2007.10.18
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教師の学びを支えるものとは

東京都立港特別支援学校 教諭 川上 康則

教育つれづれ日誌の執筆者のお一人である高柳新さんが、2007年10月9日付で書かれた文章「保護者懇談会を有効な場に」を大変興味深く拝読させていただきました。その記事での高柳さんの最大の主張は、教師はもっと保護者の方々の話を聞くべきだ、というもので、その一例として、保護者懇談会を挙げていらっしゃいました。保護者会を、教師側からの一方的な情報発信の場にとどめるのではなく、対話型で相互理解を深める機能を持たせることが大切だという主張には、とても説得力がありました。そして、「保護者に学ぶ」という私が日頃大切に感じていることを代弁してくださっているような気がして勇気づけられました。

教師の成長を支えるもの、すなわち「先生の先生」とは一体何なのでしょうか? 

教育委員会等が設置した研修、校長や副校長(教頭)からの助言、先輩教師からのアドバイス、教え子たちの学びの姿、所属校での学校研究、個人で行う読書、学校外での自主的な研究会、地域における社会的な活動・・・「先生の先生」はいくつも挙げられます。私が所属している研究会では、今夏(2007年)、「先生の先生」として影響力が大きいと感じられたものについて現職の先生方に意識調査をし、1989年に行われた調査と比較しました。

ちなみに、1989年の調査の対象は小・中学校の教師、2007年の私たちの調査の対象は特別支援学校の教師で、比較しやすいよう、設問と選択肢はほぼ同一にしてあります。調査年と調査対象の違い、調査方法に若干の違いがあることなどを考慮する必要があるため、単純な比較は厳に慎まなければなりませんが、同じ教師とはいえ、18年の時代の移り変わりと学校種の違いを如実に反映する大変興味深い結果を得ることができました。

まず、1989年の上位3位を見ると、(1)先輩教師のアドバイス(約56%)、(2)児童・生徒(約46%)、(3)同年代教師との交流(約35%)の順でした。当時の教師の成長を支える最大の要素は「学校」「教室」であったと言えると思います。

次に、2007年の上位3位を見てみます。(1)児童・生徒(約80%)、(2)先輩教師のアドバイス(約78%)、そして、(3)保護者(約57%)という結果になりました。全体的に数値が高くなっていることに加え、実に半数以上の教師が保護者から得るものを大切にしていることがわかりました。ちなみに、この「保護者」という項目は、1989年の調査では第8位、数値で表すと約3%の回答しか得られなかった項目です。

この結果は、私たちに2つの示唆を示してくれていると思います。

第一に、特別支援学校の教師は、保護者からの学びに大きなウェイトを置いています。これは、従来の盲・聾・養護学校の時代から家庭と連携を強めてきたことの証左でもあると思います。教師も保護者も、その子の発達や成長をともに支える支援者の一人という感覚が強いのかもしれません。保護者からの指摘や意見が指導上の重要なヒントになったという事実を、私も数多く経験しています。あらためて高柳さんのご指摘を踏まえれば、保護者の話に傾聴する姿勢が求められるということになると思います。

第二の示唆は、教師の成長を支える要素が「学校」、「教室」といったいわば従来型の枠組みを超え、校外の人間との協力や連携を背景とした新しい結びつきや学び合いが今後のキーポイントになるということです。私のような特別支援学校に勤務する教師が、通常の学級の先生方から相談を持ちかけられたり、研修を依頼されたりする時代が来るなどと18年前の調査時に誰が予想できたでしょうか。時代は大きく移りかわっています。保護者もまた、有用な意見をもたらしてくれる「先生の先生」になりうるということを改めて認識する必要があります。

保護者の方々との日々の関わりの中で注意したいことは、保護者の立場を「わかったつもりになること」と、教師側の意見を「わからせたつもりになること」です。保護者をモンスター呼ばわりしている自分こそが、実は社会からモンスター扱いされていたという事態だけは避けなければならない、と肝に銘じる必要があると考えます。

川上 康則(かわかみ やすのり)

東京都立港特別支援学校 教諭
障害のある子どもたちの指導に携わる一方、特別支援教育コーディネーターとして小中学校を支援してきました。教育技術の一つとしての「特別支援教育」を考えていきます。

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