2015.08.11
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「長期的視点」を持つことで日々の子どもとの関わりの質を上げる

帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師 鈴木 邦明

  

私は今年で教員になって21年目になります。

横浜市の小学校に採用され、1校目で6年間、2校目で8年間、その後、今勤めている埼玉県深谷市の学校に移り、7年目になります。

途中で、神奈川県から埼玉県へ移ったこともあり、受け持った子どもとの関わりはそれ程多くはありませんでした。

勿論、受け持った子どもが働いている場面を見たことは一度もありませんでした。

今回、自分が受け持った子どもが仕事をしている場面を初めて見ました。

教育における長期的な視点の大切さを改めて感じる出来事となりました。

 

受け持っていた子どもが働いている場を見たのは、宇都宮で行われていたクラフトビアフェスタ2015においてです。
18年前に5年6年と担任をした子ども(今はもう30歳ですが)が自分で作ったクラフトビールを出品すると聞いたからです。

 

実は今回ビールを作っていた彼とは色々と縁があります。
私の娘と彼のお母さんが関係しています。
私の娘は現在、中二です。
その娘が産まれる時、妻が入院していた病院に彼のお母さんが勤めており、様々な形でフォローをしてもらったのです。
本当にありがたかったのを今でも覚えています。
そういったことがあり、いつか恩返しをしたいと思っていました。
自分の娘にも「人との縁の大切さ」を伝えたかったですし、勿論、彼にも感謝と激励の言葉を伝えたいという思いでした。

 

宇都宮の中心部にあるビアフェスタの会場へ行ってみると、なんと彼のお母さんもいらっしゃいました。
私の妻や娘と一緒に昔話をすることができました。
彼は、私が小学校の教員になって担任した子ども達では、上から2番目になり、初めての卒業生でもあります。
一番上の人たちは30歳を少し超えた位です。
自分が教えた子どもが社会の中でしっかりと仕事をしているのを見たのは今回が初めてでした。
その日の彼は、多くの人に支えられ、かわいがられながら仕事をしていました。

そのクラフトビアフェスタには、彼が自分で作ったビールを出品していました。

クラフトビアとは地ビールとも言われるもので、製造者が様々な工夫を施しながら作る少量生産のビールのことです。

その彼は、数年、クラフトビアの工場兼店舗で修業をし、自分で企画し、作ったビールをコンテストに出せるようになったのです。
昔から、「社会で役に立つ人になるように・・・」と言ってきましたが、それを具現化している姿を目にすると何とも言えない感情になりました。

 

 

学校で子ども達を見ていると、どうしても短期的な視点が多くなってしまいます。

以前にも書いた数値目標を設定することなども短期的な視点が多いものです。

今回、自分が教えた子どもが働いているという場面を目にし、長期的な視点の大切さを改めて感じました。

目の前にいる子どもの5年後、10年後、30年後を考え、その子どもに関わることが大事であろうという事です。

長期的な視点でポイントの1つになってくるのは「職業選択(学校選択も含め)」だと思います。

その子どもが「どんな仕事に就くのだろう、就くことができるのだろう」という視点を教師が持つことで教師の日々の思考が変わってくるはずです。

 

これには、全体的な面と個別的な面があると思います。

全ての子どもに関わる面としては、「時間を守る」「提出物を出す」などがあると思います。

そういったことができないと、社会において信頼されない人になってしまいます。

他に良い能力を持っていたとしても信頼されない人は社会では役に立てません。

また、それぞれの子どもで個別な面としては、その子どもの「個性」「性格」「能力」「趣味」などと大きく関わりがあります。

簡単な例では、大雑把な感じの子どもは銀行員には向きません。

きっちりと一円単位まで合わなければならない仕事なので、細かく、几帳面な人の方が向きます。

同様に手先が不器用だったり、大雑把である人は外科医にも向きません。

半年程前に群馬大学附属病院で手術の失敗によって患者が何人もなくなるという出来事がありました。

後から出てきた情報によるとその医師はあまり手先が器用でなく、手術が上手でなかったそうです。

手先が器用でないなら、外科医でなく、精神科や皮膚科など他の選択をすることもできたと思います。

手先が器用でない人が、外科医になったことで、本人も、周りの人も不幸になってしまいます。

このようにその子どもの特性を意識し、それに合った関わりをしていくということが教師には求められます。

小学生位までに作り上げられたその子どもの性格、特性というものは、基本的には生涯に渡って大きくは変わらないと思われます。

それなので、将来を考え、職業選択を考える際、その子どもの性格を「より良く生かす」ということを考えたいです。

先ほども上げた、得手不得手もそうですが、その子どもの性格を良い方向から見るということもあります。

例えば、少し元気があり、はしゃぎ過ぎで怒られることが多いような子どもについて、悪い見方をすると、落ち着きがない、騒がしい、冷静さに掛けるなどと捉えることができます。

逆に、良い見方をすると、場を盛り上げる、勢いがある、明るいなどです。

将来や職業選択を考えた際、その子どもの性格の良い面が生かされるように意識したいです。

そうすることで、本人も周りも楽しく、充実した人生を送ることができる可能性が高くなります。

また、この事を私は、保護者にも積極的に伝えています。

子どもの進路や職業選択には保護者が大きな影響を与えています。

その保護者に対して、その子どもの良さが生きるような学校選択、職業選択を意識してもらうのです。

進路選択の場面で、子どもは自分の事なので真剣に考えますが、時に視野が狭くなりがちです。

そういった時に、保護者が適切なアドバイスを送ることで、上手くいくことも多くなると思います。

 

教師は、子どもが目の前にいる時(担任をしている時)だけに責任があるのではありません。

少し遠くを見るような視点が、教師の資質を上げるような気がします。

それは、漢方薬のようなものかもしれません。

漢方薬は、西洋医学の薬のように劇的に効くのではなく、少しずつ、じわじわと効き、長い時間をかけて体質改善をしていくものです。

教師が視点を変えることで、「教育観」を少しずつ変質させていくことにつながるかもしれません。

 

先日、私の高校時代の恩師に私の授業を見てもらいました。
その時も本当に感謝や嬉しさ、自分の至らなさなど様々な感情を抱きました。
今回の教え子の仕事ぶりを見た際も、その時とはまた少し違った様々な感情を抱きました。

 

人との縁に感謝です。

 

これからもより良い教育をしていきたいと改めて思いました。

 

良い夏の一日でした。

皆様も素晴らしい夏をお過ごしください。

 

 

 

これまで書いた文章に関連したものがあります。

お暇で興味のある方はお読みください。

 

希望のある未来にするために今教師ができること 

厳しい指導 是か非か

小学校において長期的な視点をもつことの大切さ

人生を振り返ることとなった授業研究会

鈴木 邦明(すずき くにあき)

帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。

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