2007.10.05
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怪我の功名?

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭 岩本 昌明

1週間ほど前に怪我をしました。右足の親指にヒビが入りました。40数年生きてきて、初めての怪我です。日常生活には基本的に影響がなく、簡単な湿布と隣の指を利用した固定で済んでいます。改めて自分は骨折などの怪我と無縁でよく生かされてきたものだと感謝しました。

小学生の頃までは体は丈夫ではなく、風邪はよく引きました。風疹や麻疹やおたふく風邪など法定伝染病には一応すべてかかりました。が病院で入院するほどの大病におかげさまで今までかかっておりません。逆に言えば、怪我や病気に対して慢心していたのかもしれません。

そんな私が、ヒビのお陰でサンダル履きで過ごしております。全治3週間です。季節がだんだん寒くなる頃、最初は涼しくて気持ちのよいものでした。これからは少々肌寒いものになると思われます。よく言われる事ですが、「失って知る、健康のありがたみ」を実感しております。

学校では一人サンダル履きをしていると、生徒たちが「先生どうしたの」と興味をもって尋ねてきます。怪我のことを言うと「お大事に」といってくれるので、生徒たちから優しい思いやりをいただいたと、元気になります。生徒からすると何気ない一声ですが、頑張らなくてはと「やる気」になります。教師をしていて嬉しいなと思います。

不思議と、体に不都合を覚えて生活をしていると、幼い頃に本当に両親(とくに母親)が親身になって、医者へ通ってくれたこと、病気の時に看病してくれたシーンがよみがえってきます。自分が今ここに無事生活を送ることができているのは、本当は両親のお陰なのだなとしみじみ味わっております。

残念なことに、病気の時に父親が何かしてくれたという記憶がないのです。今私は3人のこどもがいます。多分彼ら彼女らが成長をしたとき、子供時分の想い出はやはり母親だけなのかなと考えると少し寂しくなります。その分、父親としてできる役割は何かないものだろうかとも考えています。おっと話が予定した流れとずれていきそうです。

話を戻します。今私は怪我のお陰で、不都合な生活を送っています。でもお陰で、不都合でない時のありがたみに気付くことができました。学校での教育活動にも同じような状況が必要になっていないかということです。

生徒らに「不足している状況、満足でない環境」を恣意的に作って、その状態から脱出するために工夫を凝らし、考えを及ぼし、生徒相互に協力しあったりする場面や活動を作っているでしょうか。私たち教師が、知らず知らずのうちに、お膳立てをしすぎるように変化してきていないだろうかと思っています。確かに私たち教師を取り巻く環境が激変しており、悠長なことを言うなとお叱りを受けるかもしれません。

具体的に言うと、結論や結果ばかりを追い求める傾向が強いのではないかということです。
それは、英語では、英文の日本語訳を非常に知りたがります。が、どうしてこの英文が日本語のように訳せるのか、どの語句や句が日本語のどの部分に相当するのか。また英語と日本語の語順の違いをあまり意識しようとしないのです。

私も進度の関係で、時間を割いて生徒と一緒に考えないまま授業を進めることが多いと反省しております。

例えば、日本語訳例の中に空欄を作ってプリントで渡します。実は生徒は、どの英単語の意味が空欄で尋ねられているのか認識することができなくなってきているようです。そうすると、悲しいことに今度は、空欄に入れる単語をリストにして、プリントの下に印刷することになります。

別の方法もあります。空欄にした英文の部分に下線部を引いて、その意味を調べさせることで、単語の意味を確認させることもできます。しかし、この場合は、英語文の構造に今度は目を向けることができないのです。

本当はいけないのかも知れませんが、私もどんどん丁寧になってきて、生徒が苦労して日本語訳までたどりつける工夫をさせなくなってきているようです。こんな事ではいけないのかもしれません。

辞書1冊で、「時間は50分あるから、なんとかして日本語訳を作ってみなさい」ということでも体験させれば良いのでしょうか。そしてユニークな訳例を紹介しながら、英文を日本語にする面白さに気付かせることで、もしかしたら「やる気」が出てくるかも知れません。

ただ、英文を訳すことが英語の学習だけではないので、前時代的な指導にならないように配慮が必要なのでしょう。あくまで、英文が日本語にできないというような困難な状況であっても、自分の力でまたは友人と協力しあって、問題解決できるようになるという視点で作業をさせていくことが大事なのかも知れません。英語にこだわらず、「ことば」に対する感性を磨くこと、コミュニケーションの手段としての位置づけを忘れないようにもしたいと思います。

最近TV番組では、漢字力や日本語の語彙にかんするものを扱うようになってきました。このような番組が成立するということは、私たちが日本人であるにもかかわらず、日本語力が本当に怪しくなってきた証拠だともいえます。

お笑い芸人や若手のアイドルがいかに日本語の語彙を知らないのかと、面白おかしく放映してくれています。が中高齢の俳優さんは、さすがに台本などでしっかりとした日本語が身に付いているなあと解答を見ていてホットし、関心もしていいます。

あるテレビ番組では日本在住の外国人の方が、日本に関する質問をしあうコーナーがあり、七福神や七草粥を答え、更にその理由なども、非常に上手な日本語で解説しており、外国人の日本通の方が、返って私たち以上に日本の事や、日本語について知識があり驚かされることもあります。

最近は本当に携帯などの普及により、コミュニケーションが大きく変化していると心配しています。人と人とが音声の伴った会話をしなくても、メールなどで疎通もどきをおこなっています。このようなことで語彙がどんどん狭められているのではないでしょうか。

私たちの前の世代から私たちへ、そして次の世代に行くほど、確実に日本語の語彙が減少していくような心配をしています(実証的なデーターを持ち合わせていないのであくまで感想になっている点をお断りいたします)。

そうすると、この日本語を次の世代に伝承させるためにも学校教育で担うことが何かないかとも考えています。英語という外国語を通して、日本語の独特の言い回しや漢字を授業の中にも取り入れています。

例えば昆虫の単語centipede百足、dragonfly蜻蛉や、海に関する動物として、河豚、海豹、海豚、海獺の漢字(読みは文末に)と英単語や、魚編の漢字とその英単語など。

数字の入ることわざとしては、一石二鳥、一長一短、五十歩百歩、一期一会などと英語の表現を絡めたりもしています。ゲーム感覚ですが、日本語を楽しむような活動を工夫しています。

今、私の怪我をした右足は、しばらく動かしていないので、退化しています。今度は少しずつリハビリが必要になると思います。足の動きと同様に、私たちが失いかけている素晴らしい日本語も退化しないようにする取り組みを何か始めることができないかと思っています。
おっと、何はさておき、やはり健康であることが何よりですね。

(答)順に、フグ、アザラシ、イルカ、ラッコ

岩本 昌明(いわもと まさあき)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。

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