2007.05.04
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学校行事から見えてきたこと

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭 岩本 昌明

5月1日は、海洋高校の生徒たちが富山湾に飛び込む恒例の「日本海開き」の日であった。これは、本校が昭和26年から毎年行っている伝統の行事である。今年で57回目を迎えることとなった。水温12.5℃で、気温16℃、雨天のあいにくの天候であったが、生徒たちは、元気よく(?)海に飛び込んだ。(注:写真は昨年度のものである)
学校の正門前に3年生から整列し、正午の花火を合図に、学校近くの高月海岸まで500mほど走って移動した。海岸に到着し、再び花火の合図で、間隔を置いて、まずは学年ごとに3年生・2年生・1年生と海に飛び込み、次に1年から3年の全体でもう一度、海に飛び込むのである。最後に校歌を歌い、たき火を囲んでご褒美のココアを飲んで冷えた体を温める。言い方を変えれば、とにかく5月1日に海に2回飛び込むことをやっているのである。では正午まで何をしていたのかというと、男子は相撲、女子はビーチボールバレーを学年対抗や班対抗で行い、この正午に備え志気をたかめていたのである。
今回の行事に限ったことでないが、実は学校行事に対する生徒らの意識が近年変わってきていると感じている。反面私の方も生徒らとずれが大きくなってきたのではないかと恐れている。
思いつくままであるが行事に関して考えてみた。全体として「行事」そのものへ積極的に参加しようとする姿勢がやや乏しくなってきた。勉強はあまり得意ではないが、「行事」になると元気な生徒というのが、以前はいたが、現在はほとんど見かけなくなってきた。それはつまり「みんなで」や「団体で」何か一つのことをやろうとすること、または、このような団体活動に入ることを苦手または抵抗を感じる生徒が目立つようになってきたからでないかと思う。そのため、行事の日になると保護者からの欠席連絡がいつもの日より不思議と多くなる。本人が行事に参加する気持ちが乏しいだけでなく、実は保護者が子どもの逃避傾向を容認してしまうこともあるからだ。これでは学校としては、お手上げになってしまう。
さらに、行事一つとっても、生徒たちが、その意義や目的等をきちんと理解し納得できないと、なかなか行動に移そうとしない傾向もでてきた。例えば海に飛び込むだけの「活動」に、いろいろと理由を付けて、なんとかせずに済まそうとする。「風邪気味で、足をすりむいたので、朝からお腹がいたいので」等である。私は個人的には「…だから」という理由で行動しないのでなく、「…だけれども」行動する人になってほしいと願っている。
このために事前にその活動内容の連絡だけでなく、生徒らが取り組みを起こすような啓発に担任や担当部署がエネルギーを注がなくてはならなくなってきた。要するに生徒がさせられているという意識で参加するのでなく、主体的に能動的に楽しみを感じながら参加するようにし向けるようにするのが必要になってきたのである。行事の内容や手順や準備といった《ハード》の部分が出来ていれば良かったのが今までの学校行事であった。これ対して、現在は、参加する生徒のメンタルな部分、いわば「やる気」といった《ソフト》の部分にも配慮していかなければならない。一つの行事を達成させるためには、事前の時間や取り組みが今まで以上に必要になってきた。
私は、生徒の手前もあり、老体(?)にもむち打って、毎年、日本海に飛び込んできた。だから毎年の海水温の冷たさを覚えている。今年は昨年よりは温かいと感じた。遠泳に挑戦した十数名の生徒らの後ろに、足首だけを濡らして「うわぁ冷たい!」と悲鳴を上げていた男子高校生がいた。心の底で「なんて情けない、根性のない」と思う一方、首の筋違いで全治2週間と言われたが、頑張って参加した生徒の存在や、NHKの取材に、「冷たかったですが、気持ちが引き締まりました」と体を震わせながら答えた男子生徒から、まだまだ海洋高校生も捨てたものでない、「よし私も頑張るぞ」と元気をもらった。
どんなに冷たくても、雨風があっても、5月1日は海に飛び込むのが、やはり海洋高校生らしさであるという共通体験・経験を大事にしたい。このように行事の意義や目的や大切さや良いと思うことは、今すぐに答えが出ない傾向があるのかもしれない。しかし、何年後か何十年後かに「憧憬や懐かしさや想い出」という形できっと華咲くことを期待したい。
「伝統」や「先輩たちが作り上げてきた」行事に対して、現在の生徒たちになんとか「誇りや自信と自負」を持たせ、良き後継者・伝承者とならんとすることも、恒例の行事の基礎・土台として大切で忘れてはいけないことであると、私は考え直すこともできた。
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岩本 昌明(いわもと まさあき)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。

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