2016.02.24
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海外で教師をするということ

広島県公立小学校 教諭 中村 祐哉

 日本人学校等学校採用教員内定者オリエンテーション

 本年2月中旬に国立オリンピック記念青少年総合センター(通称:オリセン/東京都渋谷区)で行われた,『日本人学校等学校採用教員内定者オリエンテーション』(主催:海外子女教育振興財団)で,来年度から日本人学校等の在外教育施設で学校採用教員として勤務することが内定している先生方に,自らの海外勤務経験をお話させていただく機会に恵まれました。

 今まで,説明会等の講師は何度かさせて頂いたのですが,内定者オリエンテーションでは初でした。

 130名近い内定者の先生方を前に,自らの日本人学校における海外勤務経験を元にご質問にお答えしたり,現地の様子を話したりする中で,私自身が「海外(在外教育施設)で教師をするということ」に関して改めて感じたこと・考えたことを今回の日誌に綴らせていただければと思います。

 

 海外勤務経験を語る上で明確にしたいこと

 私が日本人学校での海外勤務経験をお話させていただく上で明確にしたいこと。

 それは,『海外勤務』と『海外留学』・『海外旅行』との違いです。

 『海外留学』は,自らの意志のもと,母国を離れて希望する国で語学・技能等の学びを深めることにあります。もちろん,そこに学位や修士といったものもが付帯されることもあるでしょう。世界を自分で確かめようとする意志ある素晴らしい行動でもあると言えます。

 『海外旅行』は,普段生活している自らの生活時間軸から抜け,非日常の時間軸に出ることです。

 そこに,新たな経験や体験(見聞)・癒しを求めて,人は旅をします。とても価値ある時間の使い方だと感じています。

 私は,バックパッカーでした。例えば,私の専門とする社会科/地理的分野なら,子どもたちが学習の対象となる地を訪れることが難しいならば,教師がその大地を踏みしめ,自分で確かめ,肌でその地の空気を感じ,考えたことを教材にしていくということは,子どもたちへの教育にとって,とても大切なことだと思っています。

 教師も経験していないことを,教壇で本を開きながら話すのでは,学習する社会的事象の本当の意味や意義,それらに関わる意図を子どもたちに伝えきることはできないし,アクティブ・ラーニング要素のある課題を提示し,共に考えていったとしても形ばかりが先行する浅いものとなってしまうのではないかと感じています。もちろん時間軸上の歴史的事象など,困難な部分はあるのですが,だからこそ,できるだけ出向いて経験したいと,今でも思っています。

 

教師のあなたを必要とする子どもたちが世界中で待っているということ

 では,日本人学校等の在外教育施設における『海外勤務』とは。

 よく考えてみると,こんなことに気がつきます。

 日本人学校に通う子どもたちは全員が,保護者の仕事の関係で在外教育施設に通っています。

 つまり,「留学生」ではなく「海外子女」なのです。

 普段,日本に在住している子ども自らが望んで,異国である日本人学校の幼稚園や小学校・中学校へ行きたいから,保護者が海外移住をしたということはまずありません。ということは,日本人学校に意気揚々と嬉しい気持ちで転入する子どもは,ほとんどいないということなのです。

 日本の学校を離れ,友達と別れ,涙を拭ってその国に来ています。そして,その国のあなたの担任する教室に立っています。

 だからこそ,そこに立つ教員は,

 「泣いてここ(日本人学校)に来る子は,泣いて日本に帰る」

 にしてやるべきだと強く感じています。

 涙を拭って日本を発った子どもを,今度は,日本にいた以前と同等,叶うならばそれ以上の環境を日本人学校で、そして自らの担任する教室でつくってやることが,海外で勤務する意義のすべてなのではないでしょうか。

 日本人学校を去る時は,今度もその寂しさで涙が溢れてしまう。そんな学級経営力が必要なのです。

 つまり,教師自らの志だけではなく,子どもたちのそれだけの気持ちや思いを受け止めきる覚悟と技量が必要だと感じています。

  海外で教師をするということ。それは,そこに教師のあなたを必要とする子どもたちがいるからなのです。

 

 さて,次回は,3月15日(火)の更新になります。第15期~第18期まで,約2年間にわたって連載で筆を執らせていただきました「教育つれづれ日誌」ですが,次回が連載最後の更新となります。お時間ありましたら次回も何卒よろしくお願い致します。

中村 祐哉(なかむら ゆうや)

広島県公立小学校 教諭


「社会科教育」「国際教育」「ESD」をメインテーマに,日々授業実践と研究に取り組んでおります。拙い教育実践ではありますが,共に学ばせていただければ幸いです。

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