、この「つちふまず」という言葉に出会わなかったのだろうか。出会ったとしても、この言葉に気を止めたことがなかったのだろう。
特別難しい表現や品物を尋ねているのではないので、その「おばか」ぶりに、視聴者は多分驚きとおかしさの両方を感じるのかもしれない。私は、同時に
「この出題方法を授業で利用可能ではないか」
と考えてしまう。こんな自分の性分に正直呆れている。

一方、目の前の生徒らを考えてみた。
食事時でも、一人で個食であり、家族団らんが少ないようだ。家族と一緒に食事をしているとしても、親子が会話するのではなく、テレビを見ているだけかもしれない。
親子が一緒にする作業がなくなってきている。皿を洗うでもなし、トイレや風呂場の掃除を一緒にするでもなし、親子が一つ家の中で生活はしている。
でもその中である程度の疎通が図られているだろうか。親子関係が実は希薄になっているような気がする。
友だち同士でも、ゲームを介在して一緒に遊ぶことはしている。しかし、そこには会話が見られず、手先を器用に動かすことと、血眼になって疲れる目の動きしかないようだ。
一昔前の野球を戸外で異世代間ですることや鬼ごっこやかくれんぼも、現在は全くなくなっているようだ。

比較することは容易くないが、ここ20年ほどの文化の継承が、家庭でも学校でも友人間でも非常に希薄になってきていることが、クイズ番組の根底に流れている気もする。全ての理由にはならないが、いくつかの一つと考えることは可能かもしれない。
大上段に「勉強」「学習」と構えなくても、なんとなく日常生活を送っていく中で、無意識に学んで、歳を重ねてきた日本の「目に見えない文化・ちから」が衰退しているのではないだろうか。「目に見えない文化・力」を継承することが、これからの課題なのかも知れない。

あまり深刻にならず、わたしは、この番組の笑いからエネルギーをいただいている。決して、自分はこのくらいは知っているぞと優越感に浸っている訳ではない。むしろ、授業で使えそうな手法を手に入れてほくそ笑んでいる。これをネタに授業の導入は、しめたものだ。情けないが一種の職業病かもしれない。

岩本 昌明(いわもと まさあき)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。

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