2007.07.13
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高等遊民か晴耕雨読か

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭 岩本 昌明

 夏休みが間近となった。私が、教師の道を選んだ理由の一つは、ここだけの話だが「夏休み」があったからだ。数年前までは、本当に夏休みが待ち遠しかった。日頃できない読書やまとまった時間を使うことでできる教材研究など、「あれもしたい、こんなこともやってみたい」と、豊富な(?)アイディアに溢れていた。しかし、現在は事務的な些末な作業に忙殺される毎日で、生産的な教員生活とはほど遠いものとなっている。それは、本来教員に認められている自宅研修が、最近有名無実化してきたことも原因の一つだと考えている。

 大学時代は、もう大昔の話だが、何者にも拘束されず本当に自分で自由に使える時間があり、夢のような時代だった。今から思えば、贅沢な時間の過ごし方をしていたようだ。もっと計画的に充実して有意義に別の時間の過ごし方もあったかもしれない。今更後悔しても仕方がない。

 一つ自慢できることは、毎年夏休みに個人全集の読破にのめり込んで、誰とも付き合いを絶ち、一人下宿に籠もっていたことである。4年次は卒論があったため、1~3年次で、岩波書店の夏目漱石と芥川龍之介、筑摩書房の太宰治を読破した。何を覚えているのかと問われると情けないことに何もない。しかしながら、私の体に目に見えない血肉と化している何かがあるのではと、変な自信をもっている。現在私の乱雑な部屋には、モーム全集・小泉八雲全集・ダニエル・デフォー全集・小林秀雄全集・柳田國男全集・シェークスピア全集・ウォッツ・ダントン全集等が、いつか読まれることを願って埃を被ったままになっている。が、悲しいことに予定はない。

 さて、私たち教師が、いろいろな意味で「ゆとり」を失っては、生徒・児童にどうして楽しい夏休みを送らせることができるのであろうか。生徒の時間を管理・拘束するかのような課題や宿題を準備し与えることが当たり前になってしまっていないだろうか。うだるような夏日のような中、空調施設もないところでの補習やら補講やらといった授業を無理矢理設定していないだろうか。小中では、授業日数確保・学力低下防止という変なお題目のもと、夏休みの日数が減らされ、2学期の始業式が8月下旬になる郡市も富山では出てきた。ぼーっと自由または有意義に過ごす時間を子どもたちに与えてはだめなのでしょうか。

 夏休みにカブトムシや昆虫採取に野山を駆けめぐること、海や川で1日中釣りや魚捕りをしていたりすること。好きな絵を描いたり、工作などにじっくり納得できるまで何日も使っても良いのではないでしょうか。また、長期にわたる旅行をしたりしても良いと思います。

 何年か前にテレビ番組で企画されていましたが、北海道から鹿児島まで自転車で何日間もかけて縦断した小学生もいました。例えば、私の住んでいる富山から自転車や鈍行列車で太平洋側まで横断してもいいではないでしょうか。

 一方数学や算数の問題を1000題やってみたり、漢字のワークを100ページ取り組んだりしても良いではないでしょうか。部活動三昧であっても良いと思います。

 私が言いたいことは、日常と異なった何か充実して自分にとって成就感があるそれぞれの夏を各自が計画し、実行に移してみてほしいのです。このことを生徒らに願い期待するのであれば、教員にも相応の夏休みがあってしかるべきだとも言いたいのです。

 過去数年、ある報道番組で、教師の夏休みのあり方が非常に杜撰なことを指摘し取り上げ問題視していました。そのことが契機となり、教師を取り巻く夏休みの労働環境は非常に息苦しいものに変わってきたと実感しています。

 いろいろな批判が行われ、様々な見方はあると思います。ある特定の地域のそれも一部の一面的な部分を作為的に誇大化してしまい、実は、教師の特性や教師としての幅を全国一律に抹殺してしまっているのではないかと心配しています。繰り返しになりますが、このような流れが、目の前の生徒・児童への対応に少なからず波及・影響してきているのではないでしょうか。教師にも「高等遊民」的、「晴耕雨読」的な弾力的な夏休みを復活させていただきたいものです。

 私の生徒らも2学期の始業式には、「先生、あのね。」と、夏休みの想い出や出来事をたくさん持ち寄って、いきいきと輝いた表情で教室に戻ってきてくれることを楽しみにしています。

岩本 昌明(いわもと まさあき)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。

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