2007.12.14
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先生の通知表から見えること

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭 岩本 昌明

先日期末テストを返しました。私は自分の採点ミスがないか確認するために、そして生徒らにテストの復習をしてもらいたいのを兼ねて、テスト直しを毎回行っています。テスト直しをして、時間が少し余ったので、小さい紙に次の項目で自由に記入させてみました。

1. 今回のテスト勉強時間とそのテスト勉強した内容を書きなさい。
2. 2学期の授業全体を振りかえり、100点満点で自分の採点をしなさい。
3.先生の授業を100点満点でつけなさい。

1番目は、生徒一人ひとりに、今回のテスト勉強の取り組みが、具体的にどうであったのか把握させるつもりで記入させました。テスト勉強時間は、平均1時間30分とでました。少しは勉強してくれたようです。まずまずと考えるべきでしょう。0分と15分が一人ずついて、残念でした。

2番目は、2学期の自分の授業態度などを振りかえさせるつもりで記入させました。私語が多かった生徒は、それなりに自分に厳しく45点と採点していました。が、100点をつけて全く反省の余地のない生徒も数人いて「どんだけぇ~」と感じました。

3番目は、正直勇気のいる質問でした。
0点とかが多かったらどうしよう。とハニカミ王子風に不安でした。が、幸い100点をつけてくれる生徒が数人いてうれしかったです。手前味噌かもしれません。ただ60点なども散見し、反省すべきことはあると考えさせられました。

でもこの数字は、一体どのくらい信頼性や妥当性があるのでしょうか。単なる興味本位的なものでしかないといえばそれまでです。

たとえば、100点満点で評価するように指示を出しました。でも、何か評価基準を生徒に与えていたわけではありません。どういう状態を100点にするのか、判断基準を全く生徒の主観というか気分に任せていました。この状態の数字に一喜一憂することはどうでしょうか。

確かに100点という数字は出てきました。でもどうして100点なのか分からないままです。教科担当者にちょっと媚びを売った部分もあるかもしれません。なぜならアンケート用紙に名前を書かせましたので、名前が特定されるので甘めに点数がつけられたのかもしれません。

この点数にいくらか信頼性や妥当性を含ませるために、たとえば点数の理由を記述させると、少し数値の信頼性や妥当性が高まるかもしれません。

不思議なことに、甘い点数付けがされたと分かっていても、単純に「うれしい」です。そして、「よし頑張るぞ」と私は「やる気」になりました。教師である私自身がそれを体感できたのです。

しかしながら、私たち教師は、生徒を評価するときに、減点方式で、罰的に評価してしまう傾向があります。これは少し改めるべきなのかもしれません。生徒を評価するときに、加点方法と減点方法のバランスが難しく、板挟みになりいつも頭を悩ませています。

さて、点数と言うと、最近発表された全国学力・学習状況調査の結果が思い浮かびます。県別で教科別に正答率が公表されました。市町村ごとは、各自治体の判断に委ねられています。私は、正答率を公表する、しないということよりも、正答率をどう私たちが分析できるのかという姿勢や考え方が逆に問われているではないかと考えています。

次のような発想をされる方は、多分いないと思います。
「うちの県別の順位が低いから、どげんかせんといかん」、「来年は1位を目指そう」とか、「5年以内に10位以内を目標にしよう」とか。

全国で47都道府県が存在するのですから、その中で1位から47位と順位が着くのは避けられないはずです。どこかが1位になり、どこかが47位になるのです。
また県ごとの教育への歴史的経緯やその他教育や学力に関係すると思われる要因も色々と違いがあります。他県との比較に力を注ぐより、その県の中での課題を明らかにし、調査結果を児童生徒の確かな学力の育成のために生かすことが大事ではないかと考えています。

マクロ的にもミクロ的にも、あくまで生徒児童が主人公であることを忘れてはならないのだと思います。今風に言えば、「正答率? 県別順位そんなの関係ねぇ。オッパッピー」でしょうか。

正答率という数字と県別の順位を競うことに何の意味があるのでしょうか。個人的には意味が見いだせないのではないかと思います。また正答率が80%を超える問題って、問題自体に疑問が感じられます。でも、分野や単元の理解度・習熟度・達成度等を見るという観点では、80%は意味をもってきます。

その数値を眺めると、得点の分布状況はかき消されていることを見過ごしてはいけないと思います。同じ60点の平均点であっても、上位層が少なく、60点付近に分布している場合と、上位層と下位層が分裂していて、中間層がない場合もあるでしょう。分布状況からすると、まだ前者の方が、後者より好ましいと言えるかもしれません。が、平均点が60点の場合では難しいかもしれませんが、上位層ができるだけ厚く、下位層が少ないのが理想です。

でも、平均点という数字では、このような分布の違いまでは分かりません。平均点が全国平均より良かったとか良くなかったということに目くじらを立てることもどうでしょうか。たぶん教育関係者はこの事情をよく分かっているはずです。しかし、相変わらずマスコミの報道がフィルターをかけて、一般の方々を煽動するので、読者や視聴者が、公平で冷静な視点で数字を眺めることを忘れてしまう傾向があります。私への通知表でも似たようなことが言えることでしょう。

大事なのは、数値には何が含まれているのかを、きちんと整理し把握しておくべきことかもしれません。また数値が「絶対ではない」ということも、共通理解にしておく必要もあると思います。

今回私は、生徒から通知表の評点をつけてもらいました。おかげで数字・数値というものに関して、鈍感力しかない私でも、生徒からは本当に素敵なクリスマスプレゼントをいただくことができ感謝しています。

私のささやかな願いは、彼ら彼女らが将来のネットカフェ難民の予備軍とならないように「やる気」を持って学校生活を送ってくれることでしょうか。

お詫び:(新語・流行語を無理に多用してすみません)

参考:〈特集〉全国学力学習状況調査『教委だよりNo.361』 富山県教育委員会

岩本 昌明(いわもと まさあき)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。

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