2007.05.31
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特別支援教育コーディネーターとして

東京都立港特別支援学校 教諭 川上 康則

第5回目のつれづれ日誌になります。第2回目から第4回目まで、「気がかりな子どもたち」の困った行動が、実は何らかの“配慮”を必要としているサインであることをお伝えしてきました。今日は、そんな子どもたちを支える推進役である「特別支援教育コーディネーター」についてお話しします。

前述のとおり、学習面・行動面・対人関係などでこれまで「問題視」されてきた幼児・児童・生徒の多くが、実は「支援を必要としている」子どもたちであり、平成19年4月1日からは、幼稚園、小学校、中学校等においてもこうした子どもたちへの対応を“適切に”行うように学校教育法が改正されました。(幼児も含まれているというのがポイントです。(1)早期から気づいてもらえること、(2)周囲につまずきが正しく理解されること、(3)適切な対応を受ける機会が増えること、そして、(4)卒業・入学・進学などの節目の度に担任本位で対応がまちまちになることを避けることなどが期待されています。)

とは言っても、クラスの担任の先生や、教科の担当の先生方にとっては、「実際にはどうやって関わっていけばよいかわからない」とか、「その子だけに特別なことをしていたのでは、残りの子どもたちへの指導がおろそかになる」と言った悲鳴にも似た感情を抱かざるをえないというのが実情のようです。

私の立場は、そうした子どもたちを支援する人(担任の先生、児童館や学童保育の先生、保育士さん、場合によってはその子の保護者も)を支援する専門家です。回りくどい言い方ですが、直接子どもたちと関わるのではなく、大人たちに見方や関わり方を情報提供する立場です。「気がかりな子」を抱えて苦悩する大人側が、適切な関わり方を身につけて、元気を取り戻して子どもたちと向き合えるようサポートします。したがって、子どもの様子ばかりを見るのではなく、大人の関わり具合も拝見させていただいています。そして、「先生ならこういうことができそうだ」と具体的に、すぐにできることからお伝えします。(継続的に支援が必要な場合には、数回訪問させていただいています。)

「適切」と思われる支援の多くは、旧来の障害児教育が長い年月をかけて培ってきた教育技術やツールやハートの中に、ふんだんに包含されています。私の仕事は、それらをできるだけわかりやすく翻訳し、教室で、児童館で、ご家庭で・・・、それぞれの場所において実現可能なやり方に置き換えて提案することです。

勤務校である港養護学校の学区域は、港区・品川区・目黒区・渋谷区です。その区域の特別支援教育センター校として教育委員会より指定を受けており、要請があれば、巡回相談とそれに基づく情報提供、研修や講演の実施などにうかがっています。学区外からの要請をいただくこともあります。その場合も初回はできる限り依頼をお受けし、早い時期に当該区域の適切な支援者に引き継げるように顔つなぎをします。

ところで、「今年度からスタートという割に、やけに手際がよいな」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。実は、平成15年3月の答申「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」を受けて(先進的な事例においてはもっと以前から)、特別支援教育のもつ可能性に早くから着目していた自治体や学校はそれぞれ独自に取り組みはじめていましたから、今年度からの全国一斉スタートと言っても既に学校間・自治体間で大きな格差が出ているのが実状です。

その学校間格差という重荷を、背中にずっしりと感じて悩んでいらっしゃるのは、実は小・中学校の特別支援教育コーディネーターの先生方なのではないでしょうか。全ての小・中学校においても、その学校の先生(保健室の先生も含む)の中から原則として1名以上指名されることになっており、学校の特別支援教育推進の中心的な役割を果たしています。しかし、(1)必ずしも専門的な知識を持っているわけではないし、(2)他の先生方が協力的でなかったり、(3)問題を一手に押しつけられてしまっていたりするコーディネーターの先生が少なからずいらっしゃいます。「なんとかしなければ」という思いとは裏腹に、担任をしながらコーディネーター業務もこなさねばならない・・・。苦労は並大抵のものではないでしょう。

そうした苦悩の解消の一助になればという思いで、私はそのコーディネーターの先生と一緒に「校内研修」の中身を精選します。

例えば・・・

担任間で特別支援教育のとらえ方について差が大きい場合には、「発達障害の疑似体験」を行い、みんながそのつまずきに気づくことができるようにします。

「すぐに役立つ指導法を!」と安易に求める傾向が強い先生が多い学校では、「関わり方、関わられ方の疑似体験やロールプレイング」を用意して、今している指導の見直しから求めます。

「個別の指導計画」の作成がなかなか進まない学校の場合は、「保護者面接のロールプレイング」を行い、書面に残して確認することの意味に気づいてもらうようにします。

そして、管理職の先生がそれほど特別支援教育に積極的でない場合には、学級経営・集団指導に役立つ支援の方法をお伝えします。

今日のまとめです。私は、大学の教職課程において、「教壇に立ったら初日からプロだ。甘えは許されない」と教わりました。よほどの自覚と覚悟が必要だということを伝えたかったのだろうと思います。また、今でもそのように教えを受ける大学生が多いのではないかと推察します。しかし、そうした教えが、教師として困っていることを同僚の先生などに相談しづらい状況に陥らせる危険性もあるのではないかと心配してしまいます。根拠のない指導が、かえって「気がかりな子」の困った行動を悪化させてしまうといった結果をもたらすことも決して珍しいことでありません。

あらためて言います。特別支援教育とは、「大人たちも困っていることを素直に伝えられ、それに応えてくれる人が身近にいる教育」なのだと思います。
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川上 康則(かわかみ やすのり)

東京都立港特別支援学校 教諭
障害のある子どもたちの指導に携わる一方、特別支援教育コーディネーターとして小中学校を支援してきました。教育技術の一つとしての「特別支援教育」を考えていきます。

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