2016.02.15
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「不登校」を防ぐためにできること

帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師 鈴木 邦明

最近、不登校の実態に関するデータが公表されました。

 

・1990年頃と比べると人数は倍になっている。

・2014年度に新たに不登校になった子どもは約6万5千人で過去最高。

・2014年度の不登校の子どもの数は約13万3千人で、前年度より約3千人増加。

 

その後、新聞やSNSなどで様々な意見が出されていました。

SNSでは、次のような意見がいくつも見られました。

 

「今は技術が発達しているから、嫌な思いをしてまで、学校に行って学ぶ必要はない。」

「不登校になるのは、親や社会などが甘いからだ。もっと厳しくすればいい。社会はもっと厳しいのが現実だ。」

 

こういった極端な主張はどちらも子どもを取り巻く現状を十分に反映していないと感じます。

確かに以前と比べ、ITなどの発達により、新しい形での学びが盛んになってきています。

私自身も通信制の大学院で現在学んでいます。

講義は、ほとんどのものがネットワークを使って、受講することができます。

研究室の担当の先生とは、SNSやスカイプなどを使い、情報のやり取りをしながら、研究を進めています。

また、後者の意見にあるように今の子ども(若者)は、以前と比べ、揉まれていないという印象を受けます。

社会全体が便利になり、苦労や努力をあまり体験しないまま子どもが育つ状況となっているとも言えます。

 

そういった考えも理解した上で、小学校の現場で子ども達と接している立場としては、もう少し問題は複雑なのではないかと感じています。

非常に複雑で難しい社会である現在の日本で生きている子ども達は、単に学校に行くことが出来ていれば良い訳ではありませんし、学力が付いていれば良い訳でもありません。

高度な所で、バランスが大切であり、質の高い教育とは、そういったものが適切に保たれているものなのではと思います。

 

不登校に関する問題は、原因が一つではありません。

 

・学校(教師)の多忙化による子どもへの対応の質の低下

・ITなどの発達による子どものコミュニケーション能力の低下

・教師の質の低下

・親の質の低下

・地域コミュニティーの崩壊

・公教育に掛ける税金の少なさ(教職員数の少なさ、生活保護など) など

 

上に挙げたようなものが原因で問題が発生している状態が、不登校の状態なのではと思います。

問題の解決には、どれか一つを解決すれば良い訳ではありません。

絡み合っているものを一つ一つほぐしながら、整えていくことが必要でしょう。

学校現場においては、できることとできないことがあります。

できないことを嘆いていてもあまり建設的ではないので、できることに取り組むことが賢明でしょう。

具体的には、次のようなものが挙げられます。

 

・縦割り活動などの異年齢交流の活発化

・学校間(幼保と小、小と中)連携の強化

・学校行事の精選などによる学校のスリム化

・ソーシャルスキルトレーニングなどの導入によるコミュニケーションスキルの育成

 

また、他人任せではあるのですが、「政治の決断」というものにも期待したいです。

総理大臣や文科大臣が決断し、強力なリーダーシップを発揮すれば、日本の教育現場はあっという間に変わります。

「組体操」がその例です。

この数年、研究者や医師が組体操の危険性を指摘しながら、文科省は特に動いていませんでした。

それが、先日このことが国会で話題になり、文科大臣が決断した(国会答弁:「重大な関心をもって、文科省として取り組まなければならない」)ところ、潮目が変わったようになっています。

今年度末までに文科省としての方向性を示すとされています。

大阪府教委では「ピラミッド禁止」の通達が出ているそうですし、この流れでいくと、来年度は、全国的に「組体操禁止」ということになるようです。

 

不登校に関しても、現在行われている以上のことを、政治が危機感を持って、強い決意を持って取り組んだら、多くの問題は解決できるように感じます。

 

学校における不登校は、その後「引きこもり」へと続き、大きな社会問題となる可能性を秘めています。

単に学校教育の問題のみならず、社会福祉にまで影響を与える問題です。

学校だけでなく、様々な機関が連携し、子どもにとってより良い状況となるよう取り組んでいくことが望まれます。 

鈴木 邦明(すずき くにあき)

帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。

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