2008.01.24
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教師のアセスメント、学校組織のアセスメント

東京都立港特別支援学校 教諭 川上 康則

最近、子どもたちのつまずきを的確にとらえ、より精度の高い支援を行おうという機運が高まってきているのを感じます。一般的にはこれを「アセスメント(個人の状態像を理解し,必要な支援を考えたり,将来の行動を予測したり,支援の成果を調べること)」と呼んでいます。

ところが、教育という世界は(人間社会全般かもしれませんが)、先生、クラスメイト、学校組織といった人間関係の上に成り立っています。したがって「子どもをアセスメントすること」について語られるだけでは不十分で、担当教師をアセスメントすることや、さらには校長先生やコーディネーターの先生をアセスメントすること、学校全体の組織としてのアセスメントといった「大人のアセスメント」も同時に行わなければならないということになります。

先日、ある教育関係書籍の編集者の方から、「教育における花咲かじいさん」のお話を教えていただきました。灰で枯れ木に花を咲かせられる先生もいれば、そうでない先生もいる・・・。やはり、先生のアセスメントが必要なのではないでしょうか。忘れてはならないのは、教師も子どもも人間であって、同じ情報であっても個人個人によって異なる表現の仕方をするし、異なる受け取り方をする、という事実だろうと思います。

とはいえ、お忙しい時間を割いて先生方を検査の場に足を運んでいただくわけにもいきません。私が巡回相談でつとめていることは、授業中の先生の仕草や語り口調、準備された教材教具や教室環境の設定、座席の配置などから、「読み説く」という作業です。視線の動かし方、机間巡視の仕方、どんな発言を拾ってどう返すかなどから、先生の心理的洞察力を読み解くことができますし、教材や教室環境からは、子どもたちにどんな教育をしたいかという信条を読み解くことができます。

もう一つ、先生のアセスメントに欠かせない重要な要素として「ユーモア」を挙げたいと思います。子どもたちの心に和やかさの火を灯す人間術の一つと言い換えてもよいかもしれません。険悪な会議の場での機転の利いたユーモアは、会議進行上どれだけ役に立つか、多くの人が経験していることと思います。

教室で学習に真剣に挑もうとする子どもたちに、あるいは苦しさに真正面から取り組まざる得ない子どもたちに対して、期を得た先生のユーモアは、一服の精神的清涼剤の役割を果たします。なおかつ、それが子どもたちの無意識のエネルギー増加にもなるという事実を多くの先生方が経験していることと思います。ユーモアがなかなか感じられない先生の姿は、子どもたちには無意識的な圧迫感になるような気がします。

特別支援教育の考え方が進むにつれ、逆に子どもたちを甘やかせる風潮が強まることを心配される方もいらっしゃるかもしれません。研修のあとに、稀にですが、「苦しみを乗り越えてこそ、真の喜びがあるのではないか」といった内容の質問を受けることもあります。

確かにその通りかもしれませんが、同じ苦しみも泣きも、子どもにとって嫌悪に結びつくものであってはならないと思います。欲求不満の忍耐を強いて、逃避を煽り立てることだけは避けなければなりません。少なくとも、子どもたちが、「もっと取り組んでみたい」、そのための苦しさであれば正面から立ち向かっていこうとする意欲は、教師の心理的洞察力とユーモアによって支えられるものと思います。

あらためて言います。特別支援教育は、「子ども」のことだけを見直す教育ではなく、そこに関わる「人・もの・環境」にもう一度目を向け直す教育だと思います。

川上 康則(かわかみ やすのり)

東京都立港特別支援学校 教諭
障害のある子どもたちの指導に携わる一方、特別支援教育コーディネーターとして小中学校を支援してきました。教育技術の一つとしての「特別支援教育」を考えていきます。

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