2007.10.04
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「リーダーでいたがる子」から読み取れるつまずきのサイン

東京都立港特別支援学校 教諭 川上 康則

つれづれ日誌の第二期が始まりました。前回の掲載分では、なんとなく終わりのような雰囲気で文章を閉じてしまったので、二週間後に再登場するのも変な感じですが・・・。二期制の学校であれば、今回が「後期の始業式」、と心を新たにして臨みたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

さて、本題に入ります。今回は、「リーダーになりたがる、リーダーでいたがる子」を取り上げたいと思います。

クラスの中の気になる子が良い方向に変わっていくためには、(1)その子自身の成長、(2)教師や保護者の関わり方の適切さが必要ですが、それらと同様に、(3)問題となる行動が起きにくいクラス環境の構築が重要な要素になります。せっかく(1)や(2)の要件が整ったとしても、(3)のクラスの雰囲気が台無しにしてしまうということが往々にして見られるからです。ここに、通常学級で特別支援教育に取り組む場合の難しさがあると思います。

埼玉県所沢市の教育委員会に所属し、多くの学校や学級の支援をされている阿部利彦先生は、つねづね、支援対象児への直接的な支援もさることながら、まず何よりも「学級の雰囲気づくり」が最優先だというお話をされています。というのも、多くの場合、本当に支援が必要な子の周辺に、その子に大きな影響を及ぼす子の存在があるからです。わざと刺激してからかう子や、不適切な行動を真似する子、などがそれにあたります。

からかいの表舞台にはなかなか登場しない賢い子の存在も忘れてはいけません。阿部先生の整理を引用すると、「興奮しやすい子をわざと興奮させておいて、その子がパニックになると速やかにその場から立ち去る。そうすると、教師が駆けつけた時、さもその子だけが一人で騒いでいるかのような状況がつくりだされる。中学生くらいになると、自分でそういう状況をつくっておきながら、教師の前ではパニックになっている生徒をなぐさめてみたり、かばうような発言をしてみせたりする巧妙な生徒が出てくる」(以上、阿部利彦、「いいところ」応援計画のすすめ、月刊障害児教育2007年6月号、pp.6-15、より引用しました)。阿部先生の講演会では、こうした子はクラスの中の「影の司令塔」として紹介されます。

「影の司令塔」は、クラスの中ではリーダー格で、先生からも一目置かれる存在であることが多いようです。先生方の目が節穴だというつもりは毛頭ないのですが、巡回相談で先生方とお話をすると、「まさか彼(彼女)が・・・。そんなことをする子じゃありません」といった返答が少なくありません。

私が見てきた限りでは、影の司令塔の「芽」のようなものは、幼児期から確実に表れていると思います。自分がコントロールしやすい子たちを選んで、親友と呼び、リーダー的に振る舞う。同学年の中では比較的口が達者で、困っている子の気持ちを代弁しようとしたり、トラブル場面の状況を本人に代わって説明しようとしたりする。自分の得意分野を武器に、テストをもちかける。先生の目にはそんな様子の表面的な部分しか目に入らないので、お兄さんお姉さん的な立場だと認識し、頼りにしてしまう。保護者の目にも、同学年の子たちと比較して「しっかり屋さん」に映る。こんな様子が見られることが多いと感じています。

自分の立場を維持したい、自分のペースを守りたいというのは、つまずきの一つのサインです。リーダーになりたがる、リーダーでいたがるというのも、本当は支援が必要な子の示すサインなのだと改めて認識する必要があります。少なくとも、前々回の「言葉よりも先に手が出てしまう子」から読み取れるサイン Part2、で示したのと同様に「感覚(特に触覚)の使い方のつまずき」が潜在している可能性が高いと思います。自分のペースを乱されたくないことを、知的発達の高さ(賢さ)でカバーしているのだと、私は理解しています。

影の司令塔に育つ前に、早めにその子のサインを見抜き、あなたの頑張りどころはそこじゃないんだよ、とやさしく教えてあげる必要があります。そして、具体的に頑張りどころを示してあげることが大切です。プライドが高い場合も多いでしょうから、頭ごなしに叱らず、じっくり話を聞きながら、ゆっくりと時間をかけて周りと折り合いをつけることを学ばせるというのがポイントになるでしょう。周りが認める頑張りどころでしっかり頑張ってくれた時に、「頼りになる存在」としてよい評価を伝えることも重要だと思います。

通常学級での特別支援教育の取り組みは、現在のところ、二極化しているように思います。特定の子だけに焦点を当てようとするあまり、クラスの中でできる支援が限られてしまい、先生が苦しむパターンと、学級経営や授業改善などに役立つ方略ツールとして特別支援教育のノウハウを活用し、少しずつ先生や学校全体が自信を取り戻すパターンです。前者がまだまだ多い今、阿部先生の提言は非常に重要だと言えるのではないでしょうか。

川上 康則(かわかみ やすのり)

東京都立港特別支援学校 教諭
障害のある子どもたちの指導に携わる一方、特別支援教育コーディネーターとして小中学校を支援してきました。教育技術の一つとしての「特別支援教育」を考えていきます。

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