9月14日から16日にかけて埼玉県熊谷市において合計で6人が殺害されるという事件が起こりました。
私の勤務校があるのは熊谷市の隣の深谷市なのですが、自宅は熊谷市にあります。
殺害事件は合計で3件起こったのですが、いずれも私が住んでいる所から車で5分程の所でした。
知り合いも住んでいる地域で、娘が習っているお茶の先生の家のすぐそばには、犯人が潜んでいたそうです。
知り合いの教員の自宅も殺害事件現場のすぐそばでした。
また、亡くなった小学生が通っている学校には、知り合いの教員も勤めています。
事件の起きた日は、街中でパトカーを見かけ、道路の規制などから渋滞も発生していました。
数日経ち、状況が少し落ち着き、事件の概要が見えてきたこの時期に、この事件を振り返ってみたいと思います。
「情報共有」「安全への配慮」「弱者との関わり方」という3つのテーマで考えてみます。
一つ目は「情報共有」についてです。
今回の事件では、警察と市役所の情報共有の不十分さなどが指摘されています。
事前の取り決めでは、こういった情報は、警察から市役所の防災担当に文書で伝え、それによって防災無線での注意喚起が行われることになっていたそうです。
しかし、手違いなどで、今回は、警察から市教委に口頭で連絡が入ったのだそうです。
その結果、学校への注意喚起は行われたのですが、防災無線での広い範囲で市民への注意喚起は行われなかったとのことです。
これは、学校におけるトラブル発生時の情報共有においても参考にすべき部分だと思います。
学校においては、不審者侵入、地震、火事、子どものケガ、いじめなど、様々なトラブルが想定されます。
事前にマニュアルなどが作成されているのですが、トラブル発生時には、焦りなどからマニュアル通りに動けない可能性があります。
今回の事件もそういったことに当てはまるのかもしれません。
マニュアル作成だけでなく、如何にマニュアル通りに動くことができるのかということを訓練で行っておく必要があると感じさせられました。
二つ目は「安全への配慮」についてです。
基本的な暮らし方として「施錠をする」などの安全への配慮ということも重要なのではないかと思われます。
都市部でないエリアでは、玄関の施錠をしていないことが日常的な場所もあるようです。
地域コミュニティが親密であることなどが理由なのですが、昨今の日本の社会状況を見ていると、施錠が必要なのかもしれません。
また、不審者との関わり方などを学んでおく必要もあるでしょう。
物理的な距離を置くことによって、相手から捕まることを避けることができます。
CAP(Child Assault Prevention:子どもへの暴力防止)などのプログラムを実施している学校もあるようです。
子どもが自分の身を守る実践的な方法を学ぶことが大事となるでしょう。
三つ目は「弱者との関わり方」についてです。
今回の事件は日本の社会(日本人)が「弱者とどの様に関わるか」という問題でもあったのではないかと思います。
今回の事件は、ペルー人という外国人に対する問題、出稼ぎに来ている日系人に対する問題、精神的に病んでいる人に対する問題、経済的に困難な人に対する問題、家族が犯罪を犯した人に対する問題など、社会的な弱者に対する難しい問題を沢山含んでいます。
どこかの時点で、きちんと、しっかりと対応することができていれば、このペルーの若者を犯罪者にすることはなかったのではないかと感じます。
その結果、殺される人も出なかったのではと思います。
社会的弱者に関する問題が複合的に組み合わされてことによって起こってしまったのが、今回の事件なのだと感じます。
熊谷市のある埼玉県北部、その隣である太田市、大泉町、伊勢崎市などのある群馬県南東部は、日系人などの多いエリアです。
そういった人たちが、景気の悪さから難しい状況に陥っているという状況があります。
帰国した人も多いようで、以前よりは、そういった人が少し減ったように感じます。
社会のしわ寄せが、弱者である人たちの所に出ていると言えるでしょう。
彼らがきちんと暮らすことができるように対応する必要があると思います。
これは、外国人や日系人だけでなく、日本人の問題にも関わりがあると感じます。
非正規労働者、貧困の連鎖などの問題です。
現在の日本は、大企業は儲かっているけれども、そのしわ寄せが、中小企業、非正規労働者などに出ている状況とも言えます。
学校も同様でしょう。
公立学校は社会の縮図なので、様々な意味で厳しい状況にある子どももたくさんいます。
具体的には、経済、障害、家族、国籍、宗教などに関するものです。
難しい問題を抱えている子どもをしっかりと支え、健全な育ちへとつなげていくことが学校には求められます。
学校だけで支えられないものは、行政、地域、医療などと連携し、進めていくことが大事になります。
そういった支えが十分でない場合、不良行為、犯罪行為、引きこもり、家庭内暴力などの非常に難しい問題へとつながってしまう可能性が出てきます。
幅広い意味での社会的弱者とどの様に関わっていくのかということを突きつけられたのが、今回の事件なのではと思います。
今回の様な悲しい事件が今後起こらないことを願います。

鈴木 邦明(すずき くにあき)
帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。
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