2007.11.15

鉛筆の持ち方と姿勢の微妙な関係

東京都立港特別支援学校教諭　川上康則

第17回目の記事になります。今回は、鉛筆の握り方が授業中の姿勢にどんな影響を与えるか、考えてみたいと思います。

最近、私がもっとも気になっているのは、正しい鉛筆の握り方ができていない子がとても多いことです。正確な数値は把握していませんが、巡回相談で小・中学校を回ってきた経験から言わせていただければ、少なくともクラスの２割以上、多いところでは半数以上の子どもたちは鉛筆を正しく握ることができていません。

子どもたちは、鉛筆の持ち方の正しさなどあまり気にならないのかもしれません。周りの大人（先生や保護者）も、書かれた文字が正確で形が整っているかのほうが重要で、鉛筆の握り方などそれほど大きな問題だと感じていないのかもしれません。ところが、これが授業姿勢や態度と大きく関係があるとしたら、いかがでしょうか。

確かに、鉛筆の正しい握り方（専門用語では「動的三指握り」と言います）ができていなくても文字を書くことはできます。ところが、そのことが原因で姿勢が崩れやすくなるという事実はあまり知られていません。

正しい握り方ができていない子の多くは、写真（上）のように親指の付け根で鉛筆を強く握りこむようにしています。そのような握り方をすると、手首を柔らかく使うことができません（読者の皆さんも試しにやってみてください）。そのため、きれいな文字が書きづらくなるばかりか、握っていることに疲れて集中が途切れやすくなります。

また、この握り方ではペン先が手の陰に隠れて見えません。ペン先を見ようとするために、身体を左に（左利きの子の場合は逆方向に）傾けて、横方向からペン先を見ようとします。姿勢が崩れるだけではありません。左腕が、身体を支えようとするために机上に大きく乗ってしまうため、プリントやノートの大部分のスペースが左腕に大きく隠れます。

この状態のまま書くためには、プリントを斜めに置かなければなりません。写真（中）のような、姿勢の崩れがさらに助長されます。姿勢が崩れれば、先生の言葉にも注意を向けにくくなるのです。

鉛筆を正しく握る（動的三指握りをする）には、実は、小指・薬指が正しく働いているかどうかが重要になります。手先を器用に動かすことができるようになるには、写真（下）のように、「固定する・支える・握る」といった支持機能を支える小指～中指までの3本と、「つまむ・動かす・操作する」といった操作機能を支える親指～中指までの3本（中指は重複しています）が、発達のプロセスで協応、分化している必要があります。小指と薬指をしっかり握りこめていることが、親指～中指の３本指の器用さを支えているのです。鉛筆、はさみ、箸･･･、３本指を操作する場面では、小指と薬指は無意識・無自覚的に握りこむ形になっているでしょう。鉛筆を正しく握るためには、鉛筆に触れる３本指以上に、鉛筆に触れていない小指と薬指が大切だと言えます。

対処療法的には、その場で鉛筆の握り方を修正してあげることが大切。根本的な対応を考えるとなると、うんていや上り棒、綱ひきなどの運動を設定しながら、小指・薬指を使う経験の乏しさを補ってあげる必要があると思います。

看過されてきた鉛筆の握り方･･･。乳幼児期に身体を使った遊びこみができない現代の子どもたちの発達課題の象徴だというのは言いすぎでしょうか。