2007.06.14
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「授業中の手遊び・足遊びが多い子」から読みとれるサイン

東京都立港特別支援学校 教諭 川上 康則

第6回目の記事になります。今回は、授業中の手遊び・足遊びが多い子が示すサインについて取り上げます。

巡回相談の依頼で、「授業中の注意が持続しない」という相談内容はとても多くの割合を占めます。その中には、動き回っているとか、おしゃべりが止まらないというような興味・関心の転じやすさを含むこともありますが、今回取り上げるのは、「目的をもった行動がなかなかできない」という要素が強い子どもたちです。

授業中の様子を拝見させていただくと、確かに先生や黒板に注目する時間が短く、席についてはいるけれど、机上の文房具で遊んだり、ノートに落書きをはじめたり、教科書のページは授業と関係ないところを開けていたりと、いわゆる「手遊び」をする時間が圧倒的に多いのに気づかされます。また、足をブラブラさせたり、机の両サイドにかかっている体育着の袋を蹴ったりといった「足遊び」をする子もいます。椅子を後ろに大きく傾けて、椅子の足を2本にした状態で「傾き遊び」をしている場合も、手遊びと同じ状況だと思ってよいと思います。今はこれをするのだ、という行動を抑制する機能は次第に成長していくものですが、学年相応に育っていないと、授業中の注意の持続時間の短さが目立つようになるようです。

こうした授業中の手遊び・足遊び・傾き遊びの多くを、私は「自己刺激的な行動」として分析します。自己刺激的な行動とは、自分の身体の感覚に何らかの刺激を加えて、それを楽しんでいる状態のことをいい、半ば無意識的に行われます。明確な課題設定場面ではそれほど出ないのですが、ただ聞かされている、何をすべきかよくわからない、つまらない、興味がないなどの場面で出やすいという特徴があります。

「感覚への何らかの刺激」とは、どんなことをいうのでしょうか。例えば、鉛筆かじり。これは、歯やその周辺の筋肉にかかる鉛筆の反発力、手にかかる触覚的な圧力を無意識的に楽しんでいます。椅子を使った傾き遊びであれば、揺れや傾きを感じる感覚(前庭感覚といいます)と、それを調整しようとおしりやおなかの周囲の筋や関節の位置を調整しようとする感覚を使って楽しんでいる状態であることを把握します。机のサイドにかかった体育着の袋を繰り返し蹴っていると、蹴ったときに足に伝わる感覚と、振り子のように袋が戻ってきて足にあたる感覚を、循環的に味わっている状態になります。

こうした自己刺激的な行動の多くは、あまり周りに迷惑をかけないため、先生から見過ごされがちです。しかしながら、子どもたちも無意識的に行っていることが多いため、その状態から自分の力で抜け出すことがなかなかできません。

自己刺激的な行動は、子どもたちの示すサインの一つです。授業内容が難しい、何をすべきか明確でない、ただ聞かされているだけなので退屈・・・そんなことを訴えかけているのだと理解するとよいと思います。

対応の方向性は2つあります。1つ目は、何をすべきか“明確に”示すこと。先生が明確に示したつもりであっても、その子たちに伝わらなければ示したことになりません。時には言葉だけでなく、文字や図にして示すこと、近くで手をとってあげることも必要でしょう。自己刺激的な行動は課題設定場面では出にくいので、その子が自分に課せられた「課題」であると感じる工夫が大切です。そのための机間巡視も工夫の一つになります。

2つ目は、今している活動(特に、先生のお話)を早々に切り上げるということです。授業で「聞かされる」時間が長いのは、ただでさえ退屈なものです。自己刺激的な行動は、特別な支援が必要とされる子どもたちに出やすいのですが、それを見逃したまま授業を進めると、他の子どもたちもはじめ出します。切り上げ時を見きわめて、早めに対応することが必要です。

先日、東京・有明にて開催された「NEW EDUCATION EXPO 2007 in 東京」の特別支援教育のセミナーに参加させていただきました。その中で、講師の阿部利彦先生(所沢市教育委員会)が、
(1)特別支援教育は特別なことではない。
(2)これまでやってきた丁寧な指導こそが特別支援教育。
(3)個別指導の前に学級経営が前提。
という3点を強調されていました。

今回取り上げた自己刺激的な行動を「サイン」の一つとして見直すことは、丁寧な指導の出発点になるのではないでしょうか。

川上 康則(かわかみ やすのり)

東京都立港特別支援学校 教諭
障害のある子どもたちの指導に携わる一方、特別支援教育コーディネーターとして小中学校を支援してきました。教育技術の一つとしての「特別支援教育」を考えていきます。

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