「できる喜び」をおしつけていませんか?
教師である私たちは、子ども達に、わかってほしいと思う。出来る喜びを味わわせたいと思う。その思い自体は、何も間違っていないと思います。でも、どうしても出来ない子って教室にいるんです。出来ない子に出来る喜びを味わわせたくて、必死になることもあります。特に算数科の技能面や低学年の学習においては、そういったことも必要でしょう。ただし、結果主義に陥ってはいないでしょうか。
「できることが良い」ということの反面は、「できないことは情けなくて恥ずかしいこと」という理論になり、子ども同士の関係に序列もつくってしまいがちなのです。
「100点はまだとれないけど、学ぶって楽しいな。」
「みんなと考えて、話をして、そんな時間が心地いい。」
そんな風に感じられる授業こそ、生きる力に繋がるアクティブラーニングではないでしょうか。
「あなたの授業」をおしつけていませんか?
年に1度やるかどうかの研究授業。たくさんの先生方に見られるこの機会。「実のあるものにしたい、子どもの力を引き出したい、いい授業にしたい、子どもにいきいきと話をさせたい、ノートも丁寧にかいている姿を見せたい・・・・」教師の思いはつきません。
すべて子どものためにという大前提ですが・・・ちょっとまった!本当に子どものためですか?あなたが教師としてよく見えるように良い授業をしたいと思っていませんか?自覚がない人、上記のような複数の思いを持つことは、実は、あなたの授業をおしつけていることになるんです。
鉄則は、「シンプル IS BEST」
子どもの思考によりそうなら、鉄則は、シンプルIS BESTです。
このつれづれ日誌にも、以前この鉄則で組み立てた授業を紹介しました。
どちらも、シンプルな授業づくり、単元構成にすることで、おのずと子供達は動き出し、思考を動かし、自ら学ぼうとするアクティブな授業になるというものです。
今回は、算数科5年「面積」の実践を紹介します。
数値もマス目も与えない、面積の授業
5学年の面積の学習では、既習である面積は単位正方形(1㎠)の幾つ分で表すこと、そこから導き獲得した正方形・長方形の面積の公式を使って、角が90度ではない図形の面積について学習していきます。三角形、平行四辺形、台形、一般四角形です。
教科書会社によって、平行四辺形から学習をスタートする単元構成と、直角三角形からスタートする単元構成があります。それぞれの意図があり、教科書比較をすることで、その意図も見えてきますので、ぜひ、使用教科書以外の教科書会社の教科書を取り寄せて比較研究することをお勧めします。指導書をみるより、格段、自分の指導観につながることでしょう。
さて、この単元、よくあるのは、方眼の上におかれた三角形や平行四辺形を、等積変形(長方形や正方形など既習の形にかえる)し面積を求め、公式につなげるという流れです。
つまり、未習の図形を与えられ測定→求め方を一般化(公式)→次の未習の図形の測定→求め方を一般化→・・・と続きます。
できるようになるとは思います。しかし、面積を求める時に、何が大切で、もし、仮に、面積の公式がわからない図形にであったとき、対応出来る子になるでしょうか。
測定してすっきりしたら、考え方を一般化したいと思うでしょうか?
そこで、未習の図形にとりかかるときに、いっさい数値も方眼も与えない面積の指導を行いました。
「先生!直角辺や!直角辺を見つけたらいい!」」
導入の直角三角形の面積の求め方を考え、次に一般三角形の求積を考えた時のことです。
直角三角形では、1㎠の単位正方形が並ぶために、2枚あわせ、後で、÷2をします。
一般三角形でも同じように2倍をして÷2をします。
子ども達は、数値を与えられていないので、ことばを駆使します。
「これが、長方形のよこ、たては、直角の長さがたての長さになる。よこ×たて÷2でわかる。」
「三角形の真ん中にあるのに、“たて”っていうのもなあ。」
「直角が大事やねん。」
「そうそう、直角になっている辺が、たてになるねん。」
「なんか、名前つけよう。」
「直角辺!!」
「それいい!!直角辺にしよう!」
そして、よこ×直角辺÷2ということばの式でまとめ、実際にそれが本当か、測定をしました。
この直角辺という言葉、もちろん、次の時間の平行四辺形の求積の時には、高さということばに置き換え、算数の用語を指導しました。
「高さってなんか難しいなあ。」
「直角辺が高さやん。」
テストで、高さと底辺以外の辺に数値を与えると、斜めの辺なのに高さに当てはめて計算してしまう子がいると思います。
自分たちでつくった「直角辺」という認識は、この高さの概念を支えることとなりました。
つまり、私は、子どもの活動と思考をシンプルにするために、数値を与えず、言語のみで求積方法を考えさせ、その後に本当にそれで求められるかという実験を行わせました。
数値と考え方をいったりきたりしていては、何をしているのかわからなくなるのです。
子どもの思考は、そういうものです。
しかし、教師の方は、数値を与えず、子どもが、言葉だけで、求積方法を考え、説明できるの?と不安になるかもしれません。
それは、教師の指導観の甘さです。
子ども達に、「面積は単位正方形の幾つ分」だという認識を持たせ、その基本に常に立ち返るようにさせる教師の指導観が大切です。
めあても活動もシンプルにすれば、おのずと子ども達は、自分たちの言葉で動き出すのです。
このときは、台形の面積求積を公開授業にしました。もちろん、数値なしで、考え方のみの授業です。公式化する時には、教師が正しい言葉を指導することが必要ですが、もし、台形の公式を忘れても、自ら求積しようと前向きに考える子に育てたい、そんな一心で、単元を構成、そして指導しました。
学ぶことは、生きること
だから、いつも私は、単元のゴールを「できる、できない」ではなく、「単元のゴールの姿は、生きる姿」と思い、単元構成をしています。
分からないことに出会ったときに、既習の知識を総動員させ、協同的に周りと関わりながら、解決し乗り越えていく、もし、今、解決出来なかったとしても、でも、みんなで話ができたこの時間がとても楽しかった、心のどこかにこの課題をもちながら、前向きな姿勢ですすんでいく。
学び方こそ、生き方であると思います。
今、アクティブラーニングが叫ばれていますが、「そんなこと、当たり前やん!」と思います。

松井 恵子(まつい けいこ)
兵庫県公立小学校勤務
兵庫県授業改善促進のためのDVD授業において算数科の授業を担当。平成27年度兵庫県優秀教職員表彰受賞。算数実践全国発表、視聴覚教材コンクール特選受賞等、情熱で実践を積み上げる、ママさん研究主任です。
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