早いもので、今年も残りわずかとなりました。つれづれ日誌への記事掲載も、第20回目を数えます。今回は、学級における「見せる工夫」の事例を紹介します。
暗黙の了解の範囲、言わなくてもわかるはず・・・といった教師側の思いがなかなか伝わりにくい子どもたちにとって、見えないものを「可視化」してあげる教育的な手立てが必要です。以前、学びの場.comの「実践の場から」のコーナーでも、「知っておきたい特別支援教育の基礎知識」の特集を組んでいただき、そこでは「活用型の声のものさし」やトラブル場面で使用できる「コミック会話」、などを紹介しました。そんな「見せる工夫」の事例をたくさん紹介し、他にどんな工夫ができるか考えるといった研修も用意しています。
研修では、見せる工夫のポイントをお伝えしています。それは、「貼りっぱなしにしない(放置しない)」ということです。「声のものさし」や、「正しい姿勢」、「話の聞き方」、「机の中の整理のしかた」などの教室掲示はたくさん目にしてきましたが、それらの圧倒的多数が、年度当初に掲示しただけという状況にあります。普段の授業中や生活指導に活用されている気配はほとんどないというのが現状だろうと思います。そこで、身につくまで徹底的に使いこむ、身についたと感じたらはずしてみる、まだ定着していなかったら再度学習し直すといった「活用」が何より大切だとお話ししています。研修で紹介する事例も、そういった「活用の事例」ばかりです。
見えないルール、いわゆる集団内の暗黙知を視覚化し、みんなの「形式知」にする工夫は、発達障害の子だけでなく、クラスのほとんどの子どもたちにとって有効な行動の「ヒント」になります。
そんな思いを抱きながら、私もたくさんの活用事例に触発されてこんなものさしを作って紹介しています。名づけて、「タッチのものさし」! 接触するときの強さや、接触する部位、相手との距離の取り方など、暗黙の了解の範疇でとどめられることが多いため、それを可視化したものです(写真参照)。
タッチのレベル0は、誰にも触っていない状態です。授業中や給食時の基準になります。
レベル1は、しっかり握手。低学年の子の場合、遠足などで守るべき基準です。コミュニケーションの一般的な距離の取り方にも通じます。
レベル2は、少し広い面での圧のかけ方。(学年に応じた配慮が必要です。)
レベル3以降は、クラスの中で避けてほしいレベルで、くすぐる、つっつく、あたまをなでるなどです。レベル3のようなコショコショ・サワサワといったちょっと触れる程度のタッチは、不快な感触を与えることが多く避けたいタッチです。
レベル4は、不快度がさらに増す「ぶつかる」です。ただし、スポーツのときに故意でない場合など、互いに配慮しあうケースがあることも伝えます。
レベル5は、攻撃的な要素を含む「叩く・蹴る・引っ掻く・かみつく」などです。いざというときには自分を守る武器になりますが、通常の場面では最も危険なレベルになります。
子どもどうしのトラブルは接触する場面で起きることが多く、こんなものを使いながら触れ方・触れられ方・快適なパーソナルスペースの保ち方、などを学ぶ機会を作ったら、暗黙のルールの可視化ができるのでは・・・?と考えています。もちろんこれも貼りだすだけでは何の効果もありません。少なくとも1時間ゆっくりかけて、タッチのレベルを確認し合いながら「体で覚えるタッチの基準」を土台として作る時間が必要です。
偶発的におきるトラブルに際し、再度取り上げざるをえない場面があるかもしれません。そういった場面でも、ものさしがあれば「学習」ができます。基準が設定されていないがために学習しきれない「未学習」の状態や、自分一人での基準作りがうまくできず対人関係面の悪化を招く「誤学習」の状態に陥らないようにするには、こうした地道で継続的な取り組みが必要なのではないでしょうか。
ところで、こうした取り組みは子どもたちの世界だけの話なのでしょうか。私は、大人も含めた社会全体が積み残してきた喫緊の課題なのではないかと思います。ちょっと肩が触れた、一瞬足を踏まれた、といった接触場面でのトラブルが多いのは大人も同じです。むしろ、子どもたちの世界よりも、激しい怒りの感情を引き起こさせる場面が多いのではないかと感じるほどです。社会を築く役割の一端を教育が担っていることを踏まえれば、今まで以上に、意図的に仕組むべき学習内容なのではないかと考えています。
間もなく、新年を迎えます。学びの場.comの読者の皆様も、どうぞよいお年をお迎えください。
