1学期が終わり、いよいよ夏季休業日に入りました。最近では、いじめや体罰など様々な教育問題が話題になっていますが、問題解決の力を付けていくためにも、教員の資質を高めていくことが大切です。そこで、今回は教育現場の課題から、実践に当たり求められる教員の資質について考えてみたいと思います。
現場の課題から
「6.5%」という数値を見ると、ピンと来る方も多いかと思います。平成24年に文部科学省が実施した「通常学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」では、通常の学級において6.5%の子どもたちが特別な教育的支援を必要としていると報告されています。この結果については、平成14年の調査における6.3%という報告からそれほど大幅な増加は見られません(調査対象や方法等からや同じ調査として捉えるには注意が必要ですが)。
一方で、東京都の調査結果を見ると、特別支援学校に在籍している児童・生徒数は年々増加傾向にあり、新たな学校や教員の確保が課題として挙げられます。また、団塊の世代の大量退職に伴う教員の確保という課題も加えると、教員の量と質の担保が現場における大きな教育課題であると言えるでしょう。
では、実際の教育現場ではどうでしょうか?
障害者の権利に関する条約「第24条 教育」においては、教育についての障害者の権利を認め、個の権利を差別なしに、かつ、機会の均等基礎として実現するため、障害者を包容する教育制度(inclusive education system)等を確保することとし、その権利の実現に当たり確保するものの一つとして、「個人に必要とされる合理的配慮が提供されること。」を位置付けています。
この合理的配慮の提供として考える事項としては「ア 教員、支援等の確保」、「イ 施設・設備の整備」、「ウ 個別の教育支援計画や個別の指導計画に対応した柔軟な教育課程の編成や教材等の配慮」が挙げられています。
これらの項目において、制度や施設など個人の力ではなかなか変えられないモノもありますが、指導者として自分自身の振り返りから変えていけるモノもあるのではないでしょうか。
自分の力を客観的に分析してみる
組織を変えることは大変な時間と労力が必要ですが、個人は自分自身の在り方で確実に変化していきます。そこで、自分の実践力について、客観的に振り返ってみることが必要になってきます。また、その際には、何を基準に振り返りをしていくかが重要です。
例えば、子どもたちの成長や自分が尊敬する先輩との指導の違いでも良いですし、一緒に頑張っている同僚と協議をするという視点などもあるでしょう。しかし、他者と比較するだけでなく、自分自身に対する絶対評価が大切だと考えます。
木村順先生(2015)は、著書「発達支援実践塾講座」において、専門職としての理解力&実践レベルを7段階に設定し、その到達段階について理解力や実践力を運転免許に例えながら解説をしています。
レベル0は、「その用語や子どもの状態像、指導方法について、初めて聞いたレベル(運転免許で言えば無免許)。」
レベル1は、「その用語や状態像、指導方法について名称だけしか知らない(自動車教習所に通い始めたレベル)。
※該当する分野で、レベル0と1は意図的な実践は始まらない。」
レベル2は、「その用語や状態像、指導方法について、断片的(曖昧)にしか知らない(仮免許レベル)。
※意図的な実践が始まるが、「誤解・曲解」もしてしまいかねない。時に、デッド・ボールを投げてしまいかねない。」
レベル3は、「その用語や状態像、指導方法について、全体像がわかるが他者への解説は難しい(ようやく免許取得レベル)。
※ようやくこの子のストライクゾーンに球を投げることができる。おおむねヒットを打たせることができる。」
レベル4は、「その用語や状態像、指導方法について簡単になら他者に説明できる(ようやく二種免許レベル)。
※このレベルで初めて「保護者への丁寧な&適切な語り」ができる。ヒットのみならず、ホームランを打たせる指導ができる。」
レベル5は、「その用語や状態像、指導方法について的確に報告書が書ける(二種&大型特殊免許)」
レベル6は、その用語や状態像、指導方法について、講義や実技講座の講師ができる(自動車のみならずパイロット免許レベル)。
※「研修会」や実技講習会の「スーパーバイザー」は、レベル6が必要。」
私たち教育現場にいる人間は、経験年数が長くなるほど指導の経験は積み重なっていくと言えます。ただ、ここで大切にしなくてはいけないのは、「時間を積み重ねることが重要なのではなく、どれだけ試行錯誤しながら取り組んだ時間があるか」という視点ではないでしょうか。
「知的障害とは?」、「発達障害とは?」、「特別支援教育とは?」、「子どもの発達とは?」
普段当たり前に使っている言葉の一つ一つを丁寧に確認することで、新たに見えてくるものがあるように思います。私自身、この段階表で自分の知識や実践を確認していくと、まだまだ勉強が足りないと感じることがよくありますが、皆さんはどうでしょうか?
