2007.12.28
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薬害肝炎訴訟と政治決着から考えたこと

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭 岩本 昌明

 先頃、薬害肝炎訴訟の解決に向けて、福田首相により「一律救済」に向けた議員立法の方向性が出てきた(12月25日現在)。被害者の方々には朗報である。しかし、ほんの数日前には、舛添厚生労働大臣が政治決着は出来ないと言ったばかりなのに、どうしたことだろう。マスコミが世論を動かしたおかげであろうか。支持率低迷がさせた術(すべ)であろうか。本当に様々な要因が複合して功を奏したものと思われる。まだ中身がはっきりしていませんが、拙稿が公開される頃には、患者等の皆様には大きな一歩となっていることを願っています。

 さて、いくつか考えてみた。まず、新聞や週刊誌を始め、テレビなどのマスコミが大々的に「薬害肝炎被害者救済」にスクラムが組まれた。連日この件の報道がなされなかった日はないほどであった。薬事に関する許認可行政の姿勢が変わることを今後も期待したい。

 ただ私は、気になることがある。世の中には、マスコミに取り上げられず、行政(国)の不誠実さに置き去りにされていることが、実は山ほどあるのではないだろうか。似たような状況で前進できずに涙をのんでいる方々が本当は多いのではないのでしょうか。厚生労働省の薬事に関することでも、これはほんの氷山の一角ではないかと心配しております。するとマスコミは、さらに他の薬事に関する被害者や困っている方々の救済に向けて、頑張っていただきたいと考える次第です。良い意味で、マスコミが行政を変えることができます。もちろんマスコミだけに任せず、私たち国民がきちんとした判断力・批判力・意見を述べる力も付けるべきであるのです。

 「国の責任の明確化と謝罪は絶対に譲れない。」と訴訟団のある方が語ったと、地方紙で報道されていました。この言葉は、今回に限ったことでなく、他の事例にも応用できるのではないでしょうか。

 話は大きく飛ぶかもしれませんが、文部科学省の教育行政に目を向けてみたいと思います。教育行政に関して「国の責任の明確化と謝罪」を、今までどうして問うことが行われないできたのでしょうか。様々な提言や新しい施策がこれまで施行されてきました。一つ例をあげると「ゆとり教育」があります。でもこの総括は、一体誰の責任でどのように行われ、国民に謝罪などが行われたのでしょうか。いや行われていません。他にも例を挙げるとキリがありません。教育施策に「責任の所在」という概念がそもそも存在しないのです。

 今までにどの部局の課長や部長や審議委員会の会長なりが、自分らの答申した内容や施策を総括して、責任の所在を明らにしてきたでしょうか。確かに法案になった時点で、それは国会で承認されたことで、最初の言い出しっぺは、闇の中に隠れてしまい、誰かれと責任の所在はなくなります。これで良いのでしょうか。文部科学省は様々な統計をとり、調査し、原因分析などを非常に丁寧に行ってきています。学力問題についても同様です。他の国々との順位などを比較して公表しています。しかし、例えばある分野で順位を下げたことで、具体的にどの部署の誰か、減給になったり降格人事を受けたりしているでしょうか。社会保険庁のようにボーナスが支給されなくなったとか聞いたことはありません(そうすれば良いという意見ではありません)。

 私は、各種調査結果の公表だけでなく、国(文部科学省)の責任の明確化と謝罪も、近い将来求められる時代が来るのではないかと心配しております。国民の教育に責任を持っているのではないでしょうか。このように書いていますが、昨今、何に関しても『説明責任』やら『厳罰化』の流れに、正直私は息苦しさを覚えているのです。

 朝令暮改的な行き当たりばったりとも思える(そうでないと、当然反論されるでしょうが)施策に翻弄されてきた現場では、教師の「メンタルヘルス」に関する事例が増えてきています。教師の心身疾患率が高まってきています。どなたに・どこに、教員の患者は訴えればいいのでしょうか。心身疾患になった教職員は泣き寝入りをしているだけではないでしょうか。国や任命権者の県や管理職に責任の一端は全くないのでしょうか。薬害肝炎とは次元が異なるかも知れません。昨今の文部行政の施策により、教師ははっきり「多忙感」を訴えています。そして、身体は病んできています。文部科学省の施策は、どこから来るのでしょうか。文部科学省内の方々の考えだけとは思えません。これを読んでおれられる方々は、その背景に十分気付いていることでしょう。

 文部科学省が教員の増員を財務省に、20年度予算案として要求しました。それだけでもうれしかったです。しかし実現できませんでした。私たち教職員は、将来の日本を担う人材を育てるために、本当に献身的に仕事をしています。しかし、財務省は現状を打破するための増員を認めてくれませんでした。実はマスコミの方々には、次のこともしっかり伝えていただきたいのです。家庭を顧みることも十分せずに土日、祝祭日と学校の業務に追われている先生方が大半であることを。そして、心身ともに病んでいる先生方も救ってほしいのです。休み時間も十分取れず、トイレを我慢して膀胱炎になる先生も出たりします。健康診断でも異常が見つかっても精密検査に行く時間すら捻出できずにいる先生方が少なくないことを。

 教師が元気でなくては、生徒に良い指導や教育が施せません。教師が元気でなくては、その家庭も不健康になってしまいます。教師が元気をだせるためにも、教職員定数を一つ考えてほしいのです。これをいじるだけで実は様々な不合理や無理が改善されます。たとえば、学力問題や教職員のメンタルヘルス等です。ちょっと論理が短絡的でしょうが、言わんとするところをくみ取っていただきたいのです。教職員定数や文部科学省の予算にこそ、「政治決断」を願いたいと、私は個人的に思っています。予算案に関しての国会審議を見守りたいものです。

 また、教職員の給与も都道府県により若干の差異は認められるものの、ここ数年実質減額され続けています。歳を重ねるごとに逆に給与が下がり、仕事内容と責任が増えてくるパラドクスに本当に悩まされています。幸い今の文部科学省の中には、現場の困窮度合いに一定の理解を示し、何らかの方策が取れないかと孤軍奮闘しておられる良心的な方々も多くおられると分かっています。このままでは、新たに教職に就くぞと希望と使命感に胸を膨らませる有能な人材が本当に確保されなくなってしまう心配があります。そうすると将来の日本を背負って立つ人材が育ちません。行政改革という大義名分の下で、議論も十分尽くされないで、一方的に教職員調整手当が数年前に閣議決定されたということで廃止されます。私は、やりきれない思いで一杯です。

 私は一人でぼそっと呟(つぶや)いています。田中角栄さんのような政治決断をする総理大臣が教職員には求められているのかな。政治家の方々が、「小中高の先生方(恩師)のお陰で、今の現在の自分がある」と言っていただけないのかな。これは、私たち教職員への反省の意味を込めたメッセージなのかもしれないぞ。おっと、福田総理の機嫌を損ねて、現代版角福戦争となることは、私の本意ではありません。あしからず。

参考:
文科省「初中教育ニュース」http://www.mext.go.jp/
森 一生(福井県立丹南高等学校)メンタルヘルスの悪化が英語科教師のやる気に与える影響(1)(2)
http://www.celes.info/wakayama2006/index.html
http://www.celes.info/mie2007/Abstracts2.htm#Jiyu265
産業カウンセリングを考えるヒント
http://eap.sblo.jp/article/2405950.html

岩本 昌明(いわもと まさあき)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。

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