暗黙の了解の範囲、言わなくてもわかるはず・・・といった教師側の思いがなかなか伝わりにくい子どもたちにとって、見えないものを「可視化」してあげる教育的な手立てが必要です。以前、学びの場.comの「実践の場から」のコーナーでも、「知っておきたい特別支援教育の基礎知識」の特集を組んでいただき、そこでは「活用型の声のものさし」やトラブル場面で使用できる「コミック会話」、などを紹介しました。そんな「見せる工夫」の事例をたくさん紹介し、他にどんな工夫ができるか考えるといった研修も用意しています。
研修では、見せる工夫のポイントをお伝えしています。それは、「貼りっぱなしにしない(放置しない)」ということです。「声のものさし」や、「正しい姿勢」、「話の聞き方」、「机の中の整理のしかた」などの教室掲示はたくさん目にしてきましたが、それらの圧倒的多数が、年度当初に掲示しただけという状況にあります。普段の授業中や生活指導に活用されている気配はほとんどないというのが現状だろうと思います。そこで、身につくまで徹底的に使いこむ、身についたと感じたらはずしてみる、まだ定着していなかったら再度学習し直すといった「活用」が何より大切だとお話ししています。研修で紹介する事例も、そういった「活用の事例」ばかりです。
見えないルール、いわゆる集団内の暗黙知を視覚化し、みんなの「形式知」にする工夫は、発達障害の子だけでなく、クラスのほとんどの子どもたちにとって有効な行動の「ヒント」になります。
そんな思いを抱きながら、私もたくさんの活用事例に触発されてこんなものさしを作って紹介しています。名づけて、「タッチのものさし」! 接触するときの強さや、接触する部位、相手との距離の取り方など、暗黙の了解の範疇でとどめられることが多いため、それを可視化したものです(写真参照)。
タッチのレベル0は、誰にも触っていない状態です。授業中や給食時の基準になります。
レベル1は、しっかり握手。低学年の子の場合、遠足などで守るべき基準です。コミュニケーションの一般的な距離の取り方にも通じます。
レベル2は、少し広い面での圧のかけ方。(学年に応じた配慮が必要です。)
レベル3以降は、クラスの中で避けてほしいレベルで、くすぐる、つっつく、あたまをなでるなどです。レベル3のようなコショコショ・サワサワといったちょっと触れる程度のタッチは、不快な感触を与えることが多く避けたいタッチです。
レベル4は、不快度がさらに増す「ぶつかる」です。ただし、スポーツのときに故意でない場合など、互いに配慮しあうケースがあることも伝えます。
レベル5は、攻撃的な要素を含む「叩く・蹴る・引っ掻く・かみつく」などです。いざというときには自分を守る武器になりますが、通常の場面では最も危険なレベルになります。
子どもどうしのトラブルは接触する場面で起きることが多く、こんなものを使いながら触れ方・触れられ方・快適なパーソナルスペースの保ち方、などを学ぶ機会を作ったら、暗黙のルールの可視化ができるのでは・・・?と考えています。もちろんこれも貼りだすだけでは何の効果もありません。少なくとも1時間ゆっくりかけて、タッチのレベルを確認し合いながら「体で覚えるタッチの基準」を土台として作る時間が必要です。
偶発的におきるトラブルに際し、再度取り上げざるをえない場面があるかもしれません。そういった場面でも、ものさしがあれば「学習」ができます。基準が設定されていないがために学習しきれない「未学習」の状態や、自分一人での基準作りがうまくできず対人関係面の悪化を招く「誤学習」の状態に陥らないようにするには、こうした地道で継続的な取り組みが必要なのではないでしょうか。
ところで、こうした取り組みは子どもたちの世界だけの話なのでしょうか。私は、大人も含めた社会全体が積み残してきた喫緊の課題なのではないかと思います。ちょっと肩が触れた、一瞬足を踏まれた、といった接触場面でのトラブルが多いのは大人も同じです。むしろ、子どもたちの世界よりも、激しい怒りの感情を引き起こさせる場面が多いのではないかと感じるほどです。社会を築く役割の一端を教育が担っていることを踏まえれば、今まで以上に、意図的に仕組むべき学習内容なのではないかと考えています。
間もなく、新年を迎えます。学びの場.comの読者の皆様も、どうぞよいお年をお迎えください。


川上 康則(かわかみ やすのり)
東京都立港特別支援学校 教諭
障害のある子どもたちの指導に携わる一方、特別支援教育コーディネーターとして小中学校を支援してきました。教育技術の一つとしての「特別支援教育」を考えていきます。
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