著書の中では『指導者として、様々な問題を抱える子どもたちと向かい合う覚悟をしたならば、ぜひ、「レベル3」を一つの目標として、それ以上の実践力を身に付ける努力をしていきたいものです』と結ばれています。日々の子どもたちとの関わりの中では、経験から判断するだけでなく、理論に基づく根拠をもって、第三者にも説明できるようにしていくことが、ひいては実践力を高めていくことにつながるのでしょう。
研修を課題解決に結び付ける
長期休業期間は、これまでの指導記録の整理や新しい教材の作成など、じっくりと授業準備ができる良さがあります。しかし、それだけで終わらせてしまうのは少し勿体ない気がします。机上業務の時間の割合が増えるわけですから、新しい知見や多様な価値観に触れるにも良い機会ではないでしょうか。
夏季休業日においては、学校ごとに様々な研修が実施されると思います。このような研修会では学校の研究テーマに沿った研修などがあり、講師として招かれている専門家の先生の講話を聞くことや校内研究による研究協議など、有用な研修であると言えるでしょう。ただ、そこで一つ考えなくてはならないのは、その研修の内容は、「自分自身が捉えている課題と一致しているか」ということがあるのではないでしょうか。もちろん、無駄な研修など一つもありません。どんな研修においても受講者がどのようにその研修を受け止め、生かすかにかかっています。しかしながら、「直接的な課題とマッチしているか」という視点では、必ずしもそうではないこともあるでしょう。
例えば、国語の授業について課題意識があったとしたら、算数の指導方法の研修よりは国語の指導方法の研修を受ける方がより実用的な側面が強くなるでしょう。よって、自分で有用な研修を探す努力が必要になっていきます。研修は与えられるものではなく、自分に有用な研修を探すこと自体もリサーチ力を高めるトレーニングになっていきます。
「職場の研修と受けたい研修が一致していない」といった話を伺うこともありますが、無ければ自分で補う習慣をつけていくことは、研修に限らず授業準備などにもつながる資質の向上につながっていくでしょう。
教員にも成功体験を
子どもたちに向けて「褒めて育てる」というキーワードをよく耳にします。コツコツと積み重ねた学習の成功体験が自信につながり、次の学習の意欲へとつながっていきます。 このことは、教員についても同様のことが言えるのではないでしょうか?
遅くまで残業することの是非には触れませんが、必死に計画した授業計画や作成した教材で、子どもたちの反応がいつもより良かった時は、大きな喜びを感じることがあるでしょう。
そして、研究授業を行うに当たり、指導案を何度も修正し、なんとか研究授業を終えた時に「今日の自分は頑張った」と自分を褒める気持ちがあって良いと思います。そのような経験をさせてくれた子どもたちや同僚に感謝を忘れなければ、着実に実践力は高まっていくことでしょう。
一方で間違った指導の成功体験が体罰につながるとも言えます。「自分は厳しく指導されてきたから」、「あの時強く注意したら、子どもがおとなしく言うことを聞いたから」といった自分が受けた指導の経験や実践の経験において、誤った指導の認識が結果として負の指導の連鎖を生み出し、新たな体罰につながっていく危険性があります。
だからこそ、厳しさを「指導の当たりの強さに求める」のではなく、教材研究といった「自己研さんに求める」ことが、大切なのだと考えます。ただ、何事もほどほどが重要です。自分や子どもたちに厳しくするだけでなく、自分や子どもたちを許せることが大切ですね。そうやって子どもたちと共に育っていくことが、教員の仕事の醍醐味であり、面白さだと思います。
私たちは、子どもたちに授業を介して様々なことを教えつつ、逆にたくさんのことを教えてもらっているはずです。そういった相互の学びについて、この長期休業日を生かし、改めて見直すことで、これまでとはまた違った視点から、次の指導のヒントが見えてくるかもしれません。
梅雨が明け、暑い夏が始まります。
気持ちを切り替えてファイトです!!
参考文献
・木村順(2015)、「発達支援実践講座 支援ハウツーの編み出し方」、学苑社

綿引 清勝(わたひき きよかつ)
東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard)
東京都内の知的障害特別支援学校で中学部、高等部を経験後、現在は小学部の自閉症学級を担任。自身の実践を振り返りながら、子ども達が必要としている支援とは何かを考えていきたいと思います。